【箱根駅伝2026】出雲駅伝で全区間5位以内、過去最高の3位...の画像はこちら >>

【チームとしても選手個人としても自信になった】

「目標の3位以内をなんとか達成できてよかったです。昨年は、出雲、全日本ともに4位で、もうひとつ殻を破れなかったんですけど、今回は3位を死守するところを全員でやってくれたので、チームとしても選手個人としても自信になったと思います」

「学生三大駅伝」の初戦となる出雲駅伝(10月13日)で、過去最高の3位に入った創価大の榎木和貴監督は、そう言ってホッとしたような笑みを見せた。

 今季の創価大の大テーマは、昨年のエース・吉田響(現・サンベルクス)が抜けた穴をどうやって埋めるのか、だ。

 昨年の出雲駅伝で、吉田響は2区区間賞の好走でチームを10位から先頭に押し上げた。続く全日本大学駅伝でも2区を走り、3位から2位へと順位をアップ。いずれの大会もチームは総合4位で、その原動力になった。迎えた箱根駅伝は、エース区間の2区に出場し、区間新記録(2位)の激走でチームを17位から4位にまで引き上げ、往路5位に貢献した。そんなスーパーマンがいなくなってしまったのだ。

 ただ、毎年選手が入れ替わるのが、学生スポーツの難しさであり、面白さでもある。今季の創価大の選手たちは"大きな穴"を埋めるべく、春夏のトラックシーズンで個々のレベルアップに注力した。

 7月12日のホクレン・ディスタンスチャレンジ(ホクレンDC)・千歳大会では、織橋巧(3年)が5000mで13分49秒20、同19日のホクレンDC・網走大会ではスティーブン・ムチーニ(3年)が13分26秒50と、いずれも自己ベストをマークした。さらに山口翔輝(2年)、野沢悠真(4年)も、9月28日のThe Road Of WASEDAの5kmでトラック5000m自己ベスト相当のタイムを出した。また、黒木陽向(4年)、小池莉希(3年)、山口、石丸修那(2年)は、夏にケニアで3週間走り込んだ。

 小池は、ケニアでの練習が大きかったという。

「ケニアでの走り込みで、ロードが苦手なイメージを払拭できたのはすごく大きかったです。

気持ちの部分では、ケニアの人はみんな食べるために、生きるために必死に走っている。そこで走ることで、自分の闘争心が掻き立てられました」

 小池は、過去最高の練習ができた成果を今回の出雲駅伝で披露した。1区の織橋から4位で襷を受けると、区間4位の走りで、トップの早稲田大から21秒差の3位で3区のムチーニにつないだ。

「でも、ラスト400mでやっちゃいました(苦笑)。(そこまでは)区間2位で来ていたんですけど、(早大の山口)智規(4年)さんに後ろにつかれて、うまく使われた感があって、さらに前に出られてから苦しくなって......。最後の"襷際"のところが弱くて、区間4位に下がってしまったので、あと5秒稼げていれば、チームはもっと余裕を持って、目標の3位以内を達成できたと思うんです。そこは課題かなと思います。ただ、それでも果敢に攻めることができたし、自分らしい走りもできたと思うので、ケニアの成果が出たのかなと」

【ムチーニ「3位は、全員の勝利」】

 小池とともにケニア合宿に行った山口も、5区で区間4位と及第点の走りを見せた。

「5位で前が見える位置で襷をもらえたのですが、暑くて後半苦しい展開になると思ったので、できるだけイーブン(ペース)で行って、そこから耐えて粘る走りをイメージしていました。実際に後半に粘れたので、ケニアで走った練習の成果が出たかなと思います」

 3区で区間5位のムチーニは「3位は、全員の勝利」と笑顔を見せた。

「出雲は初めて走りましたが、自分にとってはタフなレースになりました。最初はまったく問題なく走れていましたが、ラスト3キロから急に疲れてしまい、区間順位を下げてしまいました。最低限の走りはできたけど、駅伝はよい時もあれば悪い時もある。

次はもっといい結果を出したいです。(吉田響さんはいなくなりましたが、その分、)全員がよりハードワークするようになった。そこが成長しているところだと思います」

 夏合宿を順調に終え、出雲駅伝に出場した関東10校の10000m平均タイム(エントリー選手の上位6人)では、中央大、國學院大に次いで3番目(28分26秒52)、青山学院大よりもひとつ上だった。

 ただ、自信はあったが、駅伝はやってみないとわからない。不安と期待が入り混じるなか、個々の選手が今季、積み重ねてきた練習の成果を発揮し、目標の3位以内、さらには優勝も狙える位置でレースを進めることができたわけだが、その裏には榎木監督の絶妙な区間配置もあった。

 レース前日、榎木監督は自信に満ちた表情でこう語っていた。

「調子のいい3人(織橋、小池、ムチーニ)を前(1~3区)にそろえられました。1区は、織橋か石丸(惇那・4年)で迷ったのですが、織橋はラスト勝負がしっかりできるようになり、石丸は単独で押していける力があるので、1区織橋、4区石丸(惇)でハマった感じです。

 3区までは他大学の留学生や強い選手がいるので、4区の石丸(惇)で抜けて、5区の山口は向かい風でも追い風でも暑くても走れる選手。前回、急遽3区をまかせて少し荷が重いなかでもいい走りをしてくれたので(区間4位)、今回は身軽になったぶん、爆走してくれると思います。そうして最後は、野沢が締めてくれる。今回は、自信を持った6人を配置できました」

 その言葉通りに、レースは展開した。

1区から最終6区まで全員が区間5位以内という安定した走りを見せた。4位だった前回、区間5位以内で走ったのは吉田響と4区の吉田凌(現・JR東日本)だけだったが、今回は全員が想定通りの走りを見せた。それだけ個人の力が上がったことの証左でもある。榎木監督もこう語る。

「力がついたと思いますね。でも、優勝を狙うとなると、全員が区間3位以内、もしくは誰かが区間賞を獲らないと厳しいでしょう。それぞれの選手があと5秒、10秒、足りていないことが、今回優勝した國學院大との53秒の差になって出ています。来年には『優勝を狙います』と言えるようなチームづくりをしていきたいと思っているので、もうワンランク、ツーランク、個々がレベルアップしていければと思います」

【全日本、箱根への課題は中間層の底上げ】

 出雲では目標をクリアすることができた。ただ、全日本、箱根に向けては、榎木監督も表情を引き締めて、こう話す。

「全日本、箱根と距離も人も増えていきます。出雲を走った6名は、今、ウチで戦える最高のメンバーなので、このメンバーと張り合えるような選手が出てこないといけない。今回補欠になった黒木とか、山瀬(美大・2年)あたりが同等のレベルに上がってこないと全日本の上位も厳しくなってくると思うので、そこに続く選手の強化をして、目標をクリアしていきたいです」

 小池も、これからが勝負だと考えている。

「青学大や駒澤大は、これから全日本、箱根となるにつれ、チーム力も調子も上がってくると思います。ウチはまだ中間層の底上げができていないので、そこが不安です。相手にかなわないではなく、ひとりひとりが5秒縮めて、あの選手の前に行くというのを繰り返していくうちに、その差が逆に1分とかのアドバンテージになると思うんです。そこができていけば、残りふたつの駅伝でも目標を達成できるんじゃないかなと思います」

 小池は、自らの課題である"襷際"の甘さを克服し、区間順位、タイムを少しでも上げて、チームに余裕をもたらすつもりだ。

 スーパーエースがいればラクだが、榎木監督は今のチームスタイルで上位を目指すことも楽しんでいる気がする。出雲では、穴もミスもない堅実な駅伝で3位になった。そして今回、ミスのあった青学大、駒大、中央大は、そういう創価大をやっかいな相手だと認識しているだろう。

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