かつてのトップフットボーラーの息子たちが、欧州の第一線で活躍している。後編は、実父の指導を直接受けたことで成長を加速させた二世フットボーラーや、タフなボランチの息子、3世代に渡ってイタリア代表に名を連ねる名家など──。

【「贔屓目なしに強烈なインパクトを残している」と父シメオネ】

 あえて重圧のかかる環境に身を置きながら、トッププレーヤーへと成長を遂げた二世フットボーラーもいる。

【欧州サッカー】シメオネ、コンセイソン、レドンド──次々に台...の画像はこちら >>

その代表格が、22歳という若さでアトレティコ・マドリーのレギュラーに定着したジュリアーノ・シメオネだ。父は言わずと知れた元アルゼンチン代表MFのディエゴ・シメオネで、ふたりの兄もプロフットボーラー(長兄のジョバンニは現トリノのストライカー、次兄のジャンルカはすでに引退)という家庭に育ったジュリアーノは、兄弟のなかで唯一、父親のもとでプレーする道を選んでいる。

 ディエゴがラツィオに在籍していた2002年にローマで生まれ、4歳でアルゼンチンに移住。名門リーベル・プレートの下部組織に入団したが、16歳になった19年にみずから望んで父が監督を務めるアトレティコのカンテラの門をたたく。Bチームで結果を残してトップチームデビューを飾るのは22年4月。その後、サラゴサとアラベスでの武者修行を経て、昨シーズンに復帰を果たすと、瞬く間に主力へと上り詰めた。

 現役時代から"闘将"として相手チームに恐れられた守備的MFの父とは異なり、ポジションはウイング。まだ粗削りながら、果敢なドリブルで右サイドを切り崩し、チームにエネルギーを注入する。球際で一歩も引かないインテンシティとアグレッシブネスは、まさしく父親譲りだ。

 なにより、"親の七光り"と揶揄する声をプレーと結果で封じ込めてみせた強靭なメンタルが、二世タレントの一般的なイメージを吹き飛ばす。そして、あくまでも実力でポジションを掴み取った我が子を、シメオネはこんな言葉で評するのだ。

「贔屓目なしに強烈なインパクトを残している。

もちろん、これまでもそうだったように、これからも、誰も彼に"プレゼント"を与えることはないがね」

【名門で独り立ちしたフランシスコ・コンセイソン】

 ジュリアーノ・シメオネと同じ2002年生まれで、同じくサッカー一家に育ったフランシスコ・コンセイソンもまた、元ポルトガル代表MFの父セルヒオ・コンセイソンが監督を務めるFCポルトでプロキャリアをスタートし、いわゆる"親子鷹"としてポテンシャルを開花させた二世フットボーラーだ。

 ちなみにシメオネとコンセイソンの父親同士はラツィオ時代のチームメイトで、99-00シーズンのセリエA制覇をともに経験した間柄である。

 利き足は左で父とは異なるフランシスコだが、同じ右サイドを主戦場とする小気味のいいウインガーである点に血筋を感じる。父親よりも身長は6㎝ほど低いが(170㎝)、フィジカルのハンデを感じさせず、切れ味鋭いカットインから強烈なミドルを打ち込む。

 2023-24シーズンをもって、父が7年指揮を執ったポルトの監督を辞任すると、フランシスコもユベントスにレンタル移籍。加入1年目は怪我もあったが、インテルを相手に決勝ゴールを奪うなど存在感を示し、この夏におよそ53億円でイタリアの名門に買い取られている。父の庇護を離れ、今まさに独り立ちのときを迎えたと言っていい。

 マルキュス・テュラム、ジョーダン・ラーション、ティモシー・ウェアとともに、今シーズンのCL初戦でゴールを奪ったのが、PSVのルベン・ファン・ボンメルだ。チームはベルギー王者のウニオンSGに1-3で敗れたが、左サイドから再三ダイナミックな突破を図り、終了間際には意地の一撃を見舞っている。

 父親はPSVで数々のタイトルを勝ち取り、その後バルセロナ、バイエルン、ミランという欧州屈指のビッグクラブでも活躍した元オランダ代表のMF、マルク・ファン・ボンメル。さらに母方の祖父が、10年の南アフリカW杯で監督としてオランダ代表を準優勝に導いたベルト・ファン・マルバイクという良血だ。スピードとパワーを兼備したそのプレースタイルは、現役時代はウイングとして鳴らした祖父譲りだろう。

 父と同じくPSVのスターになることを夢見てユースチームに加わったルベンだが、19年12月にトップチームの監督を務めていた父が成績不振で解任されると、その煽りを食うように彼もまたPSVとの別れを余儀なくされる。

それでも、プレッシャーの少ない2部MVVのユースに移籍してフットボーラーとしての土台を築くと、トップデビューを飾った22-23シーズンに31試合・15得点。翌シーズンには強豪AZに引き抜かれるのだ。

【イタリア史上初となる3世代にわたって代表選手を輩出した家族】

 そしてこの夏、1500万ユーロ(約25億円)の移籍金で5年ぶりに古巣へ復帰。遠回りはしたが、再び偉大な父が名を揚げたオランダきっての強豪クラブでプレーするチャンスを掴み取っている。ただ、CLのウニオンSG戦から4日後のアヤックス戦で膝にシーズン絶望の重傷を負ってしまう。公式戦8試合で4ゴールという最高のスタートを切っていただけに、なおさらショックは大きいだろう。

 それでも、2004年生まれのまだ21歳である。父親譲りのタフなメンタリティも持ち合わせた彼なら、この二度目の遠回りでさらに逞しさを増して、ピッチに戻ってくるに違いない。

 サッカー一家で育ったサラブレッドで言えば、祖父がチェーザレ・マルディーニ、父がパオロ・マルディーニというアタランタのダニエル・マルディーニ(2001年生まれ)も忘れてはならない。名DFとして知られる2人のレジェンドとは違い、攻撃的MFとしてプレーするダニエルは昨年10月にイタリア代表デビュー。3世代にわたって「マルディーニ」の名がアズーリの歴史に刻まれている。BBCによると、イタリア代表史上初だという。

 ほかにも、かつてレアル・マドリーの中盤を支えた"貴公子"フェルナンド・レドンドを父に持ち、今シーズンからラ・リーガのエルチェに加わったフェデリコ・レドンド(2003年生まれ/MF)、マンチェスター・シティでトップデビューの時を待つ、元イングランド代表FWエミール・ヘスキーの息子リーガン・ヘスキー(2008年生まれ/FW)、オランダ代表の歴代最多得点記録の保持者、ロビン・ファン・ペルシの息子で、現在はその父がトップチームの監督を務めるフェイエノールトのU-21チームで昇格のチャンスを窺うシャキール・ファン・ペルシ(2006年生まれ/FW)など、これからが楽しみな2世フットボーラーは少なくない。

 彼らがクラブのレジェンドであり、祖国の英雄でもある偉大な父に追いつき、そして追い越せるか。やはりそれは、二世として生まれてきた自らの宿命を受け入れ、色眼鏡で見てくる周囲の視線を悠然とはね返せるだけの、強靭なメンタリティを持てるかどうかにかかっている。

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