【箱根駅伝2026】日体大、伝統の「集団走」を支えた4年生の...の画像はこちら >>

10月18日の箱根駅伝予選会では10年連続出場中の法政大学が落選する波乱も起きるなか、5連覇を含む10度の優勝を誇る日本体育大学は肝を冷やしながら本戦の出場権をつかんだ。大学名が呼ばれたのは10枠中の9番目。

継続中の記録では最長の78年連続78回目の本戦出場を決めた伝統校の底力とは――。

【11番目に呼ばれたときの言動も考えていました】

 結果発表を待つ約40分間は、気が気ではなかった。1位から順番に大学名が呼み上げられるたびに緊張感は高まり、事態は切迫していく。8位までにも入っていない。残りは2枠。95回大会の2019年にシード権を逃してから7大会連続で予選会に出場してきたが、今回ほど危機感を覚えたことはない。96回大会以降、3位、6位、3位、5位、4位、4位といずれも危なげなく突破を決めてきた。就任6年目の玉城良二監督は予選突破を信じつつ、最悪の事態も想定したという。

「11番目に呼ばれたときの言動も考えていました。どんな状況でも、きちっと礼をすること。報道陣にもしっかり対応し、応援者、支援者に挨拶も行かないといけませんから」

 9位のアナウンスを聞き、ようやく指揮官は静かに頭を下げた。待機テントの前に並ぶ選手たちは安堵した表情を浮かべる者もいれば、日本人選手2位(全体8位)と奮起したエース格の平島龍斗(4年)はぐっと目頭を押さえていた。伝統校の重圧は、周囲の想像を絶するものなのだろう。

戦後混乱期の1949(昭和24)年から続く、連続出場の記録を更新した玉城監督は自らの心境について多くを語らなかったが、口元をふっと緩めた。

「ほっとしたというか、まあ、いろいろな感情がありました」

【強みは四番打者がチームのために送りバントできるところ】

 ただ、苦戦を強いられながらも、エゴを捨て、チーム戦略の遂行に努めた選手たちをしっかり称えた。タイムを稼ぐために日本人先頭集団で走ったのは、エース格の平島と田島駿介(4年)のふたり。それ以外の出走メンバーは、例年のように夏合宿から入念に準備してきた「集団走」に徹した。主軸のひとりである主将の浦上和樹(4年)が故障の影響で欠場するなか、9人の仲間を先頭で引っ張ったのは前年度、箱根駅伝の2区を走った山崎丞(4年)だ。平島、田島と並び、3本柱のひとりとして信頼を寄せられている大黒柱である。

「本人も本音では、平島、田島と一緒に(個人走で)行きたかったと思います。でも、今回はこっちから引っ張り役を担ってほしいと言いました。山崎はペースメイクが非常にうまくて、焦らずにきちっと行けるので。みんなもよいリズムで走れますし、安心できるんです」

 自己犠牲精神を持つ4年生の存在こそが、日体大の伝統を支えているという。もともと山崎は誰よりも自己主張が強く、自他ともに認める目立ちたがり屋。1年時から箱根の1区で区間9位と好走したものの、2年時は故障を繰り返し、肝心の箱根も体調不良で欠場。「走れない時期は自分を見失っていました。

自分勝手な行動を取ってしまい、先輩たちにも迷惑をかけたと思います」と本人も反省し、3年目以降は生まれ変わった。玉城監督のもとで心身ともにたくましくなり、今は日体大らしい最上級生になっている。指揮官は、その成長ぶりに目を細めていた。

「最初はやんちゃ坊主でしたが、今はいい兄貴分になっています。4年生としてお手本となり、後輩にゲキも飛ばしていますから。うちの強みは、山崎のような四番打者が、チームのために送りバントできるところ。彼は本当によくやってくれました」

【エース・山崎が先導役に徹しきれた強さと冷静さ】

 レース序盤は想定より集団のペースが上がらなかったが、それも山崎なりのマネジメント。10kmの通過順位は19位。15kmの通過順位も15位。当初の設定タイムよりも10秒ほど遅れていたのは、集団がバラバラにならないための配慮だった。2年生以下の下級生は、予選会に初出走する選手たち。大役を引き受けた山崎は、玉城監督からの信頼をひしひしと感じていた。

後ろにつく後輩に目配りし、集団を慎重にコントロールした。

「まだ力のない下級生が多い集団走だったので、少し遅いペースで脚を溜め、最後に上げていけるように強い気持ちを持って、引っ張っていました。自分がこのチームを本戦に導くんだって」

 ペース配分は経験に裏打ちされたもの。4年連続で予選会に出走し、過去3年は一度も外していない。昨年は8km付近で集団から遅れる選手が出たため、途中で飛び出すことを仲間に伝え、ひとりでタイムを挽回した。結果的に個人全体16位の快走を見せ、予選突破に大きく貢献している。今季はしばらく我慢し、臨機応変に対応した。14km手前の昭和記念公園に入る前に1年生が集団から遅れていることを確認し、想定よりも早く個人で仕掛けた。

「ここで出ないと、チームが危ないと思ったので、自分の判断で行きました。最後はしっかり上げきることができたと思います。自分の順位(全体57位)、タイム(1時間03分16秒)は関係ないです。まずは箱根本戦の出場権をつかむことが一番でしたから。

ギリギリの戦いになるとは思っていました」

 ほっとひと息つくと、すぐ2週間後には全日本大学駅伝が待っているものの、ピークを合わせるのは来年1月の箱根駅伝。エースの自覚を持つ山崎は、2区でのリベンジに意欲を燃やす。2026年の正月から逆算し、1年かけて故障しない体づくりとフォームの修正に取り組んできた。夏合宿ではずっと目を背けていた区間19位に沈んだ前回の走りを映像で確認し、客観的に分析。画面の中の自分はエース区間の雰囲気にのまれ、走り出す前から不安な表情を浮かべていた。もう同じ轍を踏むつもりはない。1年前に果たせなかった目標に思いをはせる。

「2区でOBの池田耀平さん(現・花王)が持つ日体大の区間記録(1時間07分14秒)を更新し、8年ぶりのシード権獲得に貢献したいです」

 立川のドラマは心臓に悪い。チームで目指すのは、1月3日の大手町で79年連続出場を決めること。伝統を継承していく強い思いは底力になる。

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