【箱根駅伝2026】早大駅伝主将・山口智規が世界陸上で受けた...の画像はこちら >>

前編:早大駅伝主将・山口智規インタビュー

9月13日~21日、東京で開催された世界陸上選手権。連日、会場となった国立競技場は熱気に満ちあふれていた。

そんな熱狂から遠く離れて、大学生ランナーたちは来るべき駅伝シーズンに備えて走り込んでいた。早稲田大学の駅伝主将、山口智規(4年)もそのひとり。世界選手権の期間中は、ちょうど菅平高原(長野)で合宿中だった。それでも合宿明けの21日、唯一足を運ぶことができた世界選手権最終日に滑り込み、国立競技場で世界のトップランナーの走りを生で観戦した。

今季の前半戦、トラック種目で獅子奮迅の活躍を見せた山口は、世界選手権の選考がかかった7月の日本選手権に、主戦場としてきた5000mではなく1500mで出場。日本人学生歴代3位(日本学生歴代5位)となる3分38秒16の好記録で2位に入った。自身の成長に確かな手応えを得ることはできたものの、世界選手権には届かなかった。

山口にとって世界選手権は目指してきた舞台でもある。国立競技場で繰り広げられた世界の超人たちの競走を山口はどう見たのか。駅伝シーズン開幕を前に話を聞いた。

【世界陸上の盛り上がりにロス五輪への思い新たに】

――合宿中はみんなで集まって世界選手権を見ていたのでしょうか。

「集まって見ることもありましたが、各自で、自分の部屋で見ることが多かったですね。東京開催っていうのもあったかもしれないですけど、テレビを通してもあの歓声はすごかった。

いつもテレビで見ていて、"いいな、いいな"っていう感想しか出てこなかったです」

――大会最終日に実際に足を運んで、現地でその歓声を聞いてみて、いかがでしたか。

「いやあ、すごかったですね。夢が詰まっていました。(ノア・)ライルズ(アメリカ)が楽しんでいる感じが、すごくカッコいいなって思いました。ライルズが(大会4連覇を果たした)200mの表彰式で泣いているのを見て、相当思いが大きかったんだなって。100mも、後半は負けが決まっていたじゃないですか(3位)。それでも全力で駆け抜けたのを見て、カッコいいなって思いました」

――あの観衆のなかを走っているイメージは湧きましたか。

「いや、湧かなかったですね。でも、ロサンゼルス(五輪)に出たいという気持ちは強くなりました」

――1500mは、山口選手が日本選手権で2位になった種目です。この種目は、どのように見ましたか。

「自分だったらどう戦うかっていうのを考えました。予選や準決勝を見ていて、ビルドアップするようなレースが多かったと思います。

そうなると、自分が頑張って仕掛けても、そのペースは、あっち(世界のトップ選手)には心地いいペースにすぎないんだよな、とか。この舞台で戦うには、絶対的なスピードがもうちょっと必要だなって思いましたね。

 決勝に残ったメンバーを見ると、ひとつの目安として3分30秒切りは必須になると思いましたし、(ニールス・)ラロス選手(オランダ、5位)なんかは二十歳ですから。同じ年代の選手たちがあそこで活躍しているのを考えると、焦りとまではいかないですけど、もっと頑張らないといけないなって思いました」

【現地観戦した5000m決勝から感じたこと】

――最も印象に残った種目は?

「やっぱり現地で見た5000mの決勝ですね。日本ではめったに見られない12分台のレースだったので、すごく貴重な場面を見られました。(*日本国内で出された初めての12分台は、2021年の東京五輪で金メダルを獲得したJ・チェプテゲイ(ウガンダ)の12分58秒15)。4位に入ったオーストラリアの選手(カイ・ロビンソン)は、たぶんOAC(On Athletics Club)の選手で、アメリカで練習していると思います。今はアメリカやヨーロッパが進んでいて、ケニアやエチオピアよりも勢いがあるなと思いました。彼らは1マイルから取り組んでいるんですよね」

