「神奈川クラブの三つ巴」

 J1リーグはそんな様相を呈している。神奈川県内にある横浜F・マリノス、横浜FC湘南ベルマーレの3チームが、残留争いで一進一退を展開。

当事者にとってはストレスフルな戦いだろうが、野次馬的には"生き残り"に必死な様子からは目が離せない。当落線上のヒリヒリ感だ。

 では、どこが降格の憂き目を見るのか?

 20チームからなるJ1リーグは、下位3チームが降格することになっている。残り7試合(第31節終了時点)で、17位横浜FMが勝ち点28、18位横浜FCは勝ち点28(同勝ち点だが得失点差)、19位湘南が勝ち点25、そして20位アルビレックス新潟が勝ち点21だ。

 新潟の巻き返しも十分にあり得るが、残留にはまずは3勝が必要で、現状は差し迫っている。もちろん16位東京ヴェルディ、17位名古屋グランパスが急落下することもあり得なくはない。しかし、やはり神奈川の3チームの争いが焦点になるだろう。

 この三つ巴からはおそらく1チームしか生き残れず、修羅の道だ。

【Jリーグ】残留争いは神奈川クラブの三つ巴 横浜F・マリノス...の画像はこちら >>
 そのなかで、いちばんサッカーとして質の高さを感じるのは湘南だろう。それぞれの選手のやるべきことが整理され、自分たちでボールを持って、前に運び、ゴールに近づいてコンビネーションで崩すプレーも見せる。守りも形ができていたからこそ、センターバックの鈴木淳之介(FCコペンハーゲンへ移籍)が日本代表にも選ばれ、頭角を現したのだろう。ボールを握って、チャンスを作る機会も多いのだ......。

 しかし、チャンスを決めきれず、守備のほころびも出る試合が続いている。過去10試合は2分け8敗。端的に言えば、戦力的に劣勢であることは明白だ。

 山口智監督が長年トレーニングで鍛錬してきたチームの仕組み、回路は見えるし、だからこそ開幕から5勝5敗3分けと健闘していたが、夏にかけて次々に主力が離脱した。まず、GK上福元直人がケガで長く戦列を離れることになった。そして夏のマーケットで主力だったDF畑大雅、鈴木、キム・ミンテ、FW福田翔生などを失っている。

 シーズン中に人が変わりすぎ、戦力ダウンは避けられない。それが失点に直結した。人にもゾーンにもついていけない場面も多く、それはもはや個人の能力と言わざるを得ない。また、得点機会を多く作っても、単純にそれを決めきれる選手が不足しているのだ。

【泥沼化すれば横浜FCが有利か】

 一方、横浜FCはJ2仕様のチームの域を出ない。"弱者の兵法"で全員がブロックで守り、カウンター一発を狙う。

非常に受け身的な構造だ。

 もっとも、彼らは相手の嫌がる攻撃のカードを揃えている。たとえば新保海鈴の左足はひとつの武器だろう。そして残留戦に向け、アダイウトン、ヤクブ・スウォヴィクという攻守の両輪を獲得した。アダイウトンは途中出場で決定的ダメージを与えられるし、スウォヴィクもゴールラインを守る技術はJリーグでも屈指。必死に守って、切り札投入で勝ちきる算段がついた。

 これからの残留戦が混迷に向かえば向かうほど、サッカーの質は問われなくなる。一か八か、の展開になった場合、横浜FCは強さを見せるだろう。ルキアン、櫻川ソロモンなど前線にパワーを注入、ジョアン・ペドロのようにテクニックもあるブラジル人も擁し、個人で攻撃の多様さを作り出せるのは有利になるだろう。

 そして横浜FMは3チームのなかでは飛び抜けて高い戦力を誇る。たとえば湘南などからしたら、これで残留争いをしていること自体、「失敗」の部類に映るだろう。シーズン中に、有力なブラジル人選手3人を使いきれないと、シャッフルしてジョルディ・クルークス、ディーン・デイビッド、角田涼太朗など有力選手を補強し、リスタートできる。

それは彼らの圧倒的な優位性だ。

 しかし、横浜FMは今シーズン3人目の監督で、プレーの仕組みはないに等しく、サッカーそのものはうまくいっていない。それぞれの距離感が悪く、川崎フロンターレ戦もガンバ大阪戦も、パスミスをかっさらわれて失点を喫しているのは象徴的だろう。これでは守備も攻撃も機能するはずはなく、つなぐ戦術など放棄せざるを得ない。ロングボールに切り替えているのは、それが有効だからではなく、あくまで消去法だ。

 アビスパ福岡戦のように試合展開がうまく転んで2点リードし、守りきった場合は勝てる。しかし、G大阪戦のように腰が引けたところで失点すると、成すすべなし。キックオフでわざとタッチラインからボールを出す戦術は、欧州王者パリ・サンジェルマンのプレッシングでも真似たのか。あまりに付け焼刃的で、今シーズンの横浜FMそのものだ。

 横浜FMは、GK朴一圭がチームを救うしかないだろう。事実、僅差で勝ち点を得た試合は、彼の流れを変えるプレーがあった。福岡戦もハイラインの背後を完璧にカバー。

派手なセービングだけでなく、守備を安定させられる。攻撃の起点にもなれる守護神で、福岡戦もロングキックが得点の契機になっていた。

 横浜FMは、つなごうが蹴ろうが、チームデザインがぼやけてしまった。これを一新できる力量のリーダーはおらず、各選手の能力値の高さで紙一重の勝利をものにするしかない。厳しい状況だが、相応の選手がいるのも事実だ。

 湘南はサッカーの質で粘れるか、横浜FCはアダイウトンの一発に歓喜するか、横浜FMは戦力で押しきれるか―――。

 9月28日に横浜FCが湘南を迎える直接対決があり、ここが分岐点になるかもしれない。同節、横浜FMはFC東京とのアウェーマッチがあり、頭ひとつ抜け出せるか。それぞれ決定打はなく、しばらく三つ巴の戦いが続きそうだ。

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