西武・仁志敏久コーチインタビュー(後編)

 今季、3割打者は3人と極端な"投高打低"時代の今、難しい役割を背負っているのが各チームの打撃コーチだ。

 ホークアイやトラックマンという弾道測定器が各球場に設置され、選手たちの動作は丸裸にされる。

最新テクノロジーをより使いこなしているのは投手たちで、球速&パワーアップ、変化球の多様化が急激に進んでいる。

 打者たちはどう対応していけばいいのか。球界屈指の理論派として知られ、今季から西武を指導する仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチは、こう語る。

【プロ野球】「感覚だけの時代は終わった」 西武・仁志敏久コー...の画像はこちら >>

【感覚だけでは対応できない】

「ピッチャーのレベルに到達するには、野手は既存のプロ野球界の常識からレベルを上げていかないといけない。要するに、『あまりトレーニングをしません』『感覚でやっています』という選手はたぶん置いていかれます。いくら感覚がよくても、スピードのあるボールに対して反応よくバンと力を発揮できる体を持っていないと、力は発揮されないので」

 感覚だけでは対応できないほど、現代の投手たちは進化している。今や球速150キロは当たり前という世界だ。

 では、感覚の劣る打者はどうすればいいのか。仁志コーチが続ける。

「感覚がない選手は、やっぱり考えないといけない。相当割り切って考えなければいけないですね。先回りして、相手がどうしてくるかを考えていく。自分の理性ばかりでバッティングをやり、『飛ばしてやる』とブリブリ振り回していると、相手の術中にはまります」

 以前のような「外角低めに投げればいい」というバッテリーの考え方は変わり、ストレートは高めに投じてホップ成分を有効に使って打ち取る。

変化球もどのような球速帯が理想的なのかまでデータで判明し、握り方や変化のさせ方もテクノロジーを活用して改善できる。

 打者にとっては、極めて難しい時代と言える。仁志コーチがバッター目線で語る。

「変化球の種類も増えていますからね。相手も当然、バッターの弱いところは簡単に把握してくる。そうすると野手は、いかに自分を知るかも重要になっています。二軍の若い子たちは特にそうですけど、自分の現在地をわからずに理想ばかり追い求めている選手は、やっぱりうまくいかないと思います」

【テクノロジーと現場の壁】

 投手たちはトラックマンやラプソード[牧野2]を効果的に活用する一方、打者にはトラジェクトアークやアイピッチという、相手投手のボールを再現する打撃マシンも出てきた。練習法を変えていく必要もあるのだろうか。

「いろいろな練習方法がありますけど、意外とできることって限られています。お金をかけて、コンピューターを使えば神経系のトレーニングもできるのでしょうけど、そればかりやっていても仕方ない。

 そもそもトラジェクトアークを置く場所も必要だし、そのための施設をつくるには相当お金がかかります。何か工夫しなければいけないでしょうけど、今、僕らができることはチューブを使って(打撃で)動きを出すための工夫をするとか。グラウンドレベルだと、アレンジした内容のメニューを考えるくらいしかできないですよね」

 トラジェクトアークは3年契約で約1億円のリース料がかかると言われ、設置するためには一定以上のスペースが必要になる。

巨額投資が求められ、簡単に置けるわけではないという。

「でも単純に言えば、相手投手のボールを弾き返せる打ち方ができていなければ、そもそも打てないわけです」

 仁志コーチが言うように、まずは打者が土台を身につけることが先決だ。そのうえで、テクノロジーの出番になる。

「たとえば、体力のない人がどんなにお金をかけて新しいことをしても、打つエンジンを持っていない人には打てません。そういう意味では、ピッチャーはみんなそれなりのトレーニングをして、考えてやっている。野手も同じようにやらないと、同じステージには立てないんですよね」

 MLBでも3割打者が減っている一方、パワーある打者の活躍が目覚ましい。ナ・リーグトップの56本塁打を放ったカイル・シュワーバー(フィリーズ)は打率.240、ア・リーグで最も多い60本塁打のカル・ローリー(マリナーズ)は打率.247だ。OPS(出塁率+超打率)が重視される現代野球では、こうした道もあるのだろう。

【動きに生かす体づくり】

 では、パワーで劣る日本人はどんな道を求めていくのがいいのだろうか。

「どう頑張っても欧米人にはなれません。今の日本人にはあまりいないですけど、筋骨隆々にしたところでプラスにはならない。効率よくある程度のパワーを引き出すための体はつくらなければいけないけど、それをつくっただけではなく、どう動きに生かしていくか。

動きのなかに生かすための体をどうつくるか。その関係性をうまく考えなければいけないでしょうね」

 選手たちは筋量を増やすことに加え、筋出力を高めていくことが必要になる。この点でまだまだ余地があると、仁志コーチは指摘する。

「多少、手間と時間はかかりますけどね。最初のとっかかりの段階では、こちらでできることはひととおりやっています。計測を行ない、そこから動きの悪い部分を見つけ、その原因を探っていく。たとえば体の力の使い方などですね。そうした点を一緒に話し合っている選手もいます」

 今季の西武は交流戦前まで好位置につけていたものの、以降は失速し、3年連続Bクラスに沈んだ。投手陣の奮闘が目立った一方、打線の弱さが今年も露呈してしまった。

 それでも西川愛也がリーグ4位の134安打と躍進。滝澤夏央も自己最多の125試合に出場し、90安打を放つなどポテンシャルを示した。彼らを含め、仁志コーチは打者陣についてどう感じたのか。

「自分に対する可能性を少し感じてくれているかなと思います。もっとよくなるし、ポテンシャル的にはもう一流と呼べるレベルになれるはずの選手もいます。そういう選手たちが、そこに意識を持ってくれる方向に行ったかなというのはあります。今後もっと突き詰めていってほしいので、苦手なことも含めて、自分を磨いていくことを一緒にできればいいですね」

 コーチは日々、地道にサポートしながら、選手がいい方向に進めるように尽力していくしかない。

「僕も本人たちに効果的で、的確なことをもっと伝えられればいいと思います。やっぱり毎日やっていると、逆に手詰まりになることもあるので。選手はたくさんいるので、毎日ひとりに付き添うわけにもいかないのもありますしね。ただ、選手たちには自分を"その他大勢"と感じさせないように、一人ひとりとちゃんと話はしたいです」

 球団再建には一定の時間がかかるものだ。それだけに仁志コーチをはじめ、新体制で取り組んでいる西武の挑戦をもう少し長い目で見守りたい。

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