時の日本サッカー協会会長・田嶋幸三氏は、森保一監督を日本代表監督に招聘した一番の理由について「日本人監督で最も実績のある人物だから」と語った。2018年7月のことだ。
その3年後、森保監督(Jリーグ3度優勝)の実績を超える人物が現れる。2017年に川崎フロンターレを初優勝に導き、そこから計4度の優勝を飾った鬼木達監督だ。優勝4回は森保監督を上回る、監督としてのJリーグ最多記録であることは言うまでもない。
鹿島アントラーズの監督の座に就いた今季、鬼木監督は優勝争いから遠ざかっていたチームを活性化させることに成功。第33節を終了して、2位京都サンガに5ポイント差をつけ首位の座を維持している。残りの試合数は5。鹿島にとって9シーズンぶりの優勝、鬼木監督にとって通算5度目の優勝に向け、視界良好だ。
Jリーグ第33節で鹿島はガンバ大阪と対戦、0-0で引き分けている。終了間際に得たPKを18歳のFW徳田誉が決めていれば、優勝の確率は8、9割に達していただろう。優勝争いへの関心が代表ウィーク明けまでつながったという意味で、Jリーグ全体にとっては歓迎すべき結果だったと言える。
代表チームとJリーグ。戦うステージは異なるが、森保ジャパン、鬼木鹿島ともに終盤を迎えているという点で一致する。
大黒柱である鈴木優磨にも森保監督は代表キャップを1度も与えていない(2018年に選出された際はケガで辞退)。その国のリーグで首位に立つチームの中心選手を代表に選ばないのは、世界のサッカー界を見渡しても珍しい話だ。しかし、鹿島に日本代表候補が目白押しであるにもかかわらず、森保監督が渋って選んでいないというわけでもない。特に鹿島に好選手が集中しているようには見えないのだ。
【「やりくり」を可能にする多機能型選手】
現在の好調・鹿島を語る時、まず特筆すべきは鬼木監督采配だ。選手より監督が先にくる。目立つのはやりくりのうまさ。選手の回し方に安定感があるのだ。
やりくりを円滑にしている要因のひとつが多機能的な選手の存在だ。今季、横浜F・マリノスからやってきた小池龍太。数年前、川崎と横浜FMがJリーグの盟主争いを繰り広げていた頃から、鬼木監督は横浜FMのSBとしてプレーしていた小池に目をつけていたのではないか。
監督と同じタイミングで鹿島入りすると、シーズンの頭から先発で起用され続けている。出場時間はフィールドプレーヤーでは植田直通、鈴木に次ぐ3番目。すっかりチームの中心選手だ。
出場時間が増える理由は、カバーできるポジションが多いからである。右SB、右ウイング、左SB。鬼木監督は各所で彼を使い続ける。基本的には右左ともにできるサイドアタッカーだが、守備的MFをこなす能力もある。まさに今日的な選手。
エースの鈴木も多機能型だ。4-4-2の2トップというより、実際には1トップ脇と言うべきか。4-2-3-1の1トップ下でもあてはまるが、動きはいい意味で流動的だ。右ウイングに出たり、左ウイングに出たり、真ん中だけでなくサイドもできる。
G大阪戦では、終盤に見せた鬼木監督の戦術的交替も目を引いた。右ウイング・チャヴリッチと右SB・津久井佳祐の選手交替だ。これを機に、それまで右SBを務めていた濃野公人がポジションをひとつ上げ右ウイングに回った。0-0で迎えた終盤、右ウイングを下げてSBを投入した――と聞けば、守備固めに入ったかに見えるだろう。だが実際は、守備固めと攻撃強化を同時に行なう一挙両得の優れた交替だ。
昨季、もっぱら右SBだった選手を右ウイングで使う監督采配。
【日本代表にもいないわけではない】
森保監督にこの手のお楽しみはない。先のアメリカ遠征で、鎌田大地を2シャドーの一角から守備的MFとしてプレーさせた件も、もともとは所属クラブの監督のアイデアだ。
「本大会に向け3バック、4バック、両方できるようにしておきたい」と森保監督は言う。
実際に先のアメリカ戦では試しているが、うまくいきそうな気がしないのだ。CBの瀬古歩夢を左SBで起用する采配などは、申し訳ないが愚の骨頂だ。他にアイデアは準備していなかったのか。
日本代表にほしいのは小池のような多機能的な選手だ。
遠藤を見て想起するのは、2014年ブラジルワールドカップで優勝したドイツ代表の主将、フィリップ・ラームだ。大会の前半は4-3-3のアンカーで、後半は4-2-3-1の右SBとして出場。その多機能性なしにドイツの優勝はなかったと言いきれる。
戦術的交代の生みの親といえば、1998年フランスワールドカップでベスト4入りしたオランダ代表のフース・ヒディンク監督だ。その戦術的な交代を円滑にしていたのがフィリップ・コクー。大会を通して4-2-3-1の4つのポジションをこなした多機能性が相手の混乱を誘発した。
同じくヒディンクが采配を振った2002年日韓共催ワールドカップの韓国も、パク・チソン、ユ・サンチョルという多機能型選手の存在が複雑な戦術的交代を可能にしていた。対戦相手の選手は対面の選手が次々と変わったため、大混乱を強いられた。目眩まし戦法。筆者にはそう映ったものだが、それこそが番狂わせの要因だった。
板倉滉は川崎時代、守備的MFとしてもプレーしていた。守田英正も右SBでプレーした経験がある。いずれも鬼木監督時代の話だが、こうした選手を「見る目」こそが、まさに今日の監督に不可欠な要素だと確信する。
アメリカ戦で長友佑都はCBとしてプレーした。東アジアE-1選手権の中国戦でも同じポジションでプレーしている。その理由は何なのか。FC東京では現在、左右のSBとしてプレーするが、右も左もできる小池に似たところが、現在の長友の魅力ではないのか。それをCBとして起用し、対面の選手のマークを外して先制点を許すシーンを見せられると、長友以上に監督が心配になる。
森保監督が鬼木監督から学ぶべきことは多々ある。小池、鈴木、濃野を代表に呼べとは言わないが、多機能選手の存在はワールドカップで複数試合を戦ううえで必要不可欠な要素。森保監督には選手の適性を見抜く目が求められている。

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