10月7日、有明アリーナ。世界一にも等しい欧州王者シル・サフェーティ・ペルージャが来日し、SVリーグ初代王者サントリーサンバーズ大阪と親善試合で対戦した。
「イタリアでもバレーは愛されていますが、監督会見にこれほど多くの記者が集まることは珍しく、みなさんに感謝を申し上げます。大きな会場が満席でした。オリンピックの決勝戦でも不思議ではなかったです」
試合後の会見で、ペルージャのアンジェロ・ロレンツェッティ監督は感嘆するように言った。
サントリーが髙橋藍を筆頭にオールスターチームで、人気があることは集客に大きくかかわっているだろう。関田誠大、小川智大など新加入選手のプレーも初お披露目だった。日本の王者が世界一を相手にどこまで戦えるのか、という興味もあったが......やはり石川祐希というアイコンが最大の熱源になっていたと言える。
「祐希をペルージャに観に行くことを考えたら、チケットは高いけど、むしろ得じゃない?!」
会場を歩く女性の言葉に、連れの女性ふたりも頷いていた。現在29歳のペルージャの日本代表選手は、なかなかライブで観られない。実際に国内に見参するのは初で、その価値はファンには垂涎ものだ。
そしてこの夜、石川は「世界」の片鱗のようなものを示している。
1セット目、ペルージャの選手たちは明らかに体が重そうだった。前日に到着したばかりで、時差と長旅の疲れは強烈。本来、試合をするようなコンディションではない。さらに、フィリピンで世界選手権を戦って合流が遅れていた選手も多く、ぶっつけ本番に近かった。サントリーの関田のトスワークに翻弄され、呆気なく20-25のスコアで最初のセットを落とした。
「今日の試合は、1セット目からミスというか、自分たちの流れが悪くて、リードを許すことになってしまいました」
試合後に石川は淡々と言った。
「チームの完成度はまだまだ低いと思っています。世界選手権から合流が遅れていたメンバーもいますし、今日の試合が選手全員揃ってできる最初の試合で。これから上げていくところですね」
【「海外に出たほうが得られるものは多いとは思います」】
しかし、欧州王者は試合中にアジャストし、徐々に調子を上げていった。2セット目は16-18と追いかける展開も、そこから石川のサービスエースでリベロの小川智大を潰して逆転に成功。25-21と逆転し、セットカウント1-1とした。
石川自身、まだ調子を上げている過程だったが、勝負どころの強さを見せた。試合の潮目となる瞬間に輝けるか。
フィリピンで開催された先の世界選手権最終戦のリビア戦後、石川はそう説明していた。
「やっぱり海外でやっていると、"ひとりでも戦える選手"になるので。ストレスがかかる環境のなか、たとえば言葉が通じなくても自分のパフォーマンスを出さないといけないですから。日本は自分の国だから生活はしやすいし、ストレスなくプレーできる。それはのびのびと戦えるという利点ですけど、ギリギリ限界を超えていく環境のほうが、成長はできると思っています」
石川は誰よりもバレーの研鑽を積んできた。それが強さの厚みにつながっている。懐の深さというのか。
今回のサンバーズ戦も3セット目は拮抗した展開だったが、デュースから26-24とセットポイントとなるサービスエースを、石川が再び決めた。
「日本代表の選手が、対戦相手にいるのは新鮮でした。サーブは5番(バックレフト)に打ってミスが出ていたんで、監督からも『1番、6番を狙って流れを掴んではどうか』と途中から言われていたので、狙いを変えました。それが結果、髙橋選手や小川選手を狙っているように見えたかもしれません」
【新シーズン、イタリアと欧州の全タイトルを狙う】
そう振り返った石川は試合のなかで狙いを変え、その日の最大出力を出していた。
「今シーズンはスーペルコッパ、コッパ・イタリア、世界クラブ選手権、チャンピオンズリーグ、イタリアリーグと5つ全部を制覇するつもりですが......。やはり昨シーズン、イタリアリーグで負けているので(プレーオフ3位)、個人的にはそこでの優勝を目指しながら、ですかね。もちろん出場するすべての大会(で優勝)を狙いますけど」
新シーズンに向けても、貪欲にタイトルを目指す。勝利に飽くことがない。それはトッププレーヤーの条件と言えるだろう。
2日目の10月8日、ペルージャは力の差を見せつけ、サントリーを3-0のストレートで下している。この日もチケットは完売で、前日と同じく満員。石川は要所で試合を決めるプレーを見せ、期待に応えた。
「イタリアのチームの選手として、日本でプレーできるのは僕自身、楽しみだったし、見てもらえたことを何より嬉しく思います」
凱旋した石川の言葉は、新たな戦いへの決意だ。
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