ソフトバンクが5年ぶりの日本一へ王手をかけた。

 シリーズ黒星スタートから一転、第2戦以降は3連勝。

その立役者は、言うまでもなく山川穂高だ。疑う余地はまったくない。

【日本シリーズ】山川穂高、甲子園で放った価値ある一発 つかん...の画像はこちら >>

日本シリーズ3戦連発のタイ記録】

 本拠地での第2戦では、1対1の初回に右中間フェンス直撃の勝ち越し2点二塁打を放つと、つづく2回には左中間へシリーズ第1号となる3ランを叩き込み、計5打点の大活躍。舞台を甲子園球場に移した第3戦でも、0対1から左中間最深部へ同点ソロを放ち、チームを勢いづけた。

 そして第4戦でも2回表、無死走者なしの場面でセンターバックスクリーンへ先制の一発。とにかく、価値ある一打を打ちまくっている。

 ちなみに、日本シリーズでの3戦連発はタイ記録だ。1958年の中西太(西鉄)、1985年のランディ・バース(阪神)、2000年の城島健司(ダイエー)、2003年の金本知憲(阪神)、2016年のブラッド・エルドレッド(広島)に次いで史上6人目に名を連ねた。

「記録はまったく意識していませんでした。基本、僕はいつもホームランを狙っているんで。タイ記録ということは、誰の記録なんですか? バースさん、すごいですね。エルドレッド以来か。なかなかいかついメンバーですね。

うれしく思います」

 主砲が放つホームランには流れを変える力がある。ましてや短期決戦だ。その重要性はレギュラシーズンの比ではない。

 ソフトバンクには山川に3発が飛び出したのに対し、阪神は今シリーズでまだ本塁打ゼロ。この差はかなり大きい。

 阪神とすれば打線奮起が必須であると同時に、第4戦では"山川封じ"の意図を感じさせる配球も見せてきた。本塁打の打席を振り返ると、初球カットボールのあと、2、3球目は内角の厳しいところにストレートを投げ込んできた。山川はその2球目を見逃してストライク、3球目はどうにかバットに当ててファウルにした。

 そして決着の4球目。阪神の捕手・坂本誠志郎は再び内角寄りに体を動かしてミットを構えたものの、マウンドの高橋遥人が投じたストレートは逆球となり真ん中やや外目へいってしまったのだ。山川はその失投をとらえ、バックスクリーンへ運んだ。打ったのはたしかに甘い球だ。

それでも内角攻めという伏線を蹴散らしての一発だったからこそ、余計に価値がある。

 一体どんな待ち方をしていたのか、試合後に山川はこう明かした。

「(高橋の)球が強かったのでそれに合わせていた。結果的に真っすぐをしっかり打ちにいけました。内角攻めが来る想定とかは、あんまり意識してなかったです。もともと配球をガッツリ読んで打つタイプでもないですし」

 ここまでのシリーズ4試合、9打数4安打で打率.444、3本塁打、7打点、5四球、長打率1.556、出塁率.643。とてつもない数字が並ぶ。ただ粗探しではないが、凡退した5打席を見てみると、三ゴロを除けば4三振を喫しているのだ。

 まさにホームランか、三振か。

【三振って誰も覚えてないんで】

 ソフトバンクの選手たちは「レギュラシーズンとポストシーズンは違う」と一様に声を揃える。レギュラシーズンの場合は、チームの勝ちが最優先なのは間違いないものの、個人成績に目を向ける部分も少なからずあるという。しかし、ポストシーズンは「個人成績は関係ない」ときっぱり。自分の数字を追わない思考によって、凡退しても気持ちの切り替えがしやすくなるというのだ。

 山川もそれに同調する。

「割り切ってますね。今日(第4戦)も最後の打席は三振しましたけど、うまいこと待てばフォアボールをとることができたと思うんです」

 7回表、二死走者なしの打席だ。桐敷拓馬が投じた5球はチャートを見れば初球の高め直球を除いて、残り4球はすべて低めボールゾーンへの変化球だった。

「でも、甘い球が来たらホームランを打てるような待ち方をしていた。もしスライダーが浮いてきたら、ストレートが甘いところに来たら、バーンって持っていけるような。それがいいところに来たんで三振してしまいましたけど」

 そして山川がいたずらっぽく笑って言葉を継いだ。

「別に三振って誰も覚えてないんで。ホームランしか覚えてないと思う」

 山川はいつも、少し沖縄訛りでゆっくりと落ち着いた口調でしゃべる。取材に丁寧に答えるから、報道陣が群がりやすい。ソフトバンクに移籍した昨季は毎日のように追いかけ回されるのに驚いていた。「僕、今日打ってないですよ。

ほかに打ってない選手のところにも行っています?」と苦笑いしつつ、なんだかんだ10分近くしゃべることも珍しくなかった。

 ただ、それは昨季の山川が移籍初年度だったこと、本塁打と打点の二冠を獲ったこと、不動の4番だったことなど、複合的な理由が絡んだことでもあった。

【不振で二軍落ちも経験】

 だが、今季はレギュラシーズンで苦しんだ。130試合出場で打率.226、23本塁打、62打点。4番を外れるだけでなく、二軍調整となった時期もあった。いつも明るい笑顔が印象的な山川だが、この時期ばかりは相当しんどかったに違いない。報道陣の目を避けるように裏口から帰宅する姿も増え、いつしかそれが習慣となっていた。

 とはいえ、基本的におしゃべりが嫌いではなく、もともと愛嬌のあるタイプだ。いろんな意味で、この日本シリーズで山川らしさが戻ってきた。

「シーズンが"すっとこどっこい"だったので......。そのなかで、最後こうやって打てる時が来たのはうれしく思います」

 ところで、山川は職人気質なところもあり、打てる理由は技術にあるというのが持論だ。この日本シリーズでも、「新しい感覚が見つかった」と断言している。

「でも、それは内緒です。まだ終わっていないから。最後勝てば、言います」

 はたして、早々に種明かしはされるのか。

 第5戦も舞台は甲子園。完全アウェーのなか、左翼席の上部一角には2千人ほどの熱心な鷹党がまた集結するだろう。ホークスはもともと大阪を本拠地としていたチームだ。今も熱心なファンがいる。もし関西で日本一を決めるとすれば、南海時代の1964年以来、61年ぶりとなる。あの時も対戦相手は阪神。鶴岡一人監督が舞ったのは甲子園球場だった。

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