ケイトリン・ホワイエク コーチ インタビュー

 西日本選手権のアイスダンス予選会に出場した新カップル2組(紀平梨花・西山真瑚組、浦松千聖・田村篤彦組)のコーチとして、2022年北京五輪にアイスダンスのアメリカ代表として出場したケイトリン・ホワイエクがカナダから来日。2組の初めての大会出場をサポートする彼女に話を聞いた。

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【"りかしん"の成長ぶりにワクワク】

ーーまずアイスダンサーとして紀平梨花選手がどう成長してきたのか。あなたの目から見ていかがでしょうか。

ケイトリン・ホワイエク(以下同) 私にとってリカ(紀平梨花)の成長は驚くべきことです。彼女はまだ始めたばかりですが、本当に早く学んでいます。そして、世界中から集まったアイスダンサーと一緒にトレーニングする環境にいることは彼女にとって新しい経験になることでしょう。それが彼女の刺激になればと願っています。

 彼女はもともとフィギュアスケーターとしてすばらしい素質を持っています。技術が非常に優れていて、エッジワークも膝の使い方も完璧です。だから私が一番心配、というより興味を持っていたのは、パートナーとの連携をどう築いていくかでした。

 ですが、シンゴ(西山真瑚)と組んで滑る技術を、驚くほど短期間で習得した姿に感銘を受けました。アイスダンスは、シングル選手のようにひとりで滑るのとはまったく違うので。だから私はワクワクしているんです。ここからもっと時間をかければ、リカとシンゴはすばらしい可能性を秘めていると思います。

ーー今年2月にシングルを引退した浦松千聖選手もアイスダンスに初挑戦です。

 チサト(浦松千聖)はエネルギーの塊です。一緒に練習するのがとても楽しいスケーターですね。滑っている時の彼女のポジティブさは周囲を明るくしてくれますし、技術の習得速度もすごく早い。彼女とアツ(田村篤彦)は本当にいいコンビで、ふたりの間に深い友情があるのが伝わってきます。それがアツのスケート技術の向上にもいい影響を与えていると思います。

 チサトはとても機敏で、リフトやスピンをこなす能力に優れています。パートナーシップとエッジの質を向上させることが次のステップへの課題ですね。ふたりの成長がすごく楽しみです。

ーー両チームの個性や可能性をどう見ていますか?

 まだ模索中だと思います。どちらも結成したばかりなので、彼らの氷上での個性やキャラクターをもっと探究していきたいと思っています。リカもチサトもシングル出身なので、今もっとも力を入れていることはパートナーとの絆を深めることです。

単にパートナーと滑るだけでなく、心を通わせて、ともに演技をすることを学んでいます。

 アイスダンスにおいてふたりが氷上で紡ぐ物語と絆はとても重要な要素だからです。各チームがそれぞれの方法でそれを引き出していけるように、私たちも模索している段階です。

 全体的に見て、チサトとアツにはとても軽やかで楽しいエネルギーがあると感じます。スケートにおいて成熟しているので「若々しい」とは言いたくないのですが、彼らの軽やかな演技には新鮮さがあります。その要素を引き出す方法を模索中です。また、先ほども述べたように、ふたりの友情はすばらしいものなので、その絆を演技に反映させ、表現することが重要です。

 リカとシンゴについては、ふたりとも長年トップレベルで活躍し、グランプリシリーズや世界選手権で戦うエリートスケーターとして経験を積んでいます。ですから、彼らのスケートにおける成熟度と芸術性を引き出すことを推進したいと考えています。それと同時に、お互いの関係性を発展させることにも取り組んでいます。

紀平梨花のアイスダンサーとしての伸びしろは? コーチのケイトリン・ホワイエクが新カップル2組の可能性を語る
西日本選手権のため来日したケイトリン・ホワイエク(右)

【シングル経験の強みをどう発展させられるか】

ーー紀平選手が西山選手に与える影響もあると思いますか?

 もちろんです。間違いなく。リカについて最初に気づいたのは、非常に強い意志を持っていること。

そして本当に努力家だということです。スケートへの取り組み方が本当にすばらしいんです。動画を見たり、研究したり、つねに学ぼうとしています。多くのアスリートもそうかもしれませんが、彼女がアイスダンスを学ぶことに非常に熱心であることは明らかです。

 そして彼女の大きな強みのひとつは、シングルのバックグラウンドがあるからこそジャンプと軽やかな滑りがあります。アイスダンサーは氷に深く踏み込み、膝を深く曲げて安定させることを学ぶので、すべてのアイスダンサーが彼女のような軽やかな滑りができるわけではありません。リカの軽やかな滑りがアイスダンサーとしてどう発展していくのか、本当に興味深いと思います。

ーー練習拠点であるカナダ・モントリオールでの彼らの様子はいかがですか?

