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MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載12:松井稼頭央

届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。


MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。

第12回は、日本人内野手として7年間メジャーでプレーした松井稼頭央を紹介する。

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【ロッキーズではスタメンでワールドシリーズに出場】

 ニューヨーク・ヤンキースの"レジェンド"的な存在になった松井秀喜は2024年、2025年と2年連続で古巣のプレーオフで始球式を務めた。一方、同じ時期にニューヨーク・メッツでプレーした松井稼頭央はまだ、そのような機会は得ていない。

 残念ながら"リトルマツイ" は"ビッグマツイ(=松井秀喜)"のような"ニューヨークの成功者"とは捉えられていないというのが現実ではある。特に華々しい脚光を浴びて2004年にメジャー入りした当初は、適応に苦しんだ。同年の開幕戦でこそいきなり初球で先頭打者本塁打を放ち、同僚のスーパースター、マイク・ピアッツァに「これほどのデビューは見たことがない」と感心されたほどだ。しかしそれ以降は攻守両面でしばらく精彩を欠いてしまう。一時はちょっとしたミスをするたびに激しいブーイングに晒され、ニューヨーカーのターゲットにされていた印象があった。

 ただ、だからといって、松井稼のメジャーキャリアが失敗だったと言いたいわけではない。むしろ、その逆。メッツからコロラド・ロッキーズ、ヒューストン・アストロズと移籍し、アメリカの舞台で一定のサクセスストーリーを紡いだ、数少ない日本人内野手だといっていい。

 1年目は厳しい目で見られた時期もあったとはいえ、スイッチヒッターの特性を活かし最終的な成績は打率.272、7本塁打、OPS.727、14盗塁。

チーム最多となる125安打、32二塁打、2三塁打をマークするなど、守備が重要な遊撃手として、打撃成績は必ずしも悪いものではなかった。

 2、3年目はケガもあって低迷するも、3年目の途中にロッキーズに移籍すると終盤戦の32試合で打率.345、OPS(出塁率+長打率).896、8盗塁と復調。メディア、ファンもニューヨークと比べて穏やかなコロラドは肌に合ったのか、続く2007年も打率.288、4本塁打、37打点、32盗塁と核弾頭的な存在として定着する。この年のロッキーズは終盤戦14勝1敗という驚異的な快進撃でプレーオフに進出。松井稼はフィラデルフィア・フィリーズと対戦した地区シリーズの第2戦では敵地で逆転満塁本塁打を放って脚光を浴びた。

 ロッキーズはワールドシリーズまで勝ち進み、松井稼自身はポストシーズン通算成績でも打率.304、OPS.847と好成績を残すなど、メジャーキャリアでも最も大きな輝きを放った1年となった。メッツ時代は一時酷評されていた守備も、ロッキーズ時代には二塁手として及第点以上のものを見せていたことはつけ加えておきたい。

【再評価されるべきメジャーでの適応力】

【MLB日本人選手列伝】松井稼頭央 日本人内野手として着実な足跡を残した「リトルマツイ」
ロッキーズでは二塁手として堅実な守備も見せ、ワールドシリーズにも出場 photo by Getty Images
 松井稼のキャリアの推移を振り返ると、ふたつの真実が見えてくる。まずはやはり日本人内野手のメジャーへの適応は簡単ではないこと。それと同時に、時間をかけてアジャストメントを成し遂げる例も存在するということだ。

「ストライクゾーン、ボールの違い、天然芝と人工芝の違い、スタジアムの大きさの違いとか、日本人内野手の苦戦には多くの要素が考えられる。うまくいかなかった場合、その理由は選手によって違うんじゃないかな」

 2007~08年にオリックスの監督を務め、その後にメッツの指揮を執ったテリー・コリンズは日本人内野手の適応の難しさを、そう説明していた。

松井稼以外にも井口資仁、岩村明憲のようにまずまずの成績を収めた選手もいるが、その一方で西岡剛、川崎宗則、中島裕之、中村紀洋田中賢介筒香嘉智などは活躍できたとは言い難い。日米の野球を熟知するコリンズが指摘した以外にも、日本人内野手の難しさは、日程の厳しさ、生活環境の違い、所属チームとの相性などさまざまな要素が考えられる。

 獲得時に大金が費やされている場合が多いことから、適応のための時間が極めて限られているのも大きい。ニューヨークの地元テレビ局「NY1」でプロデューサーを務めた日系人で、自らも大学まで野球をプレーした経験があるザック・タワタリ氏はこう述べていた。

「日本人選手の場合はもともとの給料の高さ、期待の大きさ、"ルーキーではない"という認識から、即座の結果を求められる。それができないと"失敗"と見なされてしまうようにも思える。日本人に限らず、どんなすごいスーパースターでも、いきなり数字を残せる選手はほとんどいないということを、忘れるべきではない」

 それらすべてを考慮すると、メジャーで3チームを渡り歩き、7シーズンに及ぶキャリアを築いた松井稼は、日本人野手として珍しいケースと言っていい。もともと器用なタイプではなく、当初は苦しむも、時間を経るごとに適応した。

 アメリカでスーパースターになるのは容易ではなくとも、このようにいぶし銀のような働きができる日本人内野手は、ほかにもいるのだろう。遊撃手から二塁手に転向して生きる術を見出し、ワールドシリーズ進出に貢献するほどの実績を残した松井稼は、再評価されてしかるべきで、今後の日本人内野手にとっても、ひとつの指標となってもいいように思えてくる。

【Profile】まつい・かずお/1975年10月23日、大阪府出身。PL学園高(大阪)―1993年NPBドラフト3位(西武)。

2003年12月にニューヨーク・メッツと契約。2010年11月に東北楽天と契約して日本球界に復帰。2018年いっぱいで現役引退後、埼玉西武の二軍、一軍監督を務めた。
●NPB所属歴(17年):西武(1995~2003)―東北楽天(2011~17)―埼玉西武(2018)
●NPB通算成績:1913試合出場/打率.291/2090安打/201本塁打/837打点/363盗塁/出塁率.344/長打率.450
●MLB所属歴(7年):ニューヨーク・メッツ(2004~06途)―コロラド・ロッキーズ(2006途~07)―ヒューストン・アストロズ(2008~10) *すべてナショナル・リーグ
●MLB通算成績:レギュラーシーズン=630試合出場/打率.267/615安打/32本塁打/211打点/102盗塁/出塁率.321/長打率.380 プレーオフ(1年)=11試合出場/46打数/14安打/打率.304/1本塁打/8打点/出塁率.347/長打率.500

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