【予定通りにルーキーが好走】
10月13日の出雲駅伝で早稲田大が2位に入り、幸先のよい駅伝シーズンのスタートを切った。
「戦力的に、今回は優勝争いを狙えるチャンス。3人の1年生に期待していますし、前が見える位置でアンカーの工藤(慎作・3年)に渡す展開になればいいかなと思います」
レース前、花田勝彦監督は自信に満ちた表情でそう話していた。
主力も元気だ。主将の山口智規(4年)は箱根駅伝後にオーストラリアで走り込み、6月の日本学生対校選手権では1500mと5000mで2冠を達成。7月の日本選手権でも1500mで2位、さらに同月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会では5000mで13分16秒56と自己ベストをマークし、早大記録を更新するなどトラックシーズンでは好調を維持した。
工藤も4月の記録会で5000mの自己ベストを更新すると(13分54秒36)、7月のワールドユニバーシティゲームズ(ドイツ)でハーフマラソンの金メダルを獲得した。さらに今年の箱根駅伝総合4位に貢献した間瀬田純平(4年)、長屋匡起(3年)、山口竣平(2年)らもおり、近年になく選手層が厚くなった。冒頭で紹介した花田監督のチームへの期待は、彼らが成長したという自信から生まれたものだった。
出雲では、期待のルーキーたちとダブルエースが活躍した。3区鈴木、4区佐々木、5区堀野という1年生3人による襷渡しは、早大OBである花田監督の学生時代、1991年の第67回箱根駅伝で実現した1区武井隆次、2区櫛部静二、3区花田の"三羽烏"以来、実に34年ぶりのことだった。
3区を走った鈴木は駒澤大の桑田駿介(2年)に付かれながらも振りきり、ラストでは城西大のヴィクター・キムタイ(4年)に競り負けたが、創価大のスティーブン・ムチーニ(3年)、中央大の溜池一太(4年)ら各校のエースが集うなか、区間5位にまとめた。4区の佐々木は区間6位ながら順位をひとつ上げて2位になり、堀野は区間7位、アンカーの工藤に3位で襷を渡した。
花田監督は、3人の走りはほぼ予定通りと語る。
「鈴木は、熱中症になりながら最後までよくがんばったと思います。佐々木は、前半突っ込んで入って後半伸びなかった。本人は行けるかもと思ったらしいですけど、そんなに甘くなかった。でも、いい経験になったと思います。堀野は、あの位置で襷をもらったので、前半から突っ込まざるを得なかったので難しかったですね。ただ、今後も彼らを使える目処がついたのは大きいですね」
【ダブルエースも期待通りの走り】
ルーキー・トリオはそれそれで仕事をしたが、今回の2位に大きく貢献したのは、2区の山口智だろう。10位で襷を受けてから9人抜きでトップに立った走りは、今季の山口智の強さを象徴するようだった。
「絶対に区間賞を獲らないといけないプレッシャーがありました。最初はいけるところまでいって、3km以降はちょっと休みながらいこうと思ったのですが、(創価大の)小池(莉希)君(3年)がうまく引っ張ってくれたので、そのままいかせてもらいました。最終的に落ち着いたタイミングで前に出て、区間賞を獲れたのはよかったなと思います」
山口智はそう言って、ホッとした表情を見せた。そして、エースの走りに刺激を受け、トップを猛追したのは最終6区の工藤だった。向かい風のなか、突っ込んで入ったが、前を行く國学院大との43秒差は重かった。
「最初、突っ込んで入って、そのまま耐えるというのが駅伝特有の文化だと思うのですが、そこで自分の足がもたなかったのは、駅伝的なところで強くなかったということだと思います。ただ、収穫としては、先頭が見える位置で、ひとつ勝負を仕掛けられたことかなと思っています」
工藤は、区間3位だった。区間賞は青山学院大のエース・黒田朝日(4年)が獲ったが、黒田が10位で襷を受け取り、それを勝ち取ったことを工藤はどう見たのか。
「自分は優勝争いをしているなかで突っ込んだので、タイム的な伸びしろはまだあると思うんです。でも、後ろの順位でスタートした人は、昨年の自分がそうだったんですけど、自分の走りをすることができるんです。そういう意味では、黒田さんのほうが有利な部分があったのかもしれないですけど、そこで区間賞を獲るのは、やっぱり力があるということだと思います」
工藤らしい解説だが、そう話す表情からは悔しさが読み取れた。三大駅伝の初戦で2位になり、今季の早大の強さを実感させるレースを披露した。だが、これから全日本大学駅伝、箱根駅伝と続く戦いの厳しさを予測しているように、選手たちの表情に喜びに浮かれている感じはなかった。
工藤は、こう話す。
「今季の早大の強みとして、爆発力があると思います。(山口)智規さんのような走りがまさにそうだと思いますし、区間がハマったところは走れていました。そういう爆発力を全日本と箱根で維持していければ、結果が出ると思います」
【駅伝で優勝できるという感触をつかめた】
主将の山口智も、これからが勝負だと言う。
「出雲は優勝を狙っていたので、2位という結果にみんな満足できないと思うんですけど、(駅伝で)優勝できるという感触をつかめたレースになったので、そこは次につながるかなと思います。全日本、箱根と距離が長くなるので、そこに対する不安があるのかもしれないですけど、みんなでチーム一丸となって優勝を目指してやれたらと思います」
過去、早大は選手層の薄さに泣かされてきた。スポーツ推薦で多くの選手を獲得できない状況なので、必然的に強化のスタート時点では他校と差がある。とりわけ中間層の底上げは毎年の課題だ。
今、花田監督のチームづくりが徐々に開花しつつあるが、指揮官は慎重だ。
「出雲はうちの3区、4区、5区ががんばったけど、それでも他校とはその区間での力の差があったのかなと思います。(國学院大の)前田(康弘)監督と話しましたけど、3区の野中(恒亨)君(3年)、4区の辻原(輝)君(3年)がすごくよかった。辻原君は区間新ですからね、うちはそこに対抗できる選手を置けなかった。優勝するためには、こういう厳しい戦いでミスせずに走らないといけないとあらためて感じたので、しっかり準備していきたいと思います」
出雲は少数精鋭で戦えたが、全日本と箱根はそうはいかない。出雲を走った選手以外、例えば、9月開催のThe Road of WASEDAの5kmでよい走りを見せた伊藤幸太郎(4年)、宮岡凜太(4年)、さらに出雲ではエントリーから外れた山口竣らがどの区間に配置されるか。そして、ダブルエースの山口智と工藤がどれだけ期待に応える走りをできるか。今季の大学駅伝は「W」に注目だ。
>>>出雲駅伝で全区間5位以内、過去最高の3位に入った創価大は「吉田響の抜けた穴」をどう埋めたのか?



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