クラブハウスへとつづく一塁側の通路で足を止め、取材に丁寧に応じた阪神の捕手・坂本誠志郎は、言葉に力を込めた。

「2戦目に大差で負けて、今日はピッチャー陣が粘ってくれていいゲームにはなったと思うんですけど......でも、やっぱりいいゲームをしたということではなく、勝たないといけない」

【日本シリーズ】阪神・坂本誠志郎「いい試合ではダメ」 山川穂...の画像はこちら >>

【4番・山川穂高が2戦連発】

 阪神対ソフトバンクの日本シリーズ第3戦。坂本は、打者としてチャンスで放った惜しい当たり、そして2失点につながった2つの配球。

どのシーンを振り返っても丁寧に答えていたが、その言葉には悔しさが滲んでいた。

 主導権を握ったのは阪神だった。1回裏、中野拓夢がライト前ヒットで出塁すると、二死から4番・佐藤輝明の二塁打で1点を先制した。

 投げては、阪神先発の才木浩人が球威を前面に押し出したパワーピッチングで、第2戦で10得点したソフトバンク打線を圧倒。3回まで無失点、4奪三振と最高のスタートを切った。

 ただ、相手先発のリバン・モイネロも本調子とは言えなかったが、ピンチになるとギアを上げ、つけ入る隙を与えなかった。試合は、シーズン防御率1点台の投手同志による投手戦の様相を呈していった。

 4回表、一死からソフトバンクの4番・山川穂高が打席に入る。山川は、シリーズ初戦はベンチスタートだったものの、第2戦は2安打、1本塁打、5打点をマーク。本来、4番を務める近藤健介がコンディション不良により守備に就けないことから、この日はスタメンから外れ、山川が4番に座った。

 初球のカーブがボールとなったあとの2球目だった。才木が投じた外角のスライダーがわずかに甘く入る。

山川はその球を完璧にとらえ、バックスクリーン横に飛び込む同点本塁打となった。

【スライダーを打たれた意味】

 スコア上は振り出しに戻っただけの一発に過ぎなかったが、この本塁打の意味は極めて大きかった。

 ひとつは先述したように、山川が近藤の代わりを務めた4番打者ということ。そしてもうひとつは、ホームランを放った球種がスライダーだったということだ。

 今季の山川は、調子を落としていた。1割台まで打率が落ち込み、二軍降格も経験した。シーズン終盤こそ復調の兆しを見せたものの、全盛期からはほど遠い状態だった。その影響として最も顕著に表れていたのが、スライダーへの対応力の低下だった。

 今季の山川は、シーズンを通してスライダーを捉える機会が少なかった。ポストシーズンに入っても改善の兆しは見られず、この試合前の時点でスライダーに対して11回スイングしたが、うち6回が空振り。第2戦でスライダーを本塁打にしたが、打ったのは左腕の岩貞祐太からだった。つまり、右投手のスライダーの"空振り率"は、じつに60%に達していた。

 だが、右腕の才木はそのスライダーを打たれた。

「投げミスではなかった」と語った才木は、山川との対戦をこう振り返った。

「(スライダーは)狙っていなかったと思います。真っすぐのタイミングでいって、ワンボールからの変化球でちょっと真ん中にいってしまった。あのへんをうまく打てる選手というのは把握していましたが......自分の力不足だと思います」

 きっちりコースに投げきれなかったというのは事実だろう。才木をリードした捕手の坂本は、山川との勝負についてこのように語った。

「(山川は)状態がいいと思いますし、もう少し対策を立てながらいかないといけないなと思っています」

 こちらが「スライダーがポイントだったのではないか」と聞くと、坂本は「ポイントとはどういう意味ですか?」と聞き返し、空振り率の話を持ち出すとこう語った。

「スライダーを空振りしていると言いますが、今はそれがないので......空振りになるような攻め方をしないといけないと思います」

【カギを握る"山川対策"】

 この本塁打で同点に追いつかれると、6回表には一死二塁から3番・柳町達にタイムリー三塁打を浴び、勝ち越し点を許した。おそらく、山川の存在がチラついていたに違いない。

 結局、この日の山川に対しては、本塁打以外の打席は3四球と完全に"苦手意識"を植えつけられる形となった。

 今季、調子の上がらなかったかつての主砲を蘇らせ、さらにスライダーを本塁打にされてしまった。この事実が、今回のシリーズにどのような影響を及ぼすのかは、ひとつのポイントになるかもしれない。

 シリーズは短いようで長いと言われるように、まだ対戦はつづく。

この日は、山川のあとの打者をきっちり抑えたことは収穫だった。だが、"山川対策"への課題は残っている。

 ソフトバンクは、左打者偏重打線だ。シリーズ第1戦では山川がスタメンを外れ、1番から6番までが左打者だった。第2戦で山川が6番に入ったことで偏りはやや緩和されたが、裏を返せば「山川をどう抑えるか」が、ソフトバンク打線を抑えるうえで重要なポイントになる。

 今日の阪神の先発は、左腕の高橋遥人と発表されている。阪神バッテリーからすれば、当然マークすべき打者は山川である。坂本の言葉にあったように、その対策がどう練られるか注目だ。

 坂本は前向きにこう話す。

「ピッチャー陣が頑張ってくれて、今日はお互い粘りながら......という試合だったと思いますけど、こっちもチャンスがないわけじゃない。なんとか、みんなでものにしていきたい。(勝てば)甲子園の盛り上がりも変わってくると思うし、まだひとつ負け越しただけなので、悲観することもないですし、いい材料もいっぱいある。

明日勝って、5戦目にいい形で勝負できるように頑張りたいと思います」

"山川封じ"をひとつの反撃の起点に、再び流れを呼び込むことはできるだろうか。

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