リバプールがプレミアリーグで連敗を喫した。昨季、発足1年目から首位を独走したアルネ・スロット体制下では初の出来事だ。
遠藤航がベンチを出たのは、後半41分。日本代表MFは、スコア1-1のピッチに2ボランチの一角として投入されたが、アディショナルタイムを含む11分後には、敗者として敵地のピッチをあとにすることになった。
もっとも、当人は「難しいシーズンになるという予想どおりと言えば、予想どおり」と、冷静だ。
「1シーズンやって、相手も分析して、ここを使ったほうがいい、みたいなのがわかるから」
「ここ」とは、自軍の右サイド。換言すれば、基本の4-2-3-1システムで、絶対的な右ウイングであるモハメド・サラーが守備面のハードワークを免除されているサイドだ。後半アディショナルタイム5分、チェルシーに勝ち越すチャンスを作られたサイドでもある。
失点そのものは、遠藤がつく格好になった相手左SB、マルク・ククレジャの低弾道クロスを、ファーサイドでエステバンに合わされている。ククレジャにスルーパスが出た瞬間は、味方CBフィルジル・ファン・ダイクの動きからしても、オフサイドトラップをかけたかにも見えた。だが、背後にいたライアン・フラーフェンベルフとアンドリュー・ロバートソンが、ククレジャをオンサイドにしていた。遠藤自身は、こう振り返っている。「あそこは、俺がついていくか、ライアンがカバーするか。ライアンに名前を呼ばれて任されたので(自分が)行くしかなかった。もう少し早めに下がっていれば、足に当てられたかもしれないけど、ワンタッチでクロスを入れられたら、もう届かないという感じでした」
その決定機が敵に生まれる過程では、サラーにチェイシングをする気がないことから、ククレジャが楽々とリバプールのボックス内へと足を進めていた。右SBとしてサラーの後方で先発し、スペース、そして相手選手への対応に苦戦したコナー・ブラッドリーは、とうにピッチを去っていた。前節クリスタル・パレス戦(1-2で敗戦)に続く、ハーフタイム中の交代だった。
【ビハインドとなって「守備の人」は出場チャンスが減る】
しかし、自らも今季は開幕節ボーンマス戦(4-2で勝利)から、右SBとしても出場している遠藤は、「別にブラットリーひとりのせいじゃない」と説明する。
「チームとしての守り方で、要はサラーの攻撃のよさを生かすために、そこをみんなでカバーするという守備のやり方。ハマってはいなかった感じはあるけど、たぶん、どのチームも(それは)わかってやってきていることだかから」
遠藤自身はチームのMF陣では貴重な、優れた守備本能の持ち主だ。右サイドへの気配りも利く。両軍とも2点目を狙っていた終盤のピッチには、「かなりオープンになっていたので、状況を見ながら、いつ行くべきか、いつ守るべきかというバランス」を意識して入っていたという。実際、投入された3分後には、自軍ボックス内右サイドで敵のクロスをブロックし、続いて浮いたボールもヘディングでクリア。その4分後には、タッチライン沿いでパスを受けると、敵陣内まで上がってつないでもいた。
アウェーゲームであり、後半18分にコーディ・ガクポのゴールで試合を振り出しに戻していながら、終盤に再び盛り返された内容からしても、もう少し早く遠藤を入れる手もあったように思われる。
さらに言えば、先制を許した前半の段階でも、本職のボランチがピッチ上にいれば......と思わせる場面はあった。中盤中央のスペースを、素早い連係とドリブルで相手ボランチのモイセス・カイセドに使われ、ゴール左上隅にミドルまで叩き込まれた同14分の失点シーンが好例だ。
ビハインドとなれば、「守備の人」の出場チャンスは激減する。最終スコアは同じだが、出番のなかった前節は、後半42分まで0-1で追う展開が続いた。加えて、就任2年目のスロットは、采配において攻撃色を一層強めている感もある。
チェルシー戦、ブラッドリーと交代したレバークーゼンからの新戦力は、右SBのジェレミー・フリンポンではなく、攻撃的MFのフロリアン・ビルツだった。同時に、トップ下のドミニク・ソボスライが最終ライン右サイドへと持ち場を変えている。ボール支配による試合のコントロールを好む指揮官は、中盤深部のプレーメイカーを任せているフラーフェンベルフを後半11分からCBに回した。ベンチには本職のジョー・ゴメスもいたが。
