連載・日本人フィギュアスケーターの軌跡
第9回 村上佳菜子 前編(全2回)

 2026年2月のミラノ・コルティナ五輪を前に、21世紀の五輪(2002年ソルトレイクシティ大会~2022年北京大会)に出場した日本人フィギュアスケーターの活躍や苦悩を振り返る本連載。

 第9回は、2014年ソチ五輪に出場した村上佳菜子の軌跡を振り返る。

前編は、一気に飛躍したジュニア時代から日本女子の中心選手へと駆け上がっていった道のりについて。

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【世界トップに立ったジュニア時代】

 2008年、ジュニアグランプリ(GP)初参戦でファイナルに進出した村上佳菜子。当時14歳。韓国・高陽で開催されたジュニアGPファイナルでの笑顔が印象的だった。

 その大会初日のショートプログラム(SP)は、3回転ルッツのエッジエラーやダブルアクセルの回転不足があり2位発進。「少し風邪っぽい症状はあった」と説明した村上だが、「すごく楽しかったです」と、報道陣の前で話す間もうれしさを隠しきれないような笑みを浮かべた。

 そしてフリーは「緊張してしまった」と、後半にジャンプのミスが続き、総合順位を4位まで落とす結果となった。それでも、「今回のファイナルは自分のためになりました。シニアの試合も見られたので、勉強したことを自分もできるようにしたいです」と、村上は明るく話した。

 その翌シーズン、村上は一気に飛躍した。各ジャンプの回転不足はほぼ克服。ジュニアGP初戦のトルン杯で優勝すると、その後も連勝し、ジュニアGPファイナルを制覇した。

 国内では全日本ジュニア選手権でも初優勝を果たし、ジュニアながら出場した全日本選手権でも176.61点の高得点をマークして浅田真央、鈴木明子、中野友加里、安藤美姫に次ぐ5位。

さらに、初出場の世界ジュニア選手権では日本女子史上6人目の優勝。村上はこの結果を持って次代を期待される存在となった。

【シニアデビュー初年に全日本表彰台】

 そんな村上は2010−2011シーズンにシニアデビュー。GPシリーズ初出場となったNHK杯のショートプログラム(SP)は、「スタートのポーズを取った時に外国人のジャッジが笑ってくれたので、私も笑ってしまいました」と、"らしさ"を見せながらの滑り出しだった。

 前シーズン中盤から入れ始めた3回転トーループ+3回転トーループは、最初のジャンプが回転不足の判定。「朝の練習でけっこう決まっていたので自信はありましたが、ちょっと緊張して足が宙に浮いている感じがあってパーフェクトではなかったです」と振り返る。

 それでも、しっかりと流れのある連続ジャンプにすると、3本のスピンをレベル4に。GOE(出来ばえ点)加点はあまりつかず56.10点。カロリーナ・コストナー(イタリア)に次ぐ2位発進とした。

 フリーでは、3回転ルッツが回転不足となって手をつくと、そのあとの3回転フリップ2本と3回転ループで転倒。最後の3連続ジャンプもサルコウが2回転になり、ミスを連発して合計150.16点。GPシリーズ初表彰台の3位を堅持したが、演技内容には満足できない結果となった。

 次のスケートアメリカはSP、フリーともに回転不足のミスが出てともに2位の得点だったが、合計164.93点でGPシリーズ初優勝を果たす。

初進出のGPファイナルは、2位のコストナーを0.01点差まで追い上げる当時の自己ベストの178.59点で総合3位と、鈴木明子や安藤美姫を上回る結果を出した。

 初めてシニア選手として出場した全日本選手権では、3回転+3回転の連続ジャンプと3回転フリップをきれいに決めたが、後半のアクセルがシングルになるミス。それでも3位発進とする。村上は、ここでも明るく振り返った。

「(演技前に)観客席を見たらパパがいたので、思わず『パパだ!』と言ってしまってリラックスできました。でも、終わってからは先生に『(アクセルのミスを)またやってしまったね』と言われました」

 フリーは、ミスをわずかに抑えて納得の演技となった。合計187.52点。安藤と浅田に次ぐ総合3位に入った。

「やっと練習してきたことができてすごくうれしいです。シニアの大会にも慣れてきた感じで、やっと落ち着いて演技できるようになりました。終盤のステップは失敗することがあるので緊張しながらやったけど、最後のスピンが終わった時はすごくうれしくてガッツポーズをしてしまいました」

 そう言って、喜んだ村上。

「ここまですべての大会で成長できているので、次につながるかなと思いました。

また、これから技術や心の面でも成長できるようにしたいです」

【日本女子の主力選手へと成長】

 そして、2011−2012シーズン。基礎点が高い3回転フリップ+3回転トーループに挑戦したが、GPシリーズでそれがうまくいかず中国大会6位とフランス大会4位にとどまった。

 その後、連続ジャンプを3回転トーループ+3回転トーループに戻した全日本選手権では「思いきりできた」と、SPはノーミスで非公認ながら自己ベストを更新して首位発進。フリーはミスが出て6位の得点ながら、合計は172.69点で総合3位に入った。

 2回目の世界選手権では、浅田をひとつ上回る総合5位で、3位の鈴木明子とともに翌年大会の日本出場枠3枠獲得に貢献した。前年優勝の安藤が休養したシーズンだったが、その穴をしっかり埋めて自身のポジションを確立していった。

 ソチ五輪プレシーズンの2012−2013シーズンは、全日本選手権で183.67点を獲得して浅田に次ぐ総合2位になり、次のステージに駒を進めた。

 そして四大陸選手権では、基礎点が1.1倍になる後半に3回転トーループ+3回転トーループと3回転フリップを入れた構成を初めてノーミスで滑り、64.04点で3位発進。フリーも粘りの演技を見せて、合計181.03点で浅田と鈴木に次ぐ総合3位。安堵の表情を見せていた。

 その1カ月後の世界選手権では、SPをノーミスで3位発進。フリーでもミスを最小限に抑えて、自己ベストの合計189.73点を出して総合4位に。

ソチ五輪出場枠3枠獲得の重責を果たす滑りを見せた。

後編につづく

<プロフィール>
村上佳菜子 むらかみ・かなこ/1994年、愛知県生まれ。2009年ジュニアGPファイナル、2010年世界ジュニア選手権を優勝し、ジュニア時代から好成績を収める。シニアデビュー1年目の2010−2011シーズンには、GPシリーズ・NHK杯で3位、スケートアメリカで優勝。2014年四大陸選手権を優勝し、同年のソチ五輪に出場して総合12位。2017年に引退後は、プロフィギュアスケーターや解説者、タレントして活躍している。

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