――確かに、5000mで優勝したコール・ホッカー選手(アメリカ)も、1500mも得意とする選手ですね。

「そうですよね。ホッカーは今年インドアでも12分台を出しています(2月21日・Boston University DMR Challengeで優勝)。レースの予想もしやすかったです。ホッカーと(ジミー・)グレシエ(フランス、3位)が来るだろうなと思って見ていました。

オーストラリアのロビンソンも予選がすごく楽そうだったので、決勝で上位に来るかなと思っていたら、4位に入りました。

 世界の勢力図が変わってきているのを感じました。ペースメーカーがいないレースだと、ケニア、エチオピア勢がガンガン行くレースが少なくなってきているのかなと。骨格の問題じゃないというか、多少はそれもあるかもしれませんけど、すごい夢があるなって思いました」

――5000mも100m単位でラップを見ると、かなり細かくペースの上げ下げがありました。

「それでも、ホッカーやグレシエは後ろで走っていて、やっぱりうまく対応していますよね」

――ホッカー選手はラスト400mが52秒台、ラスト100mは12秒51まで上がっています。

「ホッカーの練習がYouTubeに上がっているんですけど、400mを49秒で走っているんです。しかも、時計を見ながらですよ......。出力が相当違うなって思いました」

――ちなみに、山口選手は、400mはどれぐらいで走るんですか。

「どうですかね。全力で走ったことがないんですが、たぶん50秒ぐらいじゃないですか。ホッカーが49秒で走っているのはすごいですよね」

――2月、4月にオーストラリアのメルボルンで一緒に練習した選手も今回出場していました。

「そうですが、あんまりよくなかったですね。

男子はこぞって予選落ちしていたので。みんな、シーズン通してうまく走れていたわけではなかったので厳しいかなと思ってはいました。直前に自己ベストを出して東京に来た選手もいたんですけどね。

 僕は今、まずは12分台を出したいと考えているので、段階を踏むことを考えると、オーストラリアの環境はちょうどいいかなって思っています」

――5000m12分台は現実的なものとして見えていますか。

「いや、まだ見えていないです。でも、日本記録(13分08秒40)にはだいぶ近づいたかなと思っています。12分台を出すとしたら、今回の世界陸上の決勝のラップが(参考にするのに)ちょうどいいのかな。1000mから2000mが相当上がって、3000mから4000mでペースが落ちて、またラスト上がっているので、結構きついですけどね」

【日本勢の戦いから受けた刺激】

――今回の日本勢のレースはどのように見ていましたか。

「5000mに出場した森凪也さん(Honda)は、(400mの)ラップが60秒ぐらいに上がった時に2周ぐらいついていったので、すごいなと思いました。でも、テレビで見ていたのですが、CMが入ったので(レースの全貌は)よくわからなかったんです。マラソンも、ポイント練習の前だったので、あんまり見ていなかったですね。

 やっぱり三浦さん(龍司、SUBARU)はすごかったですよね。

サンショー(3000m障害)は夢がありましたよね。三浦さんだからか......」

――その三浦選手は、来季は1500mや5000mなど障害のないフラットレースに取り組むと話していました。

「やるんですかね......。5000mとサンショーは違いますからね。でも、三浦さんは相当速いと思います」

――山口選手はあらためて5000mや1500mで勝負したいと思いましたか。

「はい、思いました。できる限り近づけたらなって思います。でも、原監督(晋、青学大)が『日本の中長距離種目で世界と戦えるチャンスがあるのはマラソンしかない』っておっしゃっていましたが、意外とそれも正しいなとも思っています。特に今回のような条件のレースだと、日本の強さも光ってくると思うので。それでも、自分がやりたいことはトラックなので、トラックでまずは勝負していきたい。やりきりたいですね」

――これから駅伝シーズンを迎えますが、駅伝とは別物なのか、それとも延長線上にあるのか、どう思いますか。

「3つ(出雲、全日本、箱根)終わってからじゃないとわからないですけど、でも、アメリカの選手もヨーロッパの選手も、冬場はハーフマラソンもやっているので、そう考えると、できないことじゃないと思います。

かといって、箱根駅伝は、ハーフとはまた別の世界のような気がしています。もちろん強化していくものは同じかもしれないですけど。でも、5000mに必ずつながっていくのかなっていうのは思いますね」

つづく

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