【箱根駅伝 2026】渡辺康幸が占う今季の大学駅伝の勢力図 ...の画像はこちら >>

前編:渡辺康幸の三大駅伝展望

大学駅伝の解説者としてもおなじみの渡辺康幸氏(現・住友電工監督)は、選手として早大1年時の1993年に箱根駅伝で優勝し、全日本大学駅伝は4連覇を果たしている。そして、駅伝監督として母校を率いた2010-11年シーズンには、出雲駅伝、全日本大学駅伝、そして箱根駅伝を制して、史上3校目の大学駅伝三冠を成し遂げた。

選手、そして指導者として数々の栄光を手にし、大学駅伝を知り尽くす渡辺氏に、今季の大学駅伝の展望を聞いた。

【解説として、OBとしての早稲田評】

――今季の勢力図は例年に比べて読みやすいのか、それとも混戦になりそうなのか、どのように見立てていますか。

「僕は3つとも、違う大学が勝つ可能性があるような気がしています。早稲田大と中央大は、メンバー的にもショートで強い。おそらく出雲から獲りにいくでしょう。出雲と全日本は、この2校が取り合うんじゃないでしょうか。

 箱根駅伝は、そこに青山学院大と國學院大、駒澤大が絡んでくるでしょう。早稲田は往路優勝できる可能性はあると思いますが、箱根に合わせている大学は、全日本、箱根と距離が伸び、区間が増えるにつれて、調子を上げていくと思います」

――すでに5校も名前が挙がっています。

「そこに創価大も入ります。創価は近年着実に力をつけて上位争いに絡んでいますから、全部上位に絡んでくると思いますね」

――渡辺さんの母校でもある早大は、今季はどんな特徴でしょうか。

「山口智規選手(4年)や工藤慎作選手(3年)がいますし、1年生から4年生までいい選手がおり、非常にバランスがいいなって思っています。来年度以降も強いですが、今年度も(優勝を)狙えると思います。

 やっぱり鈴木琉胤選手、佐々木哲選手という頼もしい新入生の存在が大きいのではないでしょうか。

僕が監督として三冠をしたシーズン(2010年度)も、大迫傑と志方文典という強力な1年生が入った年でした。チームバランスもその時に近いですね。

 ただ、決して層が厚いわけではないので、出雲は有利に戦えると思いますが、区間数が増えるにつれ、層の薄さが影響する場合もあると思います」

――いわゆる"つなぎ区間"で差が出てしまう。

「はい。差が出るのは、つなぎ区間ですね。早稲田はスポーツ推薦で入学できる人数が少ないので、選手層では他大学に劣ります。そこを"大砲"で補うことになる。8人ぐらいはエース級の力を備えた選手がいるので、全日本までは優勝争いができるメンバーを組めると思います。とはいえ、故障者が出ないことが前提です。(母校の)早稲田に関しては冷静に見ています」

――冷静に見ているのは、OBという立場からでしょうか。

「あくまで私の経験を元にした意見ですが、箱根を獲るならば、出雲は狙わなくてもいいと思っています。3番争いで構わない。

僕は箱根駅伝で勝つ大変さを知っていますが、3つ狙って勝てるほど、甘くはないですから。

 とはいえ、青学や國學院は、出雲の優勝を足掛かりに強いチームを作ってきました。できれば出雲から狙っていきたいという心情も理解できます」

【初戦の出雲は早大、中大、創価大が優勝候補】

――中大はトラックのタイム、実績を見ても、出雲、全日本と席巻しそうな予感があります。一方で、今夏はこれまで以上に走り込んだという情報もあります。

「中大は読めない部分があるんですよね。でも、ハマったら手がつけられないチームという印象です。吉居大和選手(現・トヨタ自動車)がいたときには優勝に届きませんでしたが、今シーズンはやりそうな感じがするんですよね。選手層では早稲田よりも上ですし、一人ひとりの破壊力も抜群です。駅伝に向けてチームとしてまとまってくればやはり強い。

 例年は、9月末に新潟の競技会の5000mで好記録を出して駅伝シーズンに臨んでいましたが、それで出雲には合わなかった。ところが、今年はトラックではなくロード(9月28日のThe Road of WASEDA)に出場しました。ロードとトラックって走り方がまったく違うので、あのまま調子をキープしていたら、出雲は面白いですよね。

 仕上がり具合を見ると岡田開成選手(2年)がいいですし、本間颯選手(3年)や吉居駿恭選手(4年)も強い。つなぎ区間を担う戦力も充実していて、おそらく溜池一太選手(4年)がアンカーで来るでしょう。

 出雲は早稲田か中大、のような気がしますけどね。それ以外のチームが勝つイメージはなかなか湧いてきません。

 駒澤は佐藤圭汰選手(4年)が出雲に間に合わなかったですし、前回大会を制した國學院は出雲に向けて調整しており、いいオーダーを組んでくると思いますけど、どちらかというと、距離が長くなったほうが強いと思います。青学も同じですね」

――出雲は2強対決になるという見方でしょうか。

「そこに加わってくるとしたら創価ですよね。日本選手権の5000mで決勝に進んだ小池莉希選手(3年)もいるし、留学生がいるじゃないですか。そう考えると、優勝の可能性も秘めています。

 出雲は先手必勝です。3区を終えた時点で前にいたところが有利ですよね。そこに創価がいるかもしれない。

アンカーも大きなポイントです。早稲田は工藤選手、中大は溜池選手が来ると予想していますが、ここにエース格を起用できるチームは強い。力がない選手が相手だと30秒ぐらいはひっくり返してしまいますからね」

――そういう意味では、昨年の全日本の8区で、創価大の野沢悠真選手(4年)は区間2位で走っており、早稲田の工藤選手に勝利しています。

「創価も力のある選手が来ると思います。だから、創価の優勝も可能性はあると思います」

つづく

⚫︎Profile
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高-早稲田大-エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪10000m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、2010年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説では、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。

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