 すばらしいですよ。4人全員がモントリオールでしっかりサポートされていることを感じ、モントリオールがもうひとつのホームだと思ってもらえたらうれしいですね。やはり日本とは言葉も違いますし、育ってきた場所とは大きく違う環境ですから。

 シンゴは英語が流暢で、アツとチサト、リカは勉強中ですが、母国語ではないので理解するには快適な言語ではないかもしれません。ですから私たちはデモンストレーションを通じてパートナーシップを実演したり、たくさんの感情や表現を用いた指導をして、できる限りコミュニケーションを取るように最善を尽くしています。

これも彼らがホームにいるような感覚を持ってもらいたいからです。

 でも、彼らのエネルギーは本当にすばらしいです。つねに学びたいという意欲があり、いつも前向きで努力家な姿勢でリンクに来ます。コーチの立場からすれば、生徒にこれ以上を求めることはできません。だからこそ彼らが今後どう成長していくのか、本当に楽しみなんです。

【"ちいあつ"はすばらしい絆を築いている】

ーー彼らの西日本選手権の演技についてはどう見ていますか?

 リカとシンゴのフリーダンスは、戦いだったと思います。結成したばかりなので、それがフリーに少し出てしまいました。でもそれは仕方がないことです。経験から学ぶことがすべてですから。このアイスダンスという場所に来て、こんなに早くから大会に出ることができたというだけで、彼らはすでに多くのものを得ています。

 ふたりが自分自身に厳しい気持ちを抱いているのはわかっています。でも、私としては彼らをただただ誇りに思っています。なぜなら、彼らはここにきて、ごく短期間でリズムダンスとフリーダンスの2つの演技を披露できたから。

ここからさらに上を目指すだけだと思います。

 チサトとアツはすばらしい友情を築いていて、それをプログラムで表現することができたと思います。それに、滑ることが純粋に楽しかったみたいですし(笑)。緊張したと言っていましたが、それは初めての大会だから当然のこと。ここで演技できたことは彼らにとってすばらしい学びの機会になったと思います。

ーー浦松選手と田村選手はとても仲がよく見えますが、5月中旬のトライアウトで初めて話したと言っていました。彼らはどうやって短期間でそこまでの絆を作ることができたのでしょうか。

 いい質問ですね。ふたりはすごくうまくやれていて、おそらく性格的な相性もいいんだと思います。お互いを支え合えていますし、アツにとってはそれが新しい経験だったんだと思います。この新しいチームで、アツはパートナーとのすばらしい絆を見つけたのでしょう。

【今後、磨いていくべき重要な2点とは】

ーー彼らにとって全日本選手権までに必要なことは何だと考えていますか?

 両チームにとってもっとも重要なのはエッジの質を高めることだと思います。

つまり、プログラムをブラッシュアップして一緒に滑る方法を学ぶことと、プログラムに必要な要素をすべて作り上げていくこと。

 そこからエッジの質やターン、キーポイントの改善、そしてふたりで滑ることに自然な流れを加えることに注力してほしいと思います。もちろん、大会後のレベル評価を参考に、必要に応じて調整を加えていきます。しかし全体としてはこの2点が彼らの大きな焦点になると考えています。

ーーでは最後に、日本にいるあなたのファンにもメッセージをお願いします。

 前回日本に来てからほぼ4年が経ちますが、日本はつねに私が訪れたいと思っていた場所のひとつでした。競技者として、そして今はコーチとして来ることができてとてもうれしいです。氷から長らく離れていたにもかかわらず温かく迎えられて、今回は本当にすばらしい経験になりました。

 競技者として、そして新たな挑戦としてコーチという役割を担う今、日本のスケートファンの皆さまが私のキャリアを通じて示してくださったサポートに心から感謝しています。

ーーコーチとしての生活を楽しんでいますか?

 はい、楽しんでいます。新しい経験であり新たな挑戦でもありますが、とてもワクワクしていますし、コーチングには強い情熱を感じて日々を過ごしています。全日本選手権には私か、おそらくパスカル(・デニス/コーチ)が来る可能性が高いと思いますが、いずれにせよ近いうちに必ず日本に戻ってくると思います。また皆さまにお会いできることを願っています。

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