【「今季はより攻撃的に......」】
その30分後に出番が来た遠藤は、今季の出場時間がリーグカップ戦での唯一の先発フル出場を含めて計145分に限られている。ただし、本人は「理解はできる」と、やはり落ち着いている。
「引き分けている状態でも勝ちにいく采配で、前の選手を入れて何かを起こそうという感じは、ホームでもアウェーでもあまり変わらない。
そこは難しいですよね。攻撃面の戦術とかやり方は個人的にも面白いですけど、(守備と)どっちをとるか。そこで監督は攻撃的なほうを採っているわけで、選手である自分たちは、とにかくできるだけの準備をしておくしかない」
結果が出ない試合が続いた第7節を終えて、「9」となったリーグ戦失点数は、同節終了時点のトップ4中で最多となっている。チェルシー戦では戦前、同様にポゼッションを重視するチームとの対戦であることから、コンパクトな守備を意識するのではないかとの見方もあったのだが、実態は違っていた。そのようなスロットのリバプールには、堅守速攻がハマっているパレスをはじめ、ボールは持たせても自由は与えずにポイント奪取を狙う相手が増えている。
スピードのあるカウンターによる失点は、今夏のプレシーズン中から兆候が見られたが、この点に関しても遠藤は前向きだ。一度は2-0からボーンマスに追いつかれた開幕節の翌日、話を聞く機会に恵まれた際に、こう話してくれた。
「(監督も)リスクマネージメントのところはずっと言っています。でも、カウンターは、対策をしても起こり得ることなので。
ただ、そこのケアを90分やり続けるのは簡単ではないし、監督も理解している。もちろん、失点は少ないほうがいいので、そこは毎回、常に振り返りながらやっていく感じだと思います」
【楽しみにしていたパラグアイ戦、ブラジル戦】
そのなかで自らは「チームありき」の姿勢を貫く。あまりポジションに対するこだわりもないと言っていた。
「ボランチかセンターバックでの出場機会が増えていくかなというイメージで、サイドバックも別に『やれ』と言われればやる。6番にこだわり続ける必要はないというか、それもリバプールでの存在意義のひとつだし。自分は(ここまでの)過程として、『海外に行くには6番かな』みたいなことがあって、6番で勝負したタイミングがロシア(ワールドカップ)後でしたけど、今は正直、どこでもプレーします。それが求められているので」
2026年ワールドカップでベスト8以上を狙う、現日本代表キャプテンとしての10月の2試合は、スタンフォード・ブリッジで右脚のハムストリングを痛めて欠場となってしまった。チェルシーとの試合自体は画面越しに観戦した筆者は、テレビカメラが追わないボールと離れた位置での出来事だったのかと思いきや、試合後に尋ねてみれば、他のベンチスタート組と一緒に終了後のピッチでスプリントなどをこなした際の不運だった。
「パラグアイ戦とブラジル戦、個人的にはめっちゃ楽しみにしていたんです。試合勘とかも含めて、絶対にやれたほうがいいですけど、本当に明日(英国時間5日)のMRI検査次第です。
そう話していた遠藤にとっては残念だが、プレミア再開後のリバプールとケガから復帰後の遠藤も非常に楽しみだ。話をクラブに戻すと、「ひとりひとりのメンバーを見たら、やっていない、戦えていないとは思わない」と、チェルシー戦での自軍を振り返ってもいた。
確かに、エースのサラーには2度、反撃を期した後半早々に得点機が訪れていた。今季は、"パス・マスター"でもあった右SB、トレント・アレクサンダー=アーノルドというボール供給源が去り(レアル・マドリードに移籍)、今のところはボールに触れる回数からして見た目にも減っている。ビルツの他に、ウーゴ・エキティケ(前フランクルト)とアレクサンデル・イサク(前ニューカッスル)も加わっているチームは、新たな前線の機能調整に取り組み始めたばかりでもある。
リバプールは、連敗前のリーグ戦5連勝中も、決して本調子ではなかった。今夏の移籍市場最終日にイサクを獲得した時点で、「今季もリーグタイトルの行方は決まった」とまで報じられた昨季プレミア王者は、まだまだこれからよくなるはずだ。
そして遠藤も言っている。「リードしている時間が増えれば、自分の出場時間も増える」と。