山本由伸の2試合連続完投勝利は「野球が本来あるべき姿」 一流...の画像はこちら >>

前編:山本由伸2試合連続完投勝利に見るMLBで完投勝利が減った理由

ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸がワールドシリーズ第2戦で、ポストシーズン2試合連続完投勝利を収めた。これは2001年のカート・シリング(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)以来の快挙だが、振り返ってみれば、メジャーリーグにおいてこれほどまでに完投勝利が少なくなったことを再確認させられるものでもあった。

完投が稀となったメジャーリーグの潮流について、現役トップ選手、そして11年も前にダルビッシュ有が提言していた言葉を想起しながら振り返る。

【先発投手の魅力と価値を示した山本由伸】

 10月25日、トロントのロジャーズセンターの真ん中で、山本由伸は右手人差し指を高々と突き上げた。105球目、96.9マイル(約156キロ)の直球でドールトン・バーショを三飛に打ち取り、歴史的な2試合連続完投を達成した。その瞬間、世界中の野球関係者とファンが興奮に包まれた。

「今日は絶対に勝たなければいけないという強い気持ちでマウンドに上がりました。最後まで投げきれるとは思っていませんでしたが、1イニングずつ集中して投げることができたのが結果につながったと思います」と山本は振り返る。

 これは単なる勝利ではない。10月17日に大谷翔平が記録した6回無失点・3本塁打の二刀流での大活躍にも匹敵する快挙だった。山本の完投は、先発投手が本来持つ魅力と価値をあらためて示し、野球の原点を世界に再び印象づけるものだった。

 ポストシーズンで平均6.83得点を誇る強力なブルージェイズ打線を相手に、初回には無死一・三塁のピンチを迎えたが、23球を要しながらも無失点で切り抜けた。失点は3回の犠牲フライによる1点のみ。9回、最後のアウトを取ると、山本は本塁へ歩み寄り、ウィル・スミス捕手と抱き合った。さらに、マックス・マンシー三塁手からウイニングボールを受け取り、笑顔を見せた。

 試合後、同僚のクレイトン・カーショーは「最近の野球では2試合連続完投なんてほとんど見なくなりましたね」と聞かれると、こう語った。

「またこんな姿を見られるとは思いませんでした。でも、これが"野球が本来あるべき姿"なのかもしれません。先発投手同士が真っ向から勝負し、試合の終盤まで投げ合う姿はいつだって魅力的です。今回の山本のピッチングが、将来へのヒントになるかもしれません。そう願っています」

 なぜ完投がこれほどまでに減ったのか。その理由をカーショーはよく理解している。

「完投できる力を持った投手は、今も多いと思います。ただ、時代の流れが変わっただけです。今は優秀なリリーフ陣が控えていて、打者が3巡、4巡するタイミングでタイプの異なる投手を投入することが戦略の一部になっています」

 カーショー自身、メジャー18年のキャリアで25完投を記録しているが、過去8年間は一度も完投がなかった。

 もうひとりの大ベテラン、ブルージェイズのマックス・シャーザーも、10月23日のワールドシリーズ前会見で山本の完投能力を絶賛していた。シャーザーは通算12完投を記録しているが、過去4年間はゼロである。

山本が14日のナ・リーグ優勝決定シリーズ(対ミルウォーキー・ブルワーズ)第2戦で1失点完投勝利を挙げたことについて、こう語った。

「本当に才能のあるピッチャーだよ。僕は長いイニングを投げられる先発投手が大好きなんだ。そして個人的に言えば、日本がどのように先発投手を育成しているか――そのやり方の大ファンでもある。これからも、もっと多くの日本人投手がメジャーに来て成功する姿を見たいと思っている。

 僕はニューヨーク・メッツで千賀滉大と一緒にプレーしていたけれど、日本の投手育成の歴史を聞くたびに本当に感心するんだ。日本では先発投手をしっかり投げさせる。120球くらいまで投げることを許す。それが投手の腕の成長にとって非常に大きいんだ。

 一方、アメリカではまったく逆で、球数を制限しすぎている。そのせいで、みんな全力投球ばかりになり、結果的にケガをする選手が増えている。だからこそ、僕は日本の投手育成のアプローチを本当に高く評価しているし、これからもそういう投手がどんどんメジャーに来るのを楽しみにしている」

【11年前のダルビッシュ有の提言】

 このシャーザーの発言を聞いて、筆者の脳裏に浮かんだのは2014年のダルビッシュ有の言葉だった。

あの年のオールスター戦前日の会見で、当時メジャー3年目だったダルビッシュは、肘を痛めてトミー・ジョン手術を受ける投手が急増している現状について、自身の見解を語っている。

「いろんな原因が指摘されていますが、僕としては最近のトレーニング方法にも問題があると思っています。今はピッチャーに球速を求める傾向が強く、下半身や背中を重点的に鍛える。でもそれをやると確かに球は速くなるけれど、腕の保護まではできない。スピードが上がるぶん、靱帯にかかるテンションがより大きくなっているのに、その部分を守れない。それがケガの一番の理由だと、僕は思います。

 スプリットが悪いと言う人もいますけど、スプリットが肘に負担をかけるとは思いません。(スプリットを多用する)日本のプロ野球では肘の故障は少なく、トミー・ジョン手術を受けた投手は、僕の知る限り過去10年間で3~4人くらいです。でもこちら(アメリカ)では、1年に何十人も出る。

 もうひとつの要因は、登板間隔だと思います。こっちは中4日で回るけれど、それは絶対に短い。こちらでは球数制限を重視しますが、球数自体はほとんど関係ない。

120球、140球投げても、中6日あれば靱帯の炎症は完全に回復する。中4日で投げるのはいいけれど、10年前、20年前と比べると禁止薬物の範囲が広がっていて、今は風邪薬さえ飲めない時代です。それも関係しているのかもしれませんね」

 ダルビッシュは中4日ローテーションの改善が難しい理由も理解していた。

「中4日を中5日や中6日に変えると、登板数が減り、投手一人ひとりの年俸も下がる。でも投手を守りたいなら、先発枠をもうひとつ増やしてでも、ローテーションを緩くしたほうがいい。中5日、中6日、最低でも中5日あれば、ずっと楽に回れると思います」

 この発言をしたとき、ダルビッシュ自身もすでに肘に違和感を抱えていたのだろう。そのシーズンは10勝7敗、防御率3.06の好成績を残したが、8月9日の登板を最後に肘の故障でシーズンを終え、翌2015年3月にトミー・ジョン手術を受けることになった。

 11年前のダルビッシュの提言は、今振り返れば驚くほど的確だった。しかし残念ながら、その意見が当時のMLBで大きな影響力を持つことはなかった。むしろ球界は、彼の提案とは逆の方向へと進んでいった。メジャーでは「球数が多いのは肩や肘に悪い」と決めつけられ、先発投手は100球を超えると交代させられるのが常識になった。その結果、先発投手は完投どころか、長いイニングを投げることさえ諦めるようになった。

代わりに、交代までの短い時間を全力で腕を振り、あとはリリーバー陣の継投で勝利を狙う――それが現代野球の標準的なスタイルとなった。

 山本の完投劇のあと、ドジャースのマーク・プライアー投手コーチはこう語っている。

「今の時代に"完投を狙おう"なんて考えて登板する投手はいませんよ」

つづく

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