バレーボール男子世界選手権(世界バレー)の日本代表は予選ラウンドで姿を消した。世界ランクでは格下のトルコ、カナダにストレート負けで連敗し、呆気なく夢は破れることになった。

「期待外れ」

 そんな論調は否定できない。東京オリンピックでベスト8、ネーションズリーグは3位(2023年)、2位(2024年)とメダルを獲得し、パリ五輪も準々決勝でイタリアと激闘を演じてのベスト8だった。世界ランクも5位で、"少なくともベスト8"という空気が生まれていたし、「準々決勝でポーランドを越えたら表彰台が見える」と勝手に見込んでいた。選手だけではない。ファンもマスコミも同様だ。

 しかし、その"強者の甘さ"が日本の精巧で粘り強いバレーを狂わせたのかもしれない―――。

【男子バレー】世界バレー予選敗退の真相を探る コートで「ごめ...の画像はこちら >>
 初陣となったトルコ戦、実は立ち上がりは悪くなかった。強者の精神がポジティブに出ていた。小野寺太志のクイックやブロックが決まり、髙橋藍がストレートに打ち込み、石川祐希がバックアタックで躍動、宮浦健人が両手プッシュ、ブロックアウト、エースを決め、とにかく多彩だった。

 しかし、9-6とリードされたトルコがたまらずタイムアウトを取ったあと、試合の流れは逆転する。

 日本は敵のサーブに苦しみ、山本智大でさえ屈して逆転される。世界屈指のリベロも拾えない光景はショッキングだった。

日本がタイムアウトを取るも、今度は高さに劣勢となり、瓦解は止まらない。気がつけば14-19と点差を広げられ、何をやってもうまくいかずに19-25でこのセットを落とした。

 2セット目が12-11、3セット目も12-12と、中盤までは接戦だったが、その後、連続ブレイクで差を広げられた。

 リベロの山本はこう振り返る。

「トルコのサーブがとにかくよかったのと、プラスしてブロックのディフェンスもよかったです。僕たちが無理に打ちにいって、シャットを食らうケースも多かったかなと。取るべきポイントが取れませんでした。1セット目をしっかり取れなかったのが主な原因で、2、3セットも流れがあっちに行ってしまいましたね」

【暗さを払しょくできなかったカナダ戦】

 トルコのラマザン・エフェ・マンディラーチのサーブは異質だった。スパイクサーブのスピードで、かつフローターの無回転で不規則に曲がる球は「映像で観るよりも厄介だった」(山本)という。マンディラーチはセリエAで活躍するアウトサイドヒッターで、言わば"トルコの石川"か。どの国もイタリアやポーランドで外国人選手として活躍し、その経験を代表に還元する選手がいた。

「そうした選手が自信を持ってプレーしたとき、日本が勢いで負けてしまったり、逆に勢いが通用しなかったり......僕たちの試合だけでなく、いろんな試合を見て感じました」

 この石川の証言は言い訳ではなく、目を背けるべきではない事実だ。

 しかし、多くの日本人選手がトルコに負けた失望から再起できなかったことこそ、検証の余地があるだろう。

 カナダ戦での日本の士気が低かったわけではない。しかし受け身に回り、どこかで腰が引けていた。見透かされたように6連続ブレイクに遭い、1セット目を20-25と落とした。結局、トルコ戦と同じく、カナダ戦も流れに抗えずに完敗した。

「1セット目、向こうのペースのまま失点して......そこは正直、トルコ戦から少しネガティブな雰囲気を引きずる選手も多かったです。自分は切り替えないと、という思いで、まずは自分が得点を取って、"主人公になる"じゃないですけど、それでチームを引っ張っていけばいいかなって。それが今日のプレーにつながりました」

 髙橋はカナダ戦をそう振り返っていたが、暗く沈んだチームのなかで、まさにひと筋の光明だった。チーム最多11点で、サーブもエース2本で守りを崩した。たとえば2セット目は19-24とリードされたが、髙橋のサーブで23-24まで迫っている。レセプション(サーブレシーブ)、ディグ(スパイクレシーブ)の回数も最も多かった。フェイクセットは壮観で、八面六臂の活躍を見せた。

 しかし、チームは暗さを払しょくできず、コート内で「ごめん」と謝る選手がいた。上を向くスポーツで下を向いていた。

「(表彰台という)目標にはほど遠かったです。難しいなって思いました。力を出せたか、というとそうでないし、悔いが残る大会になりました」

 主将である石川はそう言って無念さを滲ませ、自らを責めた。

「なかなか解決策を見つけられず......自分は困ったときに頼られる立場だと思うので、いつでも解決策を出せるようにしないといけない。そこで力を出せなかったのは"自分に足りなかった"という部分で......」

 バレーはひとりでは勝てない。コートにあるボールを6人が落とさず、どうつなげるか。ひとつひとつのプレーの細部の精巧さ、精密さこそ、日本バレーの真価と言える。相手の対策もあってブロックのつき方などが研究され、監督も選手も入れ替わり、そこがアップデートできていなかった。その間隙を、イタリアやポーランドで活躍する選手を擁する伏兵に突かれた―――。それが敗退の真相か。

 最後、日本はリビアにストレートで勝利し、技術的に劣っているわけではないことを証明した。エバデダン ラリー、佐藤駿一郎というミドルがクイック、ブロックで点数を重ね、宮浦健人は3本のエースを奪い取った。髙橋は自慢の守備でレセプション、ディグでオールラウンドぶりを高らかに示した。

「こっちがしっかりパスを返し、サイドアウトを取ることができました。今日のサイドアウト率は高かったと思います。自分の決定率は低かったですが」

 石川は謙遜してそう語ったが、自身のアタック11本はチーム最多、決定率も56.25%まで上げた。彼が輝いた日本はやはり強い。3セット目、髙橋の神がかったディグから石川がツーで決めた一撃などは真骨頂だった。

「この"負け"は忘れない。今日から自分たちの戦いが始まっていると思っていました!」

 リビアに勝利後、髙橋は明るい声で語った。悪くないリスタートだったと言えるだろう。不動の強者となるために―――。

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