10月10日、吹田。サッカー日本代表は、南米の伏兵パラグアイと戦って2-2と引き分けている。
森保一監督が率いる日本は、来年の北中米ワールドカップに向けて憂慮すべき状況にある――。
パラグアイは決して派手なチームではない。選手個々のネームバリューで言えば、日本の選手よりも明らかに下だろう。プレミアリーグでプレーする選手もいるが、アルゼンチン、ブラジル、MLSでプレーする選手たちが主力で、伝統的にタフで堅実さが売りだ。ところが、チームとしてサッカーの質が高かったのはパラグアイのほうだった。もっと言えば、サッカーになっていた。それは、"原則が守れていた"とも同義で、森保ジャパンは原則を守れていなかった。
たとえば前半21分、先制点を奪われた場面は象徴的だろう。パラグアイの選手が中央でボールを受けると完全なフリーに。ほとんどFKの要領で蹴ったボールに、左サイドからアタッカーが斜めに走り込んでいる。レフティのミゲル・アルミロンは左足でトラップし、左足で蹴り込んだ。
森保ジャパンのバックラインは、一瞬のうちに簡単にラインを破られ、失点している。パスが出る前、瀬古歩夢はオフサイドトラップを狙ったようだった。しかし、その狙いそのものが致命的だったと言える。なぜなら、ディフェンスがオフサイドを狙う場合、「出し手にプレッシャーがかかっている状態」が原則。自由に出せる局面で不用意にオフサイドトラップをかければ、失点も自明の理だ。
また、後半19分の失点も、日本のディフェンダーが原則を守れていなかった。
「ペナルティエリアにゾーンはない」
これはスペインや南米の指導者がしばしば使う守りのセオリーである。もちろん、ペナルティエリアでもゾーンで守ることはあるが、好きなようにプレーさせたら後手にまわるわけで、"自分が守るスペースに入った選手は必ず潰せ"というのが鉄の掟だ。
【守備も攻撃も中途半端に】
右からのクロスに対し、日本の渡辺剛、瀬古歩夢はポジションをとっていたが、相手アタッカーを掌握できていない。結果、先に前に入られて、あっさりとヘディングで合わせられた。パラグアイのディフェンスが、クロスに対し、常に相手とボールを同時に見て堅実にクリアしていたのと対照的で、日本の3バックはスペースを守るゾーンの意識だけが強く、人数がいることに満足していた。
試合後、鎌田大地が言葉を選びながら、サッカーIQの高い指摘をしていた。
「今日の感じだと、守備をもっとできないと大量に失点してしまう。攻撃の部分もやっていかないといけないけど、"守備からいい攻撃"というのが自分たちの土台だし、こうやって失点していたら勝てない。その点、アベレージに足りていなかった」
言うまでもないが、これは選手の資質の問題だけではない。森保監督が好む3バックが、構造として破綻を見せているのだ。
たとえば前半40分、3バックの右に入った瀬古は、パスをつけようとしてカットされてしまい、渡辺へのスローインは短すぎて、思いきって縦パスを入れるもGKに流れていた。一連のプレーは、積極性が出ていたとも言えるが、急ぎすぎて雑さにつながっていた。3バックの右という独特のポジションで、森保監督から守備だけでなく攻めの一手になることも求められているのだろうが、オーバータスクになっているのだ(しかも、瀬古は左センターバックのほうが視野をとれるという特性があるはず)。
結果、3バックは守備も攻撃も中途半端になった。
ウイングバックにも同じことが当てはまる。
たとえば斉藤光毅は新鋭の左アタッカーだが、デビュー戦で慣れないウイングバックで起用されていた。機能するはずがない。攻撃に特化した選手にも守備のタスクを与えるのはわかるが、ウイングバックはそもそも攻守を半々に求められるポジションで、日本人で所属クラブでハイクラスの運用ができている選手はいない(伊東純也は資質があるが、彼も攻撃のポジションで守備をするほうが定石だ)
このままでは、3バックとウイングバックの接続域は必ず"火薬庫"になるだろう。
日常的に3バックやウイングバックでプレーする選手が少なく、選手の適性もないなか、なぜ森保監督がこの戦いに固執するのか。攻撃の枚数を増やし、トライアングルを作るにしても、守備の負担が大きすぎる。単純に、欧州のトップリーグで二桁得点できるサイドアタッカーを重用し、人材の豊富な中盤(ケガ人も含めば、遠藤航、守田英正、鎌田大地、佐野海舟、田中碧など)の枚数を増やすほうが得策のはずなのだが......。
これがワールドカップだったら、目も当てられないゲームだった。スタジアムは最後の一撃に歓喜していたが、パラグアイにとって敵地でのドローは勝利に等しい。原則も守れず、「ワールドカップ優勝」など戯言もいいところだ。
10月14日のブラジル戦でも、強情な森保監督がやり方を変えるとは思えない。パラグアイ戦で温存したメンバーで同じ戦いをするだろう。上田の連発は可能性があるし、鎌田のプレーメイクは別次元だが、守備は常に火種が燻り、チームとして明るい兆しは乏しい。