ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――秋のGIシリーズ第1弾、GIスプリンターズS(中山・芝1200m)が9月28日に行なわれます。
大西直宏(以下、大西)今年は猛暑の厳しさが一段と増して、タフな夏競馬となりましたが、ここに来て朝晩は過ごしやすくなって、ようやく秋らしい気候になってきました。
――スプリンターズSと言えば、大西さんは2004年にカルストンライトオとのコンビで優勝。当時のことについて、少し振り返っていただけますか。
大西 カルストンライトオとは4歳夏に初めてコンビを組んで、その年のGIIIアイビスサマーダッシュ(新潟・芝1000m)を勝利。以降、福島や新潟といった関東圏のレースを使う時に依頼をいただいて、騎乗させてもらっていました。
関西圏や北海道のレースまで乗りに行くことはありませんでしたし、当初は「この馬でGIを獲るぞ!」といった特別な感覚は持っていませんでした。
――その後、6歳夏に再び大西さん騎乗でアイビスサマーダッシュを制覇。その勢いで挑んだスプリンターズSで鮮やかな勝利を飾りました。
大西 この馬に関しては、ジョッキーとしてやることは決まっていて「とにかくスタートだけは絶対に遅れない」という意識で乗っていましたね。
ふだんはおっとりした馬で、パドックでも「牛みたい」なんて評されてしまうくらい。返し馬でも歩様が少しゴトゴトしていて、全然やる気を見せないんですよ。それが、ゲートが開くと一変。
スプリンターズSを勝った時は、ドシャ降りの雨で不良馬場。フットワークが硬めのピッチ走法なので、この馬にはそれも合っていました。逆に、デュランダルやサニングデールといった人気上位馬はその馬場によって決め手が削がれる分、レース前から「パンパンの良馬場より好都合だ」と内心は自信を持っていたんです。
また、それまでのレースでこの馬のテンのスピードは周囲に植えつけることができていたので、こっちが行く気を見せれば、競りかけられないだろうという確信もありました。そうしてスタートを決めた時点で、「これはイケる!」と。狙いどおりの、会心のレースで勝つことができました。
――さて、今年のスプリンターズSですが、出走メンバーをご覧になっての率直な印象を聞かせてください。
大西 香港からの遠征馬もいますし、ひと言で言って「多士済々」。ここ最近では一番と言えるほど、粒ぞろいの好メンバーがそろったと思います。
――なかでも人気を集めそうなのは、春のスプリントGI高松宮記念(3月30日/中京・芝1200m)を制したサトノレーヴ(牡6歳)。その後、香港と英国のGIでも連続2着と充実した状態にあります。
大西 名門・堀宣行厩舎の管理馬らしく、馬の成長曲線を見極めて、じっくりと段階を踏んでステップアップしてきました。ここ数戦は、ジョアン・モレイラ騎手との継続タッグも叶って、「完全本格化」と言えるほどの充実ぶりです。
昨年は7着でしたが、心身ともに隙らしい隙がなくなってきた今なら、春秋のスプリントGI制覇も夢ではないでしょう。
――となると、今回のスプリンターズSにおいては、大西さんの見解も「サトノレーヴの相手探し」といった感じになるのでしょうか。
大西 いえ、もちろん有力候補の1頭ではありますが、実は他に狙ってみたい穴馬がいるんです。前走のアイビスサマーダッシュ(8月3日)を快勝したピューロマジック(牝4歳)です。
――カルストンライトオと同じくアイビスサマーダッシュからの臨戦となりますが、どのあたりに一発の魅力を感じていますか。大西 3歳だった昨年は、前半3ハロン32秒1というハイペースでレースを引っ張って、サトノレーヴ(7着)とはアタマ差の8着と奮闘。今年に入ってからは、GIIIシルクロードS(2月2日/京都・芝1200m)9着、ドバイのGIアルクオーツスプリント(4月5日/メイダン・芝1200m)5着ともうひと息でしたが、前走のアイビスサマーダッシュでは逃げ一手の戦法から"差し"に転じて勝利。見事なモデルチェンジに成功しました。
1000mの直線競馬での結果ゆえ「スプリンターズSには直結しない」という見方が大半かもしれませんが、極限のスピード勝負において、道中しっかり抑えて勝てたことによる収穫はかなりのものだと思っています。
おそらくスプリンターズSでもハナには行かず、好位2、3番手につける競馬をするはず。
ここ数年、このレースで初のGI制覇を果たすことがトレンドになっていますから、それも加味して、ピューロマジックを今回の「ヒモ穴」に指名したいと思います。