セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(20)

セルジオ越後「サッカー日本代表はブラジルに勝った喜びで、その...の画像はこちら >>

 9月、10月で強化試合4試合を戦ったサッカー日本代表。大注目のブラジル戦では鮮やかな逆転勝利を収めたものの、それ以外の3試合では2分け1敗。

ブラジルよりも力の劣る相手に勝利を奪えず、内容的にも苦しい時間帯が長かった。その現状をどう見るべきか。そして、来年に迫る北中米ワールドカップ本番に向けての課題とは。ご意見番のセルジオ越後氏に聞いた。

【一番の課題は攻撃のバリエーション】

 日本には「勝って兜の緒を締めよ」という、いい言葉がある。今ほどその言葉がふさわしい状況はないね。ブラジルに勝った喜びで、その前の3試合を忘れてはいけない。

 9月からの直近4試合を振り返ると、これがワールドカップだったらグループリーグ敗退......という考え方もある。最初の3試合で2分け1敗(メキシコに0-0、アメリカに0-2、パラグアイに2-2)だから、決勝トーナメント1回戦のブラジル戦はないというわけだ。

 勝ったブラジル戦にしても、前半に2失点しているわけで、後半の逆転劇は、追いこまれて開き直ったのが、たまたまうまくいったという話。普通、逆転するのは難しい。奇跡は何度も起こらない。後半のようなプレーを、なぜ最初からできなかったのか、なぜ前半に2点も取られたのか、反省材料はたくさんある。

 一番の課題は攻撃のバリエーションが少ないこと。ケガ人が多くてベストメンバーではないという言い訳はあるけど、ブラジル戦の後半やメキシコ戦の立ち上がりなど、一部の時間帯を除けば、みんなでボールを外回しして、なんとかしてサイドから崩そうという攻撃ばかり。真ん中にくさびの縦パスを入れたり、遠めからシュートを打ったりする機会があまりにも少なかった。

 例えば、ブラジル戦でも日本はサイド攻撃が中心だったけど、相手が奪った2点は真ん中から攻めたもの。ああいう攻撃は日本にないよね。また、ワールドカップのヨーロッパ予選を見ていると、どの国もミドルシュートをバンバン打っている。日本もワールドカップアジア予選ではけっこう打っていたんだけどね。相手のレベルが上がると、慎重になってしまうのか。いずれにしても、シュートへの積極性はもっとほしい。

 確かにブラジルからは3点取ったよ。じゃあ、なぜアメリカ遠征の2試合では1点も取れなかったのか。メキシコ戦は、前半序盤に前からのプレスでチャンスはつくったけど、点が入らなかった。

その理由のひとつにはやっぱり攻撃のバリエーションの問題があって、ミドルシュート、真ん中からの攻撃が少なかった。

 アメリカ戦は相手がロングボールを蹴ってきたから、前からのプレスが効かない。そして、先制点を奪われ、引いて守られたら崩せず、逆にカウンターを何度も受けた。じゃあ、どうするのか。それが見えなかった。相変わらず引いた相手は崩せない。

 日本での2試合は、追いこまれてから勝負に出たのがうまくいっただけ。パラグアイ戦は1ー2になって、ホームで負けられないと思った森保一監督が、当初は使う予定のなかった上田綺世を投入して、なんとか引き分けに持ちこんだ。ブラジル戦も前半で2点差をつけられ、後半から攻めた。結果を出したことはホメたいけど、再現性が低いし、本来なら追いこまれないための手を打つべきだ。

 アジア勢相手のように、自分たちから仕掛ける姿勢が足りなかった。相手を怖がりすぎていた。

せっかくマッチメイクをがんばって実現した親善試合なのに、試合の最初からチャレンジをしないのはもったいないよ。日本は親善試合に負けても監督がクビになったり、選手が大きな批判を受けたりする国ではないのだから。

【心配なのは今回招集されなかった三笘薫】

 今後は11月に国内での親善試合が2試合(相手はガーナ、ボリビア)あり、12月にワールドカップ本大会の組み合わせ抽選会が行なわれる。年が明ければ、来年6月開幕の本大会までは、あっという間だ。

 来年3月にアウェーでのイングランド戦が内定したとの報道も出ているけど、組み合わせ抽選会以降に、日本サッカー協会がどれだけマッチメイクをがんばれるか。そして森保監督は、強豪相手にもっといろいろな戦い方を試してほしい。

 選手個々を見れば、僕が選ぶブラジル戦のマン・オブ・ザ・マッチの堂安律は、プレーの安定感が増している。森保監督からの信頼も厚いようで、プレータイムが伸びているのも納得だ。パラグアイ戦、ブラジル戦で得点を決めた上田綺世も大きく評価を上げた。トップのポジションを争う小川航基、町野修斗に、さらに差をつけた。

 一方で、心配なのは今回招集されなかった三笘薫だ。今どういう状態なのかわからないけど、ここ1、2年は故障を繰り返し、なかなかコンディションが整わない。

持ち味であるドリブル突破を仕掛ける回数も減った。プレースタイルの変化といえばそうなのかもしれないけど、何か中途半端な印象を受けてしまう。左のウイングには中村敬斗がいるとはいえ、三笘がこのまま調子を上げられないとなると、チームに大きなマイナスだ。

 3年前のカタールワールドカップでは、ドイツ、スペインに勝ったけど、コスタリカに負けた。直近4試合ではブラジルに勝ったけど、メキシコ、アメリカ、パラグアイには勝てなかった。勝ったブラジル戦も前半は何もできなかった。いいところだけをピックアップするのではなく、課題をしっかりと分析して次につなげないといけない。

(19)>>>サッカー日本代表のブラジル撃破に、万感のセルジオ越後「負けた言い訳をするブラジルの友人に言い返してやったよ(笑)」

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