【箱根駅伝2026】早大駅伝主将・山口智規が抱く学生最後の三...の画像はこちら >>

後編:早大駅伝主将・山口智規インタビュー

今季の早稲田大学は、ハーフマラソンで大学生世界一に輝いた"山の名探偵"工藤慎作や、鈴木琉胤と佐々木哲というふたりのスーパールーキーが話題となることが多かった。そして、彼らに負けじと、特大のパフォーマンスを見せたのが駅伝主将の山口智規だった。

シーズンイン当初こそなかなか調子が上がらなかったが、5月の関東インカレ(1部)で10000m日本人トップの3位となり復調の兆しを見せると、6月の日本インカレでは、日本人で初めて1500mと5000mの二冠を成し遂げた。さらに7月は、日本選手権で1500mに出場し日本人学生歴代3位(日本学生歴代5位)となる3分38秒16の好記録で2位。その翌週のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会では5000mに出場し、日本人学生歴代3位(日本学生歴代7位)の13分16秒56 で走り、外国人選手をも破り組1着でフィニッシュした。

前半戦の勢いを持って駅伝シーズンへ。今や学生長距離界を代表する選手になった山口に意気込みを聞いた。

前編〉〉〉早大駅伝主将・山口智規が世界陸上で受けた刺激

【自分のペースで駅伝シーズンへ】

――今季は前半戦、特に6月以降、絶好調でした。久々に1500mに取り組んだことの好影響もあったと思いますが、2月、3月のメルボルン遠征で走り込んだのも大きかったのでしょうか。

「そうですね。メルボルンではかなり基礎作りをしたので。そこに、4月、5月とスピードを乗せて、ちょうど6月に(調子が)合ったのだと思います。7月に5000mを走れたのも、かなりしっくり来ました。リディアード理論(*)って言うんですか。結構理にかなっているなって感じました」

リディアード理論......ニュージーランドの伝説的指導者、アーサー・リディアードが提唱したランニングトレーニング理論。

基礎となる有酸素能力を高めたうえで、順序だったトレーニングを積み上げていき、レース本番にピークを合わせていく。

――6月、7月と出力の大きいレースが続きましたが、ホクレンDC千歳大会が終わってからは、少し休養を挟んでから夏合宿に入ったのでしょうか。

「練習量は落としたかもしれないですけど、すぐ菅平(長野)に行って、チームの練習に入ったので、リフレッシュする時間はなかったです」

――8月中旬の妙高(新潟)合宿を訪ねた時は、別メニューでした。

「軽く自分の練習をしていたぐらいですね。去年まではそうでもなかったのですが、今年はトラックシーズン後半がかなりうまくいったぶん、出力も大きくて、アキレス腱とかかなり負担がきていました。できる練習はみんなと一緒にやっていましたが、ロングをやると痛くなったので、距離走をジョグに変えたりすることはありました」

――8月下旬から9月上旬の紋別(北海道)では、元気に負荷の高い練習をこなしていました。

「ポイント、ポイントはできていました。間を抜きながらでしたが」

――間を抜きながらの夏になったかもしれませんが、ご自身の夏の成果としては、昨年までと比べてどうでしょうか。

「去年よりは全然走り込んでいないですけど、一昨年と同じくらいはできていたと思うので、まあ、こんなもんでいいのかなと思っています。そんなに不安にはなっていないですね。悲観的ではないです。持ち味であるスピードを生かすというか、自分の長所を伸ばして勝負していく戦い方になると思うので、9月中旬の菅平合宿が終わってからも、自分の考えも花田さんに伝えてメニューを相談してやらせてもらってます」

【今年の早大は爆発力がある選手が多いのが特徴】

――9月28日のThe Road of WASEDAでは、チームメイトたちがロード5kmで良い走りをしていました。夏の成果が出たと思いますが、チームとしての夏はいかがでしたか。

「早稲田の特徴として"脆さ"がある。上が崩れたら弱い、脆いチームだっていう認識は、みんな心の中にあったと思います。やはり層の厚さはないので、駅伝では走るべき人は区間賞、区間新を狙って、つなぎの選手も区間3番から5番で走れるようなチームにならないといけません。それを感じながら、上の選手も下の選手も夏は取り組んでくれたので、底上げはかなり進んだと思います。夏合宿を経てかなり自信をつけてThe Road of WASEDAを迎えたので、みんなそこである程度走れてよかったです。

 ほかの大学も強かったですけど、だからといって、自分たちのやることをブレることはないですし、焦ることもないです。やり方はそれぞれあるだろうって思いますし、自分たちのやり方にはすごく自信を持っています。

 早稲田は、飛び道具というか、爆発力がある選手が多いのが特徴です。そんな選手でも、つなぎ区間を走ることになるかもしれない。そこに強みがある。それぞれが役割をしっかり果たせれば、面白いチームなんじゃないかなと思います」

――下級生からの突き上げはいかがでしょう。ここまで来てくれたか、って思う選手はいましたか。

「堀野(正太)ですね。1年生が元気で、堀野と山田(晃央)はお互いをライバル視して切磋琢磨しながらやってくれているのがいいですね。あとは、吉倉ナヤブ直希。2年は(山口)竣平ぐらいしか目立っていませんでしたが、ナヤブは、チームとしても、学年としても盛り上がる材料になっています。

 あとは、4年生がいいんじゃないですかね。宮岡(凜太)と(伊藤)幸太郎は、練習量をかなりこなしながらも、(5kmで)13分台で走りました。(指定校推薦や一般入試で入った宮岡や伊藤ら)一般組はすごく真摯に競技に向き合って競技に取り組んでいます。走らないといけない選手たちが"自分もやらないと"って奮起してくれる材料になっていると思います」

【区間賞を取って、3つ優勝したい】

――山口選手の駅伝シーズンへの意気込みはいかがでしょうか。

「テーマとしては、今の4年生は"佐藤・黒田世代"(駒澤大の佐藤圭汰と青山学院大の黒田朝日)と言われますが、そこに山口も入れようって思うんですけど......(笑)」

――今季の活躍を考えれば、入っていてもおかしくはない。

「どうなんですかね。入れるべきだと思いますけど(笑)。3つの駅伝で、区間記録とまでは言わないですけど、区間賞を取って、3つ優勝したいですね」

――まずは初戦の出雲駅伝から狙っていく。

「合宿中は"出雲、勝ちたいね"ぐらいだったんですけど、上の選手(の調子)が上がってきて"これはあるんじゃないかな"と思うようになりました。それでも、中間層がなかなか出てこなかったので...。それが、The Road of WASEDAも良かったですし、夏を越えて"出雲はいける"っていう雰囲気になってきたかな。(優勝への)手応えはあります」

――山口選手は、出雲で想定している区間はありますか。

「わからないですね。(花田勝彦駅伝監督からは)『何区でも行ける準備をしといて』って言われていますが。1区かアンカーがいいですけど」

――昨年は1区で区間12位でした。以前は「1区はあまり得意ではない」と話していましたが。

「あれだけトラックを走っておけば、大丈夫です!(駅伝の1区よりも)1500mのほうがきついっすよ、駆け引きは」

――層は厚くないとおっしゃっていましたが、核となる選手が複数名いるだけに、確かに出雲はチャンスがありそうですね。

「チャンスがあるのは出雲かもしれないですけど、やっぱり狙っているのは箱根なので」

――箱根駅伝では、過去2回は2区を走っています。今季は山口竣平選手も2区に意欲を示している一方で、ご自身も「準備はしている」と話していました。2区への思いは。

「こだわりはないです。でも仮に2区を任されるとしたら、なかなか大変な役割ですし、かなりレベルも上がっています。そこは責任を持って走らないといけないとは思っています」

――3区に推す声も多いように思います。

「3区って言われますけどね。そんなに下りが得意なわけではないんです」

――ほかに走りたい区間はありますか。

「復路を走りたいです。僕は7区か9区あたりがちょうどいいんじゃないですかね」

――今季の前半戦の活躍で、見られ方も変わったのではないでしょうか。マークされる選手になったというか。

「どうなんですかね。(5000m)13分16秒も、(1500m)3分38秒も日本選手権2位も、自分のなかで特別価値があるものだと思っていません。竹澤さん(健介、2008年北京五輪日本代表)の5000mの早稲田記録を更新することができて、ほっとした部分はありましたが、すごい記録を出したとは全然思っていません。駅伝では、今年は『黒田君に勝ちたいな』と思っています」

――黒田選手の名前が上がりましたが、他大学はどの程度意識していますか。

「あんまり意識はしません。どの大学も強いとは思いますけど、今年の早稲田も強いんじゃないかな。僕だけじゃなくて、(鈴木)琉胤や(工藤)慎作も、他大学の選手に負けるイメージがないですし。竣平も、つなぎ区間に回ったら負けるわけがない。ほかの大学がどうこうというよりも、(優勝するには)自分たちの役割、自分たちの走りをすることのほうが大事なのかなと思っています」

――順調そうですね。

「チームは順調だと思いますよ。久しぶりの優勝をみんなで獲りにいきたいと思います」

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