アイスダンスデビューの紀平梨花「頑張れることが本当に幸せ」 ...の画像はこちら >>

【アイスダンスはワクワクする大きなチャレンジ】

 11月1日、フィギュアスケートの西日本選手権で紀平梨花・西山真瑚組が公式戦デビューを果たした。9月29日の結成発表からわずか1カ月ほど。右足のケガで休養していた紀平が競技に復帰するということで注目が集まった。

 2022年12月以来の公式戦出場となった紀平。これまでのような高難度ジャンプや右足のトウ(つま先)をつくジャンプが難しいこともあり、ミラノ・コルティナ五輪シーズンの今季もシングルとして全日本選手権への予選会である中部選手権出場を断念していた。

 その後に西山とアイスダンスのトライアウトを経てカップルを結成。当時のオンライン会見で紀平は、「これまでのシングルの人生からは考えてもいなかったような形になっているんですけど、アイスダンスというものが今、すごく楽しめていて。これからワクワクする大きなチャレンジになるので全力で頑張っていきたいと思っています」とコメントした。

 そこから西日本選手権へ向けて、急ピッチで練習を開始した。目標は2030年の五輪とするも、西山は「日本にはすでにすばらしいカップルがいるので、自分たちはまず日本一になるということを目指さないといけない。彼らに早く追いつけるようにこれから毎年努力を積み重ねるという段階です」と会見で決意を表した。

【"楽しんでデビューしよう"と臨んだ初演技】

 迎えた11月1日の西日本選手権。アイスダンサーとして初めての公式戦を紀平は笑顔で滑りきったが、「3年ぶりの試合、そしてアイスダンスの初試合ということですごくドキドキの大会」だったという。それでも、落ち着いて楽しく滑れたと安堵の表情を見せた。

 西山もパートナーのデビューを「1カ月しか練習していなかったのでどうなるのかなと思っていましたが、彼女がこの1カ月、めちゃくちゃ努力して大会に出場することができたのでとてもうれしく思います」と称えた。

 リズムダンスは「楽しんでデビューしよう」と臨んだふたり。

演技の内容的には、「気持ち的に大事だと思っていたツイズルがきちんと決まったのが私のなかではすごくうれしかった。表現の部分はしっかり楽しめましたが、ミッドラインのところでちょっとターンがあやしかったと思っているので、改善できたらいいなと思います」(紀平)と分析した。

 世界のトップで戦ってきた技術を持つ紀平でも、ふたりで滑るということに初めは苦戦したという。

「滑るだけでも転んでしまったりしたので本当に危険だなと思っていたんですけど(笑)。急ピッチでなんとか仕上げて頑張ってきたので、それがちゃんと形になって演技ができたのはよかったなと思います」と話すように、初めてのリズムダンスで2位という結果でチームのポテンシャルを示すことができた。

【3位表彰台も悔しさを噛み締めた】

 翌11月2日朝の公式練習でもエレメンツを一つひとつ確認し、堂々と落ち着いた様子だった。フリーダンスの『もののけ姫』の音楽を練習から丁寧に滑りで紡いでいた。このまま何事もなく本番を迎えるのだろうと思われたが、本番直前、西山に思いがけない出来事が起こった。

 5分間のウォーミングアップのあと、西山はバックヤードでスケート靴を脱いで調整を行なっていた。出番が近づき、スケート靴を履こうとした瞬間、靴ひもが切れたのだ。そこから西山はダッシュで男子更衣室まで予備の靴ひもを取りに行き、新しいひもに取り替える作業に入る。その西山の手元を紀平がスマートフォンのライトで照らし、見やすいようにサポートする。そんな抜群のチームワークでハプニングを乗り越え、ふたりは無事に本番に臨むことができた。

 そして、フリーダンス本番では『もののけ姫』の壮大な曲で強さ、美しさを見せた。冒頭のワンフットターンシークエンスはスピードをよく保ち、プラス評価を得た。コンビネーションリフトやツイズルに乱れがあったものの、デビュー戦とは思えないほど落ち着いていて、最後までしっかりと滑りきった。

 だが、紀平は「練習でできていた演技ではないので、悔しいという思いがまず初めにくる」と振り返った。

「自分の気持ちの状態や試合の感覚はすごくいい状態に持っていけていたので、そこがすごくよかったなとは思うんですけど、もっともっと、これがスタートとしてあとは上がりきりたいです」(紀平)

 西山も「フリーダンスに関しては悔しさが残るものとなりましたが、ここまで試合に向けて一緒に取り組んできた練習や大会に向けて調整してきたものは絶対これからにつながるものになる。これを糧にして全日本に向けて頑張りたいと思います」と今後への意気込みにつなげた。

【2030年の五輪に向けてここからがスタート】

 リズムダンス2位、フリーダンス4位の総合3位となり、初めての大会で表彰台に上った「りかしん」。国際大会派遣基準のスコアを獲得できなかったものの、「ここで全部が終わったわけじゃない」と西山は言う。

「まずはこの予選会に出ること自体が自分たちにとって(カップル結成から)1カ月でよくできた。そこは自分たちを褒めたいと思っています。ここからがスタートなので、本来の自分たちの目標である2030年の五輪に向けてひとつずつ階段を上がっていきたいです」(西山)

 紀平は、新しい挑戦に対して「今は頑張れるということが本当に幸せ」と話す。ケガをしてからは安静のために全力で練習ができない期間も長かった。

その当時を振り返りながら、今は晴れやかな表情でこう語る。

「休んでいると、トレーニングができていないことですごく自己嫌悪の気持ちが強い時期が続いていて。そういう苦しい時期が続いていたので、今は(練習や試合で)つらいな、しんどいなって思える毎日がすごく幸せでうれしくて。なので、楽しく上を目指してやっていきたいです」(紀平)

 今後は、高い運動神経や体幹の強さを持つ紀平ならではのリフトなどの技も増えていくことだろう。フィギュアスケーターとして再び輝くため、紀平は西山とともに新しい道を歩んでいく。

「りかしん」のコーチ、ケイトリン・ホワイエクのインタビュー記事を読む

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