森保一監督の限界を見た一戦。2-2で引き分けたパラグアイ戦をひと言で言えばそうなる。

ワールドカップ本大会に向けて上がり目なし。監督交代を求めたくなる一戦だった。

 先月のアメリカ遠征では、FIFAランク14位のメキシコに0-0で引き分け、同16位のアメリカに0-2で敗れた。同19位の日本にとってはいずれも格上だ。ワールドカップの目標は「優勝」などと大口を叩かなければ、何とか納得できる結果である。しかしパラグアイは同37位だ。長旅でコンディション万全とは言えない相手とのホーム戦に「ほぼベストメンバー」(森保監督)で臨み、アップアップになりながら引き分けた。

 しかも小川航基がゴール正面から放った前半26分の同点弾は、相手のGKがバランスを狂わせた、多分にラッキーを含んだ産物だ。負けに等しいドロー劇。試合を重ねるほどに日本の症状は悪化している。

サッカー日本代表の「選手の頑張りに頼る」やり方は限界 パラグ...の画像はこちら >>
 筆者は勝利至上主義者ではないので、引き分けても試合内容に大きな問題がなければ、サッカーではよくある話と、楽観的でいられる。テストが満載されていて、今後に向けて大きな収穫が得られたならば、むしろ喜ばしい出来事だと納得することができる。
だが、まったくそうではない場合、悲観するしかなくなる。

 戻る場所、定位置、定番が、すっかり見えなくなってしまった。この日の11人がいま考え得るベストメンバーと言われると、悲しい気持ちになる。森保ジャパンは迷走状態にある。ワールドカップアジア予選をユルユルの環境下で戦ってきたツケが回ってきている状態だ。

 森保監督の力量不足は、試合後の会見の現場にも表われていた。パラグアイ代表グスタボ・アルファロ監督との談話の中身の違いである。試合は2-2だったが、監督会見の納得度には5-0ぐらいの開きがあった。どっちの監督の話がわかりやすいか、耳を傾けたくなるか、納得できるか、優劣はハッキリしていた。

 その席で森保監督は「サッカーは、1失点は覚悟しなければならないスポーツだが、複数点を献上すると難しくなる」と述べて2失点目が痛かったと振り返った。後半19分、右SBフアン・カセレスのセンタリングに、トップ下ディエゴ・ゴメスがヘディングで反応。追加点を決めたシーンである。

【「矛盾」が集約されていたパラグアイの2点目】

 その頃、左ウイングバック(WB)の中村敬斗は、相手ボールに転じた時、5バックの一員として最終ラインに留まろうか、高い位置を取ろうか、最適なポジションを取りあぐねていた。スコアは1-1。中村は勝ち越したいという気持ちが勝っていたように見えた。

 5バックのWBとしては高すぎる位置。4バックのウイングにしては低すぎる位置。中途半端だった。日本の最終ラインは4+1の状態で、4と5の間(左CB鈴木淳之介と中村の間)には大きなギャップが生じていた。

 前からプレスに行くのか。引いて構えるか。徹底されていない感じだった。相手にとってそこは狙い目。危なそうに見えた。

「日本はやや三日月型をした5バックの上に5角形(2ボランチ、2シャドー、1トップ)が乗っかる布陣。

サイドアタッカーはWBひとりだ。我々はまずSBにボールを預け、その上で構えるウイングとふたりがかりで日本の両WBの背後を狙った」とは、アルファロ監督の試合後の言葉である。

 これは5バックの相手と対峙するときの定石だが、中村と鈴木淳之介はそれを認識していただろうか。中村の中途半端なポジショニングは、日本ベンチの目の前で起きていた事象だ。日本のベンチはどうだったのか。危ないという認識はなかったのか。

 その間にパラグアイは中村の背後を突き、プレッシャーのないなかでボールを受けた右SBカセレスは、狙いすましたボールを中央のディエゴ・ゴメスに送り込んだ。2点目のゴールを浴びた瞬間だ。

 森保監督は試合後の会見で向けられた「鈴木淳之介はよかったと思いますが、森保監督の評価をお聞かせください」との質問に、肯定的な台詞を述べていたが、筆者には中村との関係は大きな問題に見えた。

 相手ボール時には5バック、マイボール時には3バックで構える森保式サッカーの問題は、中村敬斗、鈴木淳之介個々の問題ではない。ベンチの問題だ。ましてや鈴木は代表戦の出場はこれが2試合目である。

 中村のポジションが中途半端になる理由もわからないではない。5バックを組めば、フィールドプレーヤーは10人なので、残るは5人になる。5人で高い位置からプレスを掛けに行くわけだ。

【「5バック」と「前からプレス」】

 パラグアイは4バックなのでその前方には6人いる計算になる。5人でプレスを掛けに行くほうが、6人でプレスを掛けに行くより大変だ。運動量を20%増しにしなければピッチをカバーすることができない。

 その昔、日本代表監督を務めていた岡田武史氏がNHKのインタビューに答えていた台詞を想起する。

「サッカー選手は1試合平均10キロ走ります。それを日本は12キロに増やすことで、強豪に対抗しようと考えています」

 岡田元監督はとにかく頑張って走れという思いきり精神論&根性論を振りかざしたわけだが、そんなことをしたら選手は疲弊して潰れる。森保サッカーも同じ気質を引きずっていた。選手の負担に頼るサッカーだ。

 5バックは後ろで守ろうとするサッカーだ。

守備的サッカーと言われる所以だ。森保監督は5バックで守りながら、前線からボールを追いかけることを強要する。プレッシングサッカーの定番は4バックだ。プレスを重視するなら、なぜ4バックで戦わないのか。

 後ろを固めることも重視したいからだろう。「賢くしたたかに」とは森保監督の口癖だが、筆者に言わせれば「狡い」サッカーだ。

 パラグアイ戦で、日本には足をつる選手が目立った。だが、今日のサッカーは選手交代が5人できる。パラグアイ戦のような親善試合は6人が相場だ。5バックでプレスを掛けようとする森保監督的なやり方が、いま世界にじわりと増えている理由でもある。5バックサッカーが占める割合は3割に迫ろうとしている。

 そのなかで「兼プレッシング」となると1割程度に下がるが、矛盾を抱えていることは事実。

5バックでプレスを掛けようとすれば、自軍両WBの背後はいつの時代も相手の狙い目になる。さらに、森保監督はそこに中村や堂安律、伊東純也、今回は欠席している三笘薫など、4バックではウイングを務める選手ばかりを起用する。より背後を狙われやすい設定となっている。

 5バックで後ろを固めながら、前方からプレスを掛ける。パラグアイ戦はその結果、「二兎を追うものは一兎を得ず」に陥った。

 そしてプレスが掛からなくなると、最終ラインは人数が多くてもバタついた。パラグアイの確かな個人技に手を焼くことになった。

 本気でプレスを掛けたいのなら4バック。後ろで守りたいなら5バック。両者をうまく使いながら成功を収めた監督は数えるほどしかいない。「賢くしたたか」と自画自賛しながら、両方を追い求め、選手に負担を掛けるのは、選手ファーストの視点からも外れている。欧州組を多数抱える日本には適性の低い、優しくないサッカーだ。

 選手の頑張りに頼る非論理的かつ非効率的サッカーに未来はない。筆者には勝ち負けの問題より、そちらのほうにまず目が向く。

編集部おすすめ