秋のGⅠシーズン開幕を告げるGⅠスプリンターズS(中山・芝1200m)が9月28日に行なわれる。

 今春のGI高松宮記念(3月30日/中京・芝1200m)とのスプリントGⅠ春秋制覇を狙うサトノレーヴ(牡6歳)をはじめ、昨年の覇者ルガル(牡5歳)、一昨年の覇者ママコチャ(牝6歳)、悲願のGⅠ勝利を目指すナムラクレア(牝6歳)ら短距離GⅠ常連組に、夏の上がり馬など、今年もそうそうたるメンバーが顔をそろえた。

 そんななか、海外からも強力な刺客が挑んできた。香港馬のラッキースワイネス(せん7歳)だ。

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「スプリント王国」と称される香港競馬の短距離路線。現在も世界中から脚光を浴びており、2024-2025シーズンの年度代表馬カーインライジングは、16戦14勝、2着2回といった戦績を誇り、短距離部門の世界ランキングで堂々の1位に君臨している。

 そうした香港馬の活躍は、日本でも過去に何度となく見られてきた。スプリンターズSでは2勝、高松宮記念でも1勝を挙げている。高松宮記念では、昨年も決して横綱級とは言えないビクターザウィナーが3着と奮闘。それら短距離馬の層の厚さは、まさしく「王国」と呼ぶにふさわしい。

 ラッキースワイネスは、その香港で27戦16勝。3シーズン前(2022-2023シーズン)には香港の「短距離三冠」といった位置づけにある香港スプリントシリーズ、GⅠセンテナリースプリントC(シャティン・芝1200m)、GⅠクイーンズシルバージュビリーC(シャティン・芝1200m)、GⅠチェアマンズスプリントプライズ(シャティン・芝1200m)を制覇。翌シーズン(2023-2024シーズン)には国際招待レースのGⅠ香港スプリント(シャティン・芝1200m)も制して、現王者カーインライジング登場前の「絶対王者」と言える存在だ。

 しかし今回、それほどの実績の持ち主ながら、日本での評価が意外と低い。

 それは、近走の成績が振るわないのもあるが、実は昨年4月、ラッキースワイネスは左前脚を故障。およそ1年間の戦線離脱を余儀なくされ、今なお左の腕節には2本のボルトが埋め込まれている。加えて、7歳というベテランの域に達して、全盛期のパフォーマンスは発揮できないのではないか、と見られているからだ。

 実際、およそ1年ぶりの復帰戦となったチェアマンズスプリントプライズ(4月27日)では6着。日本から参戦してきたサトノレーヴ(2着)、ルガル(5着)にも先着を許した。さらに、続くGⅢシャティンヴァーズ(5月31日/シャティン・芝1200m)でも、勝ち馬から3馬身離されての4着に終わっている。

 長期休養の影響があるとはいえ、もはや「最強スプリンター」の面影は失われつつあった。香港のかつての絶対王者といったところで、ここでは通用しない、と見られるのも致し方ない。

 だが、同馬のことを完全に無視していいのだろうか。答えは「NO」だ。

 復帰2戦目のラッキースワイネスは4着に敗れたとはいえ、斤量はトップハンデの135ポンド(約61.2kg)。勝ち馬とは12ポンド(約5.4kg)、2、3着馬とは20ポンド(約9kg)もの斤量差があった。

 同レースを勝ったヘリオスエクスプレスは昨シーズン(2024-2025シーズン)、GⅠに4回出走して2着3回、3着1回と抜群の安定感を見せていた。2着のインビンシブルセージにしても、昨年のチェアマンズスプリントプライズを勝っているGⅠ馬。それらを相手に、これほどの斤量差があっての4着なら悲観する必要はない。

 また、9月から始まった今シーズン(2025-2026シーズン)初戦、香港行政特区長官C(9月7日/シャティン・芝1200m)では、カーインライジングに次ぐ2着と好走。レース直前から降り出した雨の影響を受けながらも、1分7秒9という好時計をマークし復調ぶりを示した。

 もともと昨シーズン末から、今回のスプリンターズSに向けて調整を重ねてきた。昨シーズン終盤の5月のレース出走も、今シーズン開幕直後の9月のレース出走も、青写真どおり。香港競馬の夏休み期間に入る直前の7月には、バリアトライアルという実戦式の調教も消化した。その後、シャティン競馬場の調教コースが2週間のクローズ中には、広州のサテライト施設である従化トレセンに移動して調整。9月のレース前にも再度バリアトライアルをこなしてきた。

 さらに、7月のバリアトライアルからは深めのブリンカーを着用。管理するマンフレッド・マン調教師、主戦のデレク・リョン騎手ともに「その効果は出ている」と口をそろえている。

 そうして9月7日、韓国のソウル競馬場で行なわれた国際GⅢコリアスプリント(ダート1200m)では、マン厩舎の管理馬セルフインプルーブメントが、明らかに格上となる日本のチカッパ(2着)、タガノビューティー(5着)、サンライズホーク(7着)を撃破。波乱を演出し、同厩舎では海外遠征への士気が高まっている。

 それに続くのは、もちろんラッキースワイネス。一度は"王国"の頂点に立った実力馬を侮ってはいけない。

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