鹿島アントラーズ
三竿健斗インタビュー(後編)
◆三竿健斗・前編>>アップデートを果たし「最激戦区」ボランチで存在感
三竿健斗は、鬼木達監督のもと鹿島アントラーズが目指すサッカーについて、こう語る。
「ひと言でいえば、ハーフコートゲーム。
「攻撃ではボールを前に運ぶことと、リズムを作ることを求められています。守備ではボールを奪いきる力や、攻守の切り替えで相手を圧倒すること。オニさん(鬼木監督)は常日頃から同じことを繰り返し選手たちに伝え、落とし込もうとしてくれている。だから、攻守において求められているそのすべてをやる必要があると思っています」
着実に出場機会を増やしているのは、シーズンを戦うなかでも自身のプレーを変化させてきたからだろう。
三竿がプレーをアップデートした契機がある。1-3で敗れた横浜F・マリノスとのJ1リーグ第18節だった。
前半で立て続けに3失点した鹿島は、レオ セアラのゴールで1点を返したが、鬼木監督は流れを変えるべく、ハーフタイムに選手交代を決断。先発していた三竿に代わって、柴崎岳をピッチに送り込んだ。
「たしかに3失点した事実はありましたけど、自分のプレーだけを切り取ったら、相手を潰すところでは潰せていたので、手応えはあったんです。
状況やチームのことを思えば、頭では交代もやむなしとわかっていたが、選手の心根としては、簡単に受け入れることはできなかった。
「ハーフタイムが終わるころには冷静になって、2点差を取り返さなければいけないだけに、選手を代えるのは仕方がないことだなって理解できたんです。でも、交代がわかった直後は、誰かにとか、何かにというのではなくても、その悔しさを表情に出していました。それをオニさんも見ていて、僕が何かを思っていたことを理解してくれていたんでしょうね」
【見える景色がまた変わった】
次の試合に向けて活動を再開した練習終わりに、鬼木監督が歩み寄ってくると、グラウンドでその決断について話す機会があった。
「その時、オニさんが求めていることがはっきりとわかったんです。オニさんがみんなに攻撃的なサッカーを求めているように、自分自身も攻撃的なプレーを必要とされているとイメージしていたんですけど、話してみると、オニさんは、その選手の武器をチームに還元してほしいという思いが真っ先にありました」
自分の長所とは何なのか──。指揮官と対話すれば、自ずとその特長は見えた。
「僕には、まずは守備のところでボールを回収するところや、ディフェンスラインの前で相手の攻撃の芽を摘むフィルター役になることを期待してくれていました。コミュニケーションを取った時に、守備の強度を求められていたことがはっきりして、自分がやるべきプレーが今一度、整理されたんです。
僕は攻撃的なサッカーを目指すなかで、攻撃をやらなければいけない、攻撃しなければいけないという頭になっていたので、その結果、本来のよさが薄れていた。フォーカスする前提がブレていたことを気づかせてもらいました」
守と攻。どちらも疎(おろそ)かにしていいわけではない。
第29節から4連勝を飾った鹿島は、そのうち3試合がクリーンシートと堅守を取り戻しているように、中盤で三竿が相手を食い止めることで、窮地に陥る状況を回避する場面が増えている。頭のなかが整理され、守備でプレーのリズムをつかんでいる三竿は、攻撃でも効果的な関わりを見せている。
「ここ数試合は、右のボランチから左のボランチに代わって、見える景色がまた変わりました。左から来たボールを右足で止めて、逆を見ることができるので、大きく展開することはもちろん、右足で中を向くことができるので、ワンツーで壁パスを使ってみたりといったプレーもできるようになっている。また、左サイドだと、エウベルや(鈴木)優磨が時間を作ってくれるので、今までとは異なる新しい関わり方もできています」
【声だけでメシが食っていける】
三竿の強みは、守備だけではない。ボランチは試合をコントロールする役割を担っているように、その声はチームの方向性を指し示し、チームを奮い立たせている。同ポジションで切磋琢磨する知念慶は、三竿の声について「常に周りにいい影響しか与えない」と賛辞を贈る。
「ヨーロッパに移籍する前から、このチームを自分が引っ張っていかなければいけないと思っていたこともありましたけど、移籍してきた(千田)海人くんがしばらくしてから、『このチームって悪い空気や苦しい状況になった時に、立ち直れないというか、巻き返せないところがあるよね』って言っていたんです。それを聞いて、僕自身も『たしかにな』って思うところがあって」
試合中もコミュニケーション能力の高さがうかがえるように、もともと声の重要性は理解していた。だが、状況によってかける声の質や内容を変えるようになった。
「夏場も何度か、めちゃめちゃ暑いなかで練習をすることがあって、相当きつかったんですけど、そこでポジティブな声をかけたら、みんなもそれでがんばれたって言ってくれたことがあって。
それを確信する光景にも遭遇した。ジェフ千葉と練習試合をした時のことだ。対戦相手にいる鈴木大輔が、チームメイトにこう声をかけていた。
「苦しいけど、ここでがんばろうぜ」
「今、ここは耐える時だぞ」
至ってシンプルな声だったが、千葉の選手たちが鼓舞されている様子は手に取るようにわかった。
「僕自身はその光景を外から見ていたんですけど、そういう声が出せる人って、選手としての価値があるなと。その声だけで、メシが食っていけるほどの影響力を感じたんです」
プレー同様、すぐに吸収するところも魅力のひとつだ。一つひとつの言動や行動がチームに一体感を作り出し、勝利につながっていくことを、彼は知っている。試合を見ていれば、ピッチに立っていない時の姿勢にも表れている。
「いつだったかは覚えていないんですけど、試合前に集合写真を撮って、水を飲むために選手たちが一度、ベンチ前に戻った時に、キャプテンの(柴崎)岳くんが自分は試合に出るわけじゃないのに、水を持って出てきてくれて声をかけてくれたんですよね。
それまでベンチメンバーはそこにいなかったんですけど、その行動、光景を素直に『いいな』って思って。自分も控えに回った時にはやるようになったら、カジくん(梶川裕嗣)をはじめ、ほかの選手もやってくれるようになったんです」
勝利は細部に宿るように、一体感も、そうした何気ない行動から生まれていくのだろう。
【昔のギラギラした自分はどこへ】
2016年に東京ヴェルディから加入した三竿は、鹿島が最後に手にしたリーグ優勝を知る数少ない選手のひとりになった。
「ラスト10試合、5試合でどれだけ勝ち点を獲り続けられるかが、優勝するうえでは重要だと思っています。今、いくら首位に立っていても、そこから勝てなければ何の意味もない。特に僕のなかでは、2017年に最後の最後で優勝を逃したことは、今でも心に残っている。
あれを経験して、ホントに最後の最後に勝ち点3を取って、勝たなければ優勝することはできないということを実感したので。だから、残り試合すべてを勝てるように、チームに少しでも隙があれば、強く訴えようと思いますし、そうならないように自分の行動や言動で引っ張っていきたいと思います」
あの時は若手だったが、経験を積んだ今はできること、やれることが増えている。
転機となった横浜FM戦のハーフタイムで交代を告げられ、悔しさを隠しきれなかった時、もうひとつ思ったことがあった。
「子どもが生まれてから、そこまで感情を表に出すようなことがなくなっていたというか。どこか落ち着いてしまっているところが、自分のなかではひとつ悩みでもあったんです。ギラギラしていたというか、昔の自分はどこに行ってしまったのだろう、みたいな。
でも、(交代を告げられ)自分自身に憤(いきどお)っている時に、どこか懐かしさというか、俺ってまだこんなに熱くなれるんだってうれしくなりました」
来年には節目となる30歳を迎えようとしている。丸くなるのはまだ早い。
「マジで自分はここからだと思っています。昔から、サッカー選手として輝くのは30歳を過ぎてからだなって思っていたんです。だから、このタイミングでオニさんと出会えたことも、幸運だと思っています」
再び自分の牙を研ぎ澄ませようとするそのアップデートは、個を成長させ、チームをもさらに成長させていく。現状に満足せず、1勝にも満足せず、一切の隙を見せず、高みを目指し続ける。
<了>
【profile】
三竿健斗(みさお・けんと)
1996年4月16日生まれ、東京都武蔵野市出身。横河武蔵野FCジュニアユースを経て東京ヴェルディの下部組織に所属し、2015年3月のセレッソ大阪戦でJリーグデビュー。2016年に鹿島アントラーズに移籍し、ボランチやCBとして活躍する。2022年にポルトガルのサンタ・クララ、2023年にベルギーのルーヴェンでプレーしたのち、2024年7月に鹿島へ復帰。2017年12月の韓国戦でA代表デビュー。ポジション=MF。身長181cm、体重73kg。