6年ぶりの復活優勝を遂げた柏原明日架から、楽観的な思考の持ち主と評されたコーチの森守洋。その森の「楽観的思考」が、堀琴音や菅沼菜々ら悩める女子プロゴルファーを復活させてきたことを前編・中編で見てきたが、その手法で、迷えるアマチュアゴルファーを10分もあればプロ並みのスウィングにできるという。

奇才・森守洋のコーチング理論・全3回中の後編

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【プロは「引っ張る」アマチュアは「押す」】

 森守洋コーチはアマチュアゴルファーにこんな提言をしている。

森(以下同)「何十冊も本を読んでも、お金を払ってレッスンを何年も受けているのに一向にうまくならないっていう人がいっぱいいますよね。それでも、ゴルフは難しいものという固定観念を植えつけられて、何の疑問も抱かずにレッスンを受け続けている人が多いじゃないですか。でも本当は、ゴルフスウィングは10分や20分で誰でもプロゴロファーと同じ動きになるんですよ。だから僕が言いたいのは、ゴルフスウィングの習得にそんなに時間をかけるのはやめようよ、ということなんです」

 いきなり森コーチの楽観的思考が飛び出した。「プロのようなスウィングが10分でできるようになる」と言いきったのは、驚きだ。本当に10分でプロ並みのスウィングになるのかどうか。続きに耳を傾けよう。

「ゴルフのスウィングには原則があって、この原則に則った振り方をしている人は誰もがプロのようなスウィングになります。その原則とは、クラブを『引っ張る』こと、それだけです。僕のスクールのレッスンでは、10分以内に、この『引っ張る』動きができるようになるという基準を設けています。逆に、この原則から外れた振り方をしている人は、ヘッドを当てようとか、速く振ろうとしてクラブを『押す』動きになり、これは、飛ばない、スライス、ミスショットにこれからも悩まされ続けることになると思います。

 ゴルフスウィングは円運動なので、クラブが外に飛び出そうとする力(遠心力)に対して、飛んでいかないように引っ張る力(向心力)がつり合っているとクラブは安定した円弧で動きます。

アプローチのようにゆっくり振っても、引っ張る力がつり合っていれば円弧は崩れません。この円弧が崩れるのは、クラブを当てにいこうとして、力を押す方向に加えた時です。初心者ゴルファーは空振りやダフるたび度に、上司や先輩から『ボールよく見て当てろ』って言われますよね。そうすると、ボールの一点を目がけてヘッドを当てにいく打ち方になり、そして当てるというのは『押す』動作になります」

【ゴルフ】奇才・森守洋コーチがアマチュアに伝えたいスウィングの原理原則  プロのようなスウィングは「10分でできるようになる」
【ゴルフ】奇才・森守洋コーチがアマチュアに伝えたいスウィングの原理原則  プロのようなスウィングは「10分でできるようになる」

 スウィング中でこの「引っ張る」「押す」という動きが一番わかりやすいのが、トップの切り返しからダウンスウィングの部分だ。「引っ張る」というのはトップから手元(グリップ)を引っ張り下ろしてくる動きで、グリップがクラブヘッドより低い状態で下りてくる「タメ」の状態がキープされて、ややインサイドからクラブを振るイメージのダウンスウィングだ。

 一方の「押す」というのは、ダウンスウィングでクラブヘッドをボールに当てにいく打ち方で、クラブヘッドがグリップよりも先行してアウトサイドからタメが解けて下りてくる『アーリーリリース』になるダウンスウィング。単純化すると、プロは「引っ張る」ダウンスウィング、アマチュアは「押す」スウィングが多く、これがショットに決定的な違いをもたらしているということになる。

 では、この「押す」動きが身についてしまっているアマチュアに対して、どのような方法で「引っ張る」スウィングに変えるというのか。

「まず、ペットボトルのキャップの下に適当な長さの紐をつけて、体の正面でゴルフのスウィングと同じ右回しでクルクル回します。回しているだけですけど、これはペットボトルを引っ張っているんです。この時に、引っ張っているという感覚がわからない人も多いので、そういう人には、うちのスタジオにある10キロくらいのクラブを振ってもらいます。

 10キロの重さになると、クラブを振るには引っ張るしかない、これって子供がクラブを振るのと同じなんです。

子供は身体が小さくて筋力が弱いのに対して、クラブは重いじゃないですか。だからクラブを引っ張って振るしかなくて、押す要素が少ない打ち方になるんです。この感覚が分かったら、次はペットボトルで球を打ちます。ペットボトルに紐撒いて回すと、回転の円弧が安定するので誰でも芯で当たるんです」

【止まらずに切り返せばオンプレーンに?】

 ペットボトルをクルクル回すことで、クラブを「引っ張る」動きが身についたら、次は、いよいよクラブに持ち換える。切り返しの時にクラブを「押して」いる動きを「引っ張る」動きに変えていけるかどうか。

「ゴルフスウィングでは、力を入れるところはテークバックでスタートしたところと、トップからの切り返しかありません。テークバックは静止した状態から動き出すので考えることがたくさんあるし、トップでの切り返しはいったん動きを止めてからまた動き出すわけだから、もう一度力をかけるというのは、余計に押す動作が入るんです。

 アマチュアの人が苦手なこのふたつの動きを『引っ張る』動きにするには、まずテークバックでは、最初にやったペットボトルやクラブのクルクル右回しを、左回しにするとテークバックでクラブを引っ張る感覚がわかってきます。切り返しは、トップでいったん止めてしまうと直線的な動きになるんだけど、動作でいうとトップでUターンをさせる円運動にすると安定するんです。だから、トップで止まらないで切り返せた瞬間に、アーリーリリースってほぼ直るんです。

 形は別に何でもいいから、止まらないで切り返して欲しいですね。これも、先ほどのペットボトルの右回しみたいに回すイメージで、ダウンスウィングに入った時に手元(グリップ)を引っ張って下ろしてくれば、どんなスウィングをしていてもオンプレーンになります」

 森守洋は、コックが解けてクラブが外から入ってくる、多くのミスを生む原因の「アーリーリリース」について、こんなことを言っている。

「これまでみんな時間をかけてレッスンに通って『アーリーリリース』を直そうとしているんだけど、時代としては、もう10分で治る時代になっていて、それはクラブを引っ張るという『原則』に則った動きをすればよいだけ。それを導き出す作業をするのが僕のやることだし、違う動作をしている人たちに『コッチだよ』って教えてあげるのが僕のレッスンです」

 アマチュア最大のレッスン課題である「アーリーリリース」を10分で治ると言い切る森守洋は、稀代の「楽観的思考」の持ち主と言えるだろう。

Profile
森守洋(もり・もりひろ)
1977年2月27日生まれ、静岡県出身。高校時代にゴルフを始め、95年に渡米しサンディエゴにて4年間ゴルフを学ぶ。帰国後、陳清波プロと出会い、陳先生のゴルフに感銘を受ける。2002年よりレッスン活動を開始し、現在は複数のツアープロのコーチも務める。

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