Bリーグ2025-26シーズン注目選手
富永啓生(レバンガ北海道)前編
10年目を迎えたBリーグが開幕する。2025-26シーズンのB1は10月3日からレギュラーシーズンがスタートし、ポストシーズンを経て5月下旬にチャンピオンが決定。
北から南まで散らばる26チームのなかでも、今シーズン特に注目を集めているのは「レバンガ北海道」だろう。今年7月のアジアカップでも活躍した「富永啓生」が移籍してきたからだ。24歳のシューターは、初めてのBリーグでどんな爪痕を残してくれるだろうか──。
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富永啓生という選手にとって、必要なのは「熱」である。そしてその熱は、コートに立ち続けることで、量を増していく。傑出したスコアラーが、日本に戻ってきた。
全国的な知名度を得た桜丘高校卒業後、アメリカに渡って短大、大学、そしてGリーグでプレーをしてきた24歳のシューティングガードは、今シーズンBリーグに舞台を移すこととなった。
富永の去就発表で、虚を突かれた者は少なくなかったのではないか。NBA入りを目指す富永がこの時点で帰国を決断する可能性は、さほど大きくないと予想されていたからだ。
さらに選択したチームが、元日本代表の父・啓之さんと母・ひとみさんが所属した三菱電機の後継チーム「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」ではなく、縁のなかった「レバンガ北海道」であったことも、またそうだ。
おそらくは、他の複数のBリーグ球団からも誘いがあったはずである。
一方でレバンガは、今年6月に株式会社タイミー代表取締役で28歳と若い小川嶺氏がオーナーとなった。単発アルバイトの仲介アプリを手がけ、2024年7月には東証グロース市場に上場するなど急成長を遂げている企業の経営者が参画し、資金力を増したことも、富永獲得を後押ししたと想像するに難くない。
【日本からのオファーは渡りに船】
入団会見で「富永の年俸は球団史上最高か?」と問われた桜井GMは、言っていいものかわからない様子で口よどんでいた。すると、レバンガの元スター選手で現在は球団社長を務める折茂武彦氏が会見場のどこからか「最高です!」と声を張り上げ、助け舟を出した。
年俸がチームで過去最高だったとしても、こちらは虚を突かれはしない。富永はそれほどの存在だからだ。
レバンガが彼を欲したことは、富永にとっても時宜(じぎ)に叶ったものだった。「渡りに船だった」と言ってもいいだろう。
ネブラスカ大3年時と4年生時の富永は、それぞれ平均25.1分、26.1分の出場時間を与えられ、13.1得点、15.1得点を記録していた。しかし昨シーズン、Gリーグのインディアナ・マッドアンツ(NBAインディアナ・ペイサーズ傘下)では平均7.8分の出場で3.4得点と、力量を発揮する機会はなかなか得られなかった。
7月にラスベガスで行なわれたNBAの若手登竜門「サマーリーグ」でも、ペイサーズの一員として参加した富永は5試合のうち3試合の出場にとどまり、出場時間も平均12分弱でしかなかった。盟友・河村勇輝のシカゴ・ブルズとの対戦では、コートにすら立てなかった。
このサマーリーグで初出場となったゲームで、富永は試合終盤になってようやく出番を迎えた。しかし、放った唯一の3Pは惜しくもリングの中を通過することなく、試合後に富永は気丈な話しぶりでこう振り返った。
「30何分ずっと座っていて、急に出て3P ......というのは難しいことではあるんですけど、ベンチにいる時も体を動かしながら、いつ呼ばれてもいいように意識はしています。でも、ずっと試合に出ていてシュートを打つよりは難しい部分があるので、そこはどうすることもできない。集中して1本、1本、打っていくだけかなと思っています」
NBA入りのために自身の力量をアピールしたい富永が、より長くコートに立っていられる場所を求めていたのは必然だった。
【前半だけで25得点の固め打ち】
レバンガは今シーズン、レバンガ初代ヘッドコーチ(2011年~2012年)でもあるドイツ人のトーステン・ロイブル氏を新たな指揮官に迎えた。日本代表のアンダーカテゴリー(U16、U18)や東京オリンピックでの3×3日本代表で富永を指導し、彼のアメリカ行きにも寄与したロイブルHCがレバンガにいることも、富永にとっては理想的な状況だ。
果たしてプレシーズンに入ると、富永は初戦から31点、27点と、その得点能力をふんだんに発揮する。相手は富永の動きから目を離していないのに、ステップバックや3Pラインのさらに遠いところからの「ディープスリー」によってディフェンスをかいくぐり、ネットを揺らした。27得点を記録した試合で、富永はそのうち25得点を前半だけであげている。
「彼とは国際大会で4回、オリンピックで1回、ともに戦いました。本人にとっては当たり前にプレーしているだけかもしれませんが、彼は本当にいつも私を驚かせてくれます。
変わらぬ目標「NBAでプレーする」ために、3Pだけでなく、中に切り込んでのレイアップやフリースロー獲得、ボール運びなど、プレーの幅を広げようと試みている。富永の相手ディフェンダーを引きつける「重力」には突出したものがあるため、3P以外の技量も伸ばしていくことで、味方の得点機会も数多く創出するだろう。
(つづく)
◆富永啓生・後編>>「3P成功率50パーセント」宣言に渡邊雄太も警戒
【profile】
富永啓生(とみなが・けいせい)
2001年2月1日生まれ、愛知県名古屋市出身。元日本代表センターの父・啓之氏の影響により幼少からバスケットボールをはじめ、桜丘高3年時のウインターカップでは得点王に輝く。高校卒業後はアメリカへと渡り、レンジャー・カレッジを経て2021-22シーズンよりNCAAディビジョン1のビッグ10カンファレンスに所属するネブラスカ大に編入。最終学年にはエースとしてチームをNCAAトーナメント出場に導く。2022年7月にA代表デビューを果たし、2023年のFIBAワールドカップでは得意の3Pシュートでパリ五輪出場権の獲得に貢献した。2024-25シーズンはGリーグのインディアナ・マットアンズでプレー。2025年6月、Bリーグ・レバンガ北海道に加入することが発表される。ポジション=シューティングガード。身長188cm、体重81kg。