鹿島アントラーズ
三竿健斗インタビュー(前編)
プレーに成長を感じ、話を聞きたい衝動に駆られた。そのアップデートこそが、今シーズンを戦う鹿島アントラーズの強さにも通じている予感を抱いたからだ。
三竿健斗に変化の予兆を見たのは、まだシーズン序盤。J1リーグ第13節の横浜FC戦だった。
その試合で今季初先発を飾った彼は、77分にダメ押しとなる3点目に絡む。相手のFKをクリアしたこぼれ球を自陣ペナルティエリア前で拾った背番号6は、自らドリブルで持ち上がっていく。右サイドを駆け上がる松村優太に展開してなお、彼は立ち止まらなかった。
松村が右サイドを突破する動きに合わせて、ペナルティエリア内に走り込むと、パスを受けたターレス ブレーネルの落としをシュートした。GKが弾くも、こぼれ球にいち早く反応すると、相手DFのオウンゴールを誘発した。
ボランチながら、バランス感覚に優れ、守備に特長のある選手である。自陣でセカンドボールを拾うだけならいざ知らず、ドリブルで駆け上がり、相手ゴール前にも顔を出した。いわゆるボックス・トゥ・ボックスの動きに、変化を感じずにはいられなかった。
「シーズン開幕時はケガもあって、練習に復帰してからも、自分が思っているよりもコンディションが上がっていかないなかで、つかんだ先発出場のチャンスでした。
今季はチーム内でのボランチのポジション争いが激しく、この試合で結果を残さなければ、選手選考のファーストチョイスはおろか、セカンドチョイスにも選ばれないなと思っていたので、個人的にも気合いが入っていました」
横浜FC戦は3-0で勝利しただけでなく、自身のプレーにも手応えを実感した。
「自分の特長である守備で相手にガツンと行って、ボールを奪うプレーも出せた自覚がありました。何より3点目のシーンは、おそらく今までの自分だったら、相手の前に身体を入れてドリブルで持ち運ぶようなプレーを選択していなかったと思います」
今季の鹿島において、最激戦区ともいえるボランチで、出場機会を得るために自分自身を見つめ直した成果だった。
【うまくなりたい欲を刺激】
「途中出場が多く、出場時間が短い時に、自分に何が必要かを考えたんです。その時、最初の5m、10mの速さだなと思って。それを活かすトレーニングをしました。まさに、相手の前に入った瞬間の足の動きは、練習してきた賜物(たまもの)でした」
初動から加速するために、足首周りの強化を図った。
「自分が一番よかった時って、2回、3回と連続でボールを追うことができたり、ギュギュッと動ける時だったりしたなって思ったんです。その動きを再び取り戻すためには、初速の速さや、切り返しの動作、ステップワークだと考えました。実際、自分のそうした能力が落ちているという実感もあったので、そこに目を向ければ、自ずとコンディションも上がっていくだろう、と」
強化したのは、足首周りだけではない。181cmという身長以上にピッチ内で大きく見える存在感にも理由はある。
「プレー中の姿勢についても見直しました。何を意識した時が、もっとも身体が動くのか。そう考えた時、頭の位置がブレない時が一番、スムーズに動けていることを思い出して。
まるでプレーを逆算するかのように、身体の動きを分析し、必要な強化を図った。
それは鬼木達監督のもとで、あらためて向き合っている技術も、である。三竿は「練習初日から今も、うまくなりたいという欲を刺激されまくっています」と、その幸運を語る。
「シンプルに技術を向上させなければならない、という気持ちをかき立てられています。いわゆる、ボールを止めて蹴る。そこを正確にできれば、相手がプレッシャーをかけてきても、全然、怖くないというか。今では、逆にプレッシャーをかけにきてくれて『ありがとう』という気持ちくらいに感じる。
練習初日から全体練習後に、オニさん(鬼木監督)が川崎フロンターレでもよくやっていたパス&コントロールの自主練をやっているんですけど、この8カ月間でもホントにうまくなっていることを感じていて。それをピッチのなかで、自信という形で、さらに実感しています」
【中村憲剛の境地に踏み入れた】
自主練をともにする舩橋佑とは、毎日の日課であることから「ハミガキ」と呼んでいるという。
「自分自身に技術が足りていないとは、ずっと思っていました。だから、以前もその練習は、見よう見まねでやっていたんですけど、ひとりが意識するだけでは変わらないんですよね。チーム全体が同じ意識を持つからこそ、パスの質やタイミングも変わってくる。同じ視点で練習しているので、今までよりもうまくなっていることを実感します」
鬼木監督の指導を受けて、技術の習得、はたまた向上には、ボールを止める側だけでなく、ボールを蹴るパサー側が重要なことを痛感している。
「ボールの芯をとらえたパスでなければ、受けるほうは止めにくい。逆にあえてボールの上のほうを蹴って回転をかけて、わざと止めづらいパスを蹴る時もありますけど、メッセージ性のあるパスでなければ練習にはならない。
今ではパスを受ける四角(範囲)もかなり小さくしていますけど、ボールの当て方(トラップ)、身体の力感、どのタイミングで軸足のステップを踏むか、身体の向きを変えるかもわかってきましたから」
試合で出せてこその練習である。身体の強化、技術の向上は、同時にプレーの幅へとつながっている。
「パスが来た時に、ボールをそれほど見なくても止められる自信があるので、その分、首を振って周りを見たり、相手を見たりする余裕が生まれています。だから以前よりも、ワンタッチでテンポよく前につけるパスの本数も増えているかな、と」
昨季まで鬼木監督が率いて7つのタイトルを獲得した川崎フロンターレで、象徴としてプレーしていた中村憲剛に、かつて「止めて蹴る」の真髄について聞いたことがある。フロンターレのレジェンドは、その本質について「ボールを正確に止めて蹴ることが大事なのではなく、それによって周囲を見る時間が確保できることが大事なんです」と強調した。
まさに三竿は、同じ感覚を抱いており、その境地に足を踏み入れようとしている。
【時にバランスを崩す意外性】
「基本的に狭いコートでポゼッションの練習をしていて、チームとして相手が来ていてもパスを通すし、相手をはがしていくことにずっと取り組んでいます。それをそのまま試合で出せればいいんですけど、今はまだ、試合の独特な緊張感や、パスの出し手が受け手のことを気遣って出さない時がある。
そうしたパスが通っている時は、チャンスになっている回数も多いので、課題は、練習でやっていることを試合でも同じように出すこと。また、自分たちが1点取ったからといって、アンパイなプレーに走るのではなく、時にはDFの背後を狙うプレーも必要ですけど、相手を見ながら、意図した攻撃をやり続けることも大事だと思っています」
鹿島が再び連勝街道を突き進むきっかけとなった第29節の湘南ベルマーレ戦では、62分に左サイドから右サイドを駆け上がる濃野公人に大きくサイドチェンジして、状況を打開した。82分にも相手の攻撃を読み、インターセプトすると、瞬時に鈴木優磨へと縦パスをつけた。
そのプレーは、バランスを意識したセーフティーなものばかりではなく、時にバランスを崩すような意外性──状況を破壊するとでも言えばいいだろうか。
「言わんとしていることはわかりますよ。バランスを取るという意識よりも、もちろん試合の状況を見ながらプレーしていますけど、オニさんが『よく相手を見てプレーしろ』と言うように、相手がやられたら嫌なプレーを考えて選択するようにしています。空いたスペースへのランニングを嫌がるのであればそれを、DFの背後に走ることを嫌がるのであればそれを、やるようにしています」
自分の立ち位置によって味方をサポートし、敵を欺(あざむ)いているように、状況を、相手を見てプレーしている。それはすなわち、先を見据えたプレーにつながっている。
【鹿島が強さを取り戻してきた】
選手としての成長を実感している三竿が言う。
「今季は若手選手の成長が目立っていますし、彼らの成長速度を実感もしていますけど、チームが強くなるためには、経験のある選手たちが突き抜けることで、より若手選手を引き上げることができる。
だから、僕や、優磨、(柴崎)岳くん、植田(直通)くん......経験のある選手たちがさらに選手として成長していくことで、チーム全体の成長スピードを上げていくことができると思っています」
経験のある選手たちが成長してこそ、若手はその基準に追いつこうと、伸びていく。経験のある選手たちが伸びてこそ、チームとしての円も大きくなっていく。三竿が成長を実感しているように、鬼木監督の指導によって、主軸と言われる選手たちが個の成長に目を向けているから、鹿島はその強さを取り戻しつつあるのだろう。
また、三竿自身もシーズンを戦うなかで、自分のプレーをさらにアップデートしている。
(つづく)
◆三竿健斗・後編>>鬼木監督との対話で「ブレていたことに気づかされた」
【profile】
三竿健斗(みさお・けんと)
1996年4月16日生まれ、東京都武蔵野市出身。横河武蔵野FCジュニアユースを経て東京ヴェルディの下部組織に所属し、2015年3月のセレッソ大阪戦でJリーグデビュー。2016年に鹿島アントラーズに移籍し、ボランチやCBとして活躍する。2022年にポルトガルのサンタ・クララ、2023年にベルギーのルーヴェンでプレーしたのち、2024年7月に鹿島へ復帰。2017年12月の韓国戦でA代表デビュー。ポジション=MF。身長181cm、体重73kg。