瞬間的に身体が反応した。記憶に刻まれていた言葉が、ストライカーとしての野性を力強く後押しした。

「名波さんから『(足を)振れるタイミングがあったら振るように』というのは、この代表活動で毎日っていうぐらい言われ続けてきた。それが、あの瞬間に頭をよぎって。あそこですぐに振る判断ができたのは大きかった」

 10月10日に行なわれたパラグアイとのキリンチャレンジカップで、オランダのNECでプレーする小川航基が豪快な右足ミドルを突き刺した。

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 0-1で迎えた21分、前線からの連続したプレスから佐野海舟が小川へ縦パスを刺しこむと、トラップとともにシュート体勢へ移行して迷わず右足を振り抜く。強烈な無回転弾はGKに反応されたものの勢いを止めず、ゴールへと吸い込まれたのだった。

「自然とパッと、自分がシュートを打てる位置にボールをトラップできたところが大きいかな。ああいうところでボールがガシャガシャってなった時に、スパッと縦に入った時はディフェンスもガッと前にいきづらいと思うので、そのなかで判断できたのはよかった」

 9月のアメリカ戦では、クロスバーを叩く右足ミドルを放っている。

「インパクトのあるシュートをいつも心がけていて、アメリカ戦でもそういったシュートがありましたけど、ああいうシュートは自分の得意なシュートパターンというか、質かなと思います」

 しかし、そのアメリカ戦ではノーゴールに終わった。昨年11月の中国戦以来となるスタメンの機会で、結果を残すことができなかった。

「アメリカ戦はものすごく悔しくて。自分個人としてもそうですけど、ああいうふうに(前の試合から)選手を変えて挑んだ戦いで負けてしまったところも、チームとして結果を残せなかったのも、ものすごく悔しくて。

 やっぱりチームがうまくいかないと、個人としてもなかなか機能しないのがある。

なので、アメリカ戦からこのパラグアイ戦でまたチャンスをもらえたところで、今回に懸ける思いはホントに人一倍強いものがあった。複数得点したかったですけど、得点を取れたのは自信になるかと思います」

【11試合目で10ゴールを記録】

 複数得点のチャンスはあった。開始早々に右サイドからのクロスを、得意のヘディングで合わせた。後半開始早々の右CKでは、ゴール前で相手のマークを振りほどいてフリーになり、ヘディングで叩く。これはGKの好セーブにあった。

「自分のよさをだんだんみんなが理解してきてくれたかな、っていう印象は、試合を通してわかった。(伊東)純也くんやみんなが、僕がCKやクロスからの得点が得意だっていう共通意識を持ってくれて、いいクロスを上げてくれることが浸透してきたかなと。そのなかでああいうシーンが数多く増えてきたのは、自分にとってものすごくプラスだと思います」

 最前線で攻撃の起点となる役割も果たした。パラグアイのタフなCBとのマッチアップをパワーで制するだけでなく、シンプルにさばいて攻撃に流れも生み出していった。

「相手のCBは強さがありましたけど、自分のポストプレーに入るタイミング、味方とのタイミングで外せた場面は何回もあった。強さがある相手に強さで対抗する必要はないというか、相手の特徴を見て判断できるっていうのも、自分のよさだと思う」

 国際Aマッチでのゴールは、前回先発した中国戦以来だ。アジア以外の国から初めて得点を奪い、11試合目で10ゴールに乗せた。

 小川自身は「クロスの質だったり、周りの質がホントに高くて、自分のところにボールがたくさん入ってくる。

それが得点数を伸ばせている理由かな」と、チームメイトへの感謝を口にする。そのとおりのところがあるとしても、彼が結果を残すことには意味がある。

 代表チームのレベルアップを後押しする要素は、大まかにふたつある。

 レギュラー格の選手を脅かす存在の出現と、個々の選手が所属チームで自信を深めていくことである。パラグアイ戦の小川は、ひとつ目の要素に当てはまる存在と言える。

 一方で、ふたつ目の要素にズバリ当てはまるのが、パラグアイ戦で終盤からピッチに立った上田綺世だ。

【開幕から8戦8発の上田綺世】

 オランダ・エールディビジで得点ランク首位を走る27歳は、後半アディショナルタイムにスコアを2-2とする同点ゴールを決めた。右サイドからのクロスがファーポスト際へ流れると、相手DFの視野から逃れた上田がダイビングヘッドで押し込んだのだった。「ワンチャンスで決める準備はしていた」と話す納得の一撃である。

 在籍3シーズン目となるフェイエノールトで、開幕から8戦8発と結果を残している。2023-24シーズンは5ゴール、2024-25シーズンは7ゴールだったから、早々にオランダでのキャリアハイを更新したことになる。

 得点量産を後押ししているのは、絶え間ない積み重ねである。

自分のプレーを細部まで見つめ、さまざまな角度から検証してきた。

「フェイエノールトに入ってからうまくいかないことばっかりだったけど、自分ができないこと、自分に足りないもの、必要なものをチームと協力しながら、ひとつずつステップを踏んでやってきた。それは別にフェイエノールトへ行ってからだけではないですけれど、少しずつそれが自分の力になって、うまくいかないことに対して向き合った結果だと。あくまでも積み重ねです」

 上田と小川が揃って得点を決めたのは、昨年9月のバーレーン戦以来2度目だ。試合後の森保一監督は「得点を期待するポジションの選手が取ってくれた。チームとして自信を深めて積み上げていける」と、オランダでプレーするふたりのストライカーを評価した。

 10月14日には舞台を大阪から東京へ移し、ブラジルと激突する。日本対パラグアイ戦が行なわれた同日にソウルで韓国と対戦したサッカー王国は、5-0で大勝している。

 遠藤航らの主力を多く欠くなかで、ブラジルにどこまで食らいつくことができるか。上田と小川の出来は勝敗のポイントであり、見どころでもある。

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