緒方孝市の広島総括 中編

 広島OB・緒方孝市氏に聞く今シーズンの広島総括。中編では、野手陣についての見解を聞いた。

(前編:三本柱で13の借金を作った先発陣、中継ぎ陣の課題について語った>>)

【小園海斗、2人の外国人は結果を残したが......】

――野手陣についてはいかがでしたか?

緒方孝市(以下:緒方) いい部分から言えば、大きなケガ人が出なかったこと。そして何よりも、ここ数年、外国人助っ人がなかなか機能しなかったなかで、サンドロ・ファビアンが結果を残しました。ケガで出遅れたエレウリス・モンテロも持ち味の長打力をある程度見せてくれましたね。来シーズンも契約する方針と報道されていますが、そうなれば大きな戦力になるでしょうね。

 それと、小園海斗でしょう。3割を打つのが難しい時代のなか、今シーズンは.309をマークして首位打者を獲りました。彼の成長は大きかったですし、打線の核としてしっかり成長してくれたなと。小園、ファビアンら上位の打線はメンバーが定まり、チーム打率や安打数はそこそこの数字が出た一方で、得点圏にランナーを置いた場面であと1本が出ませんでした。これは昨シーズンから続く、大きな課題です。

緒方孝市は小園海斗、2人の外国人の活躍を称賛 一方で広島・野...の画像はこちら >>

――今シーズン、末包昇大選手はいいスタートをきったと思いますが、途中から不振に陥りました。バッティングの状態をどう見ていましたか?

緒方 シーズン序盤から中盤にかけて4番に座る試合も多かっですし、そこまでホームランはなくても打点を稼ぐなど勝負強さは見せてくれていました。ただ、中盤以降はそれまでできていた自分のバッティングを見失ってしまいましたよね。低めの変化球を振らされてしまう傾向が顕著でしたし、彼の悪い面が前面に出てしまったなと。

 1、2番を固定できなかったのも誤算でした。ショートのレギュラーとして期待していた矢野雅哉は、守備には絶対的な能力がありますが、打撃面を伸ばすかかが課題でした。ある程度打てるのであれば、1番や2番を任せられたと思うのですが、まったく打棒が振るわなかった。そうなると、打順やポジションを動かさなければいけなくなり、ほかの選手も動かさなければいけなくなる。そのあたりのやりくりに非常に苦労していましたよね。

 外野にしてもそうです。二俣翔一がオープン戦で強烈なアピールをして開幕スタメンを勝ち取りましたが、力を発揮できなかった。スイングが速く、長打力に加えて走力もある選手なので、彼がある程度打ってくれれば打線のバリエーションも増えたと思いますが、それが叶わなかったことは残念でした。

 2人とも守備では貢献できても、打線のなかで機能しないとなれば代えざるをえませんからね。中村奨成か、ベテランの秋山翔吾を使うのか、野間峻祥を使うのか、そういった試行錯誤をせざるをえない状況になりましたし、開幕前に首脳陣が描いていたような打順がなかなか組めなかったと思います。

【打線は固定すべきだった?】

――シーズンを通して打順を試行錯誤していた印象です。

緒方 打順が固定できないと、作戦が限られてきます。

走力でかき回すような攻撃がしたくても、走力が高い選手の打率、出塁率が悪ければ当然使えませんし、出塁率の高い選手を使うと走力が使えない攻撃になってしまったり......そういったところが得点力不足の要因のひとつでしょう。

――打線は固定すべきでしょうか?

緒方 ある程度は固定すべきだと思います。小園の出塁率が高く、3番として非常に機能した部分がありますし、その後を打つバッターとして、ファビアンや末包らメンバーはいましたからね。

 それと、もうひとつの誤算は坂倉将吾でしょう。開幕はケガで不在でしたが、彼の本来持っている打力を考えれば、期待する打順はやはりクリーンナップの一角。チームのなかでも、ランナーを返す勝負強い打撃が期待できる選手ですから。戦列に戻ってきてからは、坂倉を5番に据えたオーダーをかなり多く組んだと思いますが、本来の力が発揮できませんでした。ケガの影響が守備の不安につながり、打撃のほうにも影響してしまったというところでしょう。

―― 一方、ファビアン選手とモンテロ選手が契約更新となれば、来シーズンの野手の構想を考えるうえでかなり大きいのでは?

緒方 この2人は打線のなかに加わってほしいです。ファビアンは打つだけではなく、外野の守備も非常にアグレッシブで球際の強さもあり、気持ちを前面に出せる選手。モンテロも守備に関して意欲的ですし、2人ともチームプレーに徹してくれていますよね。性格も明るいですし、来シーズンも大きな戦力になってくれるはずです。

――新井貴浩監督が来季で4年目を迎えます。エールを送るとすれば、どのような言葉になりますか?

緒方 今年のペナントレースは、阪神の圧倒的強さを見せつけられたシーズンでした。広島からすれば早い段階で優勝をあきらめざるをえないシーズンになってしまいましたし、ファンのみなさんも非常に残念だったと思います。特に、阪神に対して6勝19敗と大きく負け越し、そこまで力の差をまざまざと見せつけられてしまうと、応援する気持ちが多少なりとも落ちていってしまいますよね。

 圧倒的な強さで優勝した阪神ですが、全チームに勝ち越す"完全優勝"をしたわけではありません(中日に12勝13敗と負け越し)。全部のチームに勝ち越すのは難しいんです。シーズンによって、どこかのチームに対して相性がいい、悪いといったことはどうしてもあるので。ただ、やはり優勝チームとの力の差ですよね。これだけの差があると、悔しさも倍増します。
 
 来年は今年の悔しさをぶつけて巻き返してほしいですし、優勝争いの輪に加わってシーズン終盤までファンのみなさんが盛り上がれるようなシーズン、チームとファンの皆さまが一体となって戦えるシーズンになることを願っています。

(後編:期待を寄せる広島の若手たち  投手では岡本駿、野手では佐々木泰などにさらなる飛躍の予感」>>)

【プロフィール】

緒方孝市(おがた・こういち)

1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。1986年に広島東洋カープからドラフト3位で指名され入団。

2008年まで主に外野手として活躍し、盗塁王のタイトルを3度、ゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後、コーチとして後進の指導。2015年に監督に就任すると、2016年から18年にかけてチームを球団史上初の三連覇に導いた。2019年に退任後、野球評論家などで活躍中。

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