GⅡローズS(9月14日/阪神・芝1800m)のカムニャック(牝3歳)は強かった。

 4角で内にいた馬にぶつけられ、落馬寸前になるほどの不利を受けながら、怯むことなく、そこから鋭く伸びてゴール板をトップで通過。

後続に1馬身半差をつけての完勝だった。

 その末脚もすごかったが、不利を撥ね退けた勝負根性も一級品。さすがオークス馬、という圧巻の走りだった。

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 この結果から本番となる牝馬三冠の最終戦、GⅠ秋華賞(10月19日/京都・芝2000m)でも当然1番人気に推されるだろう。それも、単勝2倍前後の抜けた人気になるのではないか。

 だが、秋華賞の舞台は京都・内回りの芝2000mという特殊なコース形態。紛れが多く、過去の秋華賞でも何度となく波乱が起こっている。

 確かにカムニャックは強いが、そんな舞台にあって、単勝"一本かぶり"の人気になるほどの信頼を置いていいのだろうか。関西の競馬専門紙記者はこう見ている。

「あの馬の強さは、本物だと思います。秋華賞でも一番勝ちに近い位置にいるのは間違いありません。ただ、つけ入る隙がまったくないわけではありません。

(カムニャックが)勝つ確率は7割ぐらいではないでしょうか」

 勝つ確率は7割――この数字を高くみるか否かは、人それぞれ意見が分かれるところだろうが、逆に言えば、負ける可能性も3割はある、ということ。先の専門紙記者も触れているとおり、つけ入る隙は"ある"ということだ。

 そのひとつに挙げられるのは、ローテーション。実は、過去10年でローズSの勝ち馬が秋華賞を勝った、ということは一度もないのだ。同レースをステップにして勝ったのも、10年前のミッキークイーン(ローズS2着)しかいない。

 ローズSと言えば、かつては秋華賞の「王道」と言われていたステップレース。現に過去11年~20年前までの間には、ローズS組が7勝。エアメサイア(2005年)、ダイワスカーレット(2007年)、ジェンティルドンナ(2012年)とローズSの勝ち馬も、秋華賞を制している。

 しかし今や、トライアルなどをパスして、できるだけ間隔をあけて目標のレースに挑むのが主流。すなわち、"ぶっつけローテ"がトレンドとなっており、秋華賞でもGⅠオークス(東京・芝2400m)からの直行組が過去10年で6勝を挙げている。

 秋華賞のステップレースは、確実にフェーズが変わったのだ。

 にもかかわらず、カムニャック陣営は秋華賞のステップレースとしてローズSを選んだ。

先述の専門紙記者がその理由を明かす。

「この春も、GⅡフローラS(4月27日/東京・芝2000m)から本番というローテーションでオークス(5月25日)を勝ちましたからね。それで、この馬は間隔をあけるより本番前に一度(レースを)使ったほうがいい、という判断が陣営にはあったようです」

 あくまでも馬本位のローテということか。また、今年からローズSから本番までの間隔が1週延びたことも、そうした選択につながっているのかもしれない。

 ともあれ、カムニャックが秋華賞に向けて嫌なデータを抱えていることに変わりはない。

 それに、ローテーション以外にも懸念材料はある。この馬自身との戦い、である。その点について、再び専門紙記者が語る。

「カムニャックはまだ、精神的に成長しきれていないところがあります。レースでかかる気性が残っていて、制御するのに手がかかり、それゆえ乗り難しい。そのため、中団以降で我慢して末脚を生かす、という競馬しかできないんです。

 ですから、ここ3戦は馬が強いから勝っていますけど、レースの流れや展開、アクシデントなどによっては、『強いけど勝てなかった』という結果になる恐れは大いにあり得ます」

 カムニャックのように後ろから行く馬は、前が壁になったり、脚を余したり、常に何らかの理由で取りこぼす危険を抱えている。

まして、京都の内回りは直線が328.4mと短い。ローズSのようなアクシデントがあったりすれば、前を捕えきれないことは十分に考えられる。

 振り返れば、三冠牝馬となったジェンティルドンナでさえ、最も肝を冷やす勝利となったのが、秋華賞だった。スローペースのなか、途中からまくって大逃げを打つ馬が出てきたうえ、直線に余力を残していたヴィルシーナと最後まで競り合う形に持ち込まれるなどして、長い写真判定となる際どい勝負を強いられたのだ。

 無論、カムニャックにしてもデビュー前から主戦の川田将雅騎手にクラシックを意識させたというほどの素質の持ち主。その素質が開花した今なら、オークスに続く牝馬二冠達成の可能性はかなり高い。

 だが、レジェンド級名牝のジェンティルドンナでも手こずったのが、秋華賞。過去20年でも単勝1倍台の人気を誇ったラインクラフト(2005年2着)、ブエナビスタ(2009年3着降着)、ヌーヴォレコルト(2014年2着)、ソダシ(2021年10着)らが苦杯をなめている。

 はたして、カムニャックはどうか。注目のゲートインまで、まもなくである。

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