星野伸之の若手サウスポー考察 パ・リーグ

セ・リーグ編:新人王候補左腕を星野伸之が分析 阪神とヤクルトのルーキーはどこがすごい?>>)

 オリックスや阪神で現役通算176勝を挙げた名サウスポー、星野伸之氏が分析する若手左腕。パ・リーグ編では、新人王候補、さらなる飛躍に期待するサウスポーについて語ってもらった。

【プロ野球】星野伸之が注目するパ・リーグ若手左腕 オリックス...の画像はこちら >>

【ソフトバンクの松本は】

――まず、一定の活躍(29試合登板、6勝6敗2ホールド、防御率2.76)を見せ、チームのリーグ優勝にも貢献したソフトバンクの松本晴投手についてお聞きします。

星野伸之(以下:星野) 7月3日の日本ハム戦で見せた、7回14奪三振1失点(自責点0)のピッチングは見事でした。バッターへの攻め方は、まずクロスファイヤー(利き腕と対角線上のコースに投げ込む真っ直ぐ)を見せておき、そこからのスライダーなのかなと。打たれたあとでもキャッチャーは同じ要求をしていましたし、それが基本的な攻め方なんでしょうね。

 150キロ前後のストレート(今季の最速は152キロ)を投げますが、今は球の速いピッチャーはいくらでもいるので、バッターは速いボールにも適応してきます。個人的な意見としては、先ほど(セ・リーグ編で)話した阪神の伊原陵人と同じ課題で、いかにアウトローに精度高く投げきれるか。攻め方が少ないと相手も読んできますし、長いイニングを投げようと思ったら、ストレートをアウトローに決められるかどうかが大事になってくるはずです。

――アウトローがポイントになる?

星野 インコースのボールは力がないと打たれてしまうため、力がすごく必要になります。気持ちも入る分、必然的に力んでしまうことも多いんです。調子がいい時はどんどん投げてもいいと思いますが、試合の後半や疲れがたまるシーズンの後半になると、どうしても力強いボールが投げられない。バッターから一番遠いアウトローのコントロールを重視する理由はそのためです。特に長いイニングを投げなければいけない先発ピッチャーにとってはポイントになると思います。

【曽谷はキャリアハイの8勝も、見えた課題は?】

――次に星野さんの古巣オリックスのサウスポー、3年目の曽谷龍平投手についてお聞きします。

今シーズンは21試合に登板しキャリアハイの8勝(8敗)を挙げましたが、昨シーズン2点台だった防御率は4.01に。シーズン終盤は制球が定まらないシーンも見受けられました。

星野 曽谷は、キャッチャーのサインにもっと首を振ってもいいんじゃないのかなと。首を振らないのか、振れないのかはわかりませんが、どの球種が自信のあるボールなのかが今ひとつわからないんです。明らかにストレートが抜けてしまっている時でも、サイン通りにストレートを続けていたり......。

 スライダーの曲がりがいいので、もしスライダーに自信があるのであれば、初球から大胆に真ん中に投げていくこともひとつの手です。配球をもう少し勉強したほうがいいかもしれません。例えば、ストレートが多くて疲れたのであれば、スライダーを多めに投げておいてからストレートをドンっと投げるとか。バッターに対して「今日はスライダーが多いよ」と思わせておいてのストレートはけっこう効くので。

――対右バッターであれば、インローにスライダーを見せるパターンも効果的でしょうか?

星野 そうですね。先ほどお話した松本は、右バッターに対してのインローのスライダーを打たれたとしても投げ続けたりしますし、そこが生命線なんでしょうね。ただ、インローのスライダーも、疲れてきた時は注意しなければいけません。

 疲れて腕の振りが悪くなると、ボールの回転数も少なくなるのであまり曲がらなくなります。右バッターにとっては入ってくるボールですし、曲