大阪桐蔭・森陽樹インタビュー(後編)

 ドラフト指名後の会見で、記者から必ず聞かれる「目標の投手は?」「憧れの投手は?」の問いに、大阪桐蔭の190センチ右腕・森陽樹が誰の名前を挙げるのか、ひそかに注目している。

【ドラフト】目標は佐々木朗希か、山下舜平大か、達孝太か......の画像はこちら >>

【次々と変わる目標とする投手】

 高校1年秋の報徳学園戦のあと、森に初めて聞いた目標の投手は、当時ロッテでプレーしていた佐々木朗希(現・ドジャース)だった。その時、森は「自分も高校の間に160キロを投げたい」とも口にしていた。

 それからしばらくして憧れの投手を聞くと、オリックスの山下舜平大に変わっていた。さらに今年の5月には、どこで情報を得たのか、日本ハムの"二刀流ルーキー"柴田獅子(れお)の名前を挙げた。こちらが少々不思議そうな顔をすると、森は「あっ」と思い出したように「今は達(孝太)投手でした。日本ハムの達投手です」と修正し、今回ドラフト前に聞くと、再び山下の話題を熱心に語ってきた。

 面談を希望したプロ球団のスカウトと話をするなかで、先方からその名前が出たという。私は高校時代の山下を直接取材していないため、比較する材料は持ち合わせていない。だが、そのスカウトいわく「タイプ的に似ている。完成形がちょうどあの感じなんですよ」とのことだ。

 山下は、朝から誰よりも早くトレーニングをして、寮の部屋にいるのは寝る時だけ。そうした取り組みの一端を耳にし、興味が再燃したようだった。

「最近、また(山下の)動画を見たんですけど、やっぱりエグいボールで、ちょっとスケールが違う。メジャーのピッチャーみたいな感じで。

それと変化球はカーブとフォークだけじゃないですか。いろんな変化球を投げてストレートの質を落とさないようにしているそうで、自分もストレートとカーブ、フォーク。この3つでしっかり勝てる投手になりたいんです」

 森にしては珍しく、熱をこめて伝えてきた。「ならば、目標の投手は山下舜平大でいいのでは?」と向けると、「確かに......」と少し考え、「でも達投手も......」と、最後まで明確な答えは聞けなかった。

 だから、ドラフト当日になると、メジャーのポストシーズンで大活躍の佐々木の名前が出るかもしれない。つまり、まだいろんなところで揺れているのだろう。

【投球フォームもたびたび変化】

 そういえば、大阪桐蔭に入学してからこれまでフォームも細かく変わっていた。ワインドアップ、セットポジション、ノーワインドアップだけでなく、たとえば同じセットポジションでも「この夏はメジャー風に」といった具合に、モーションの入り方や足の上げ方、テイクバックなど、少しずつ変わっていった。

 その都度、理由があってのことだ。

「いろんなピッチャーのフォームに興味があって、ちょっと真似してみるのが好きなんです。でも、やってみて『これはいいな』と思ったらしばらく続けるんですけど、だんだん『思ったほどでもないかな』『もっと違うフォームのほうがいいかな』ってなって、また別のフォームを試してみたくなるんです。フォームを真似たりすることについては器用。でも、飽き性です(笑)」

 まだ本気になりきれていない、自分に何が合っているのかわからないという状況なのだろう。

 大阪桐蔭史上最高クラスの素材である一方、技術面はもちろん、メンタル、さらにはフィジカルの面から見ても、まだまだ有り余る伸びしろを感じさせる。ある時、森の小・中学校時代の思い出話を聞きながら、軽い衝撃を受けたことがあった。

「子どもの頃はとにかく体が弱くて、筋肉も少なかったんです。小学生の頃なんて、本当に腹筋も腕立て伏せもできなかった。特に腹筋は、中学2年の冬くらいになって、ようやく1回、3回、5回......と、少しずつできるようになった感じでした」

 中学の監督からは、「今でこれだけのボールが投げられるなら、体を鍛えたらもっとすごいボールが投げられる」と言われていたそうだが、だからといって安易にパワーをつけることはせず、上体の力に頼って投げることはなかった。

 今も「下半身を使って投げるフォームが自分の持ち味です」と口にするが、その原型は小さい頃から備わっていたのだろう。

【球質よりも球速にこだわり】

 不確定要素は多いものの、素材は正真正銘の超一級品。森にとって最大の武器は、やはりストレートだ。中学時代には軟式球で140キロを超え、その頃から本人の中でこだわりと興味がいっそう強まっていったという。球速や球質の話題になると、森は迷いなく言う。

「自分は球速にこだわっていきたいです。そこは負けたくない」

 今の時代、「球質」を重視して語る選手が多いなか、森は堂々と少数派を貫く。こう書くと、あたかも球質を軽視しているように思われるかもしれないが、決してそうではない。

 森のストレートについては、「150キロ近いスピードのわりにミートされやすい」と見る向きもある。その印象が、評価が伸びきらない一因になっているのかもしれない。

 ただ、ひとつ思うことがある。これだけの大型投手で、これだけのスピードを誇りながら、森のストレートは"荒れない"のだ。もちろん、それは長所だが、まとまりがよすぎるがゆえに、打者が怖さを感じず、踏み込んでくるという側面もある。

 この先、回転効率を高めることもひとつだろう。あるいは高めやコースを意識し、ストレートの特性をどう生かすかを突き詰めていくことも重要になる。このあたりは、プロの指導者の腕の見せどころだろう。

【キャッチボールなら自分がエグい】

 さらにスピードの変遷について話が続くなかで、キャッチボールの話題になった。

「ほんまにエグい人って、キャッチボールをすればすぐわかるんです。ボールが全然落ちてこないし、伸びも、受けた時の強さも全然違う。スピードガンで『球が速い』って思っても、キャッチボールをしたら『あれ、そうでもないな』って感じる人がけっこう多くて。

逆に『エグい!』って思えるボールを投げる人は、なかなかいないんです」

「今まで誰のボールがエグかった?」と聞くと、サラッと「キャッチボールなら自分です」と、普段あまり主張しない森が即答した。

 日本代表合宿でもエグいと感じた投手はいなかったのだろうか?

「全員とやったわけじゃないですけど、そこまでは......。自分の場合、30~40メートルくらいの距離で投げるボールが強さも伸びもあるんです。それより距離が近くなったら、まだちょっと力の入れ具合とかバランスとかがつかみきれてないというか......。だから、30~40メートルの感覚でマウンドからも投げられたら、今よりもっと『バーン!』といくと思うんです」

 最後に、楽しみな話を聞いたところで、いよいよドラフトが迫る。

 この有り余るポテンシャルを開花させるのは、プロの仕事だ。余白をたっぷり残す"超素材"右腕の育成に魅力を感じ、自信を持って指名に踏み切る球団はどこか。そして、その先にプロの世界で、森は誰と出会うのか。

 まもなく大阪桐蔭史上最高の素材、森陽樹の運命が動き出す。近い将来、マウンドから放たれる本人納得の"エグいボール"を見てみたい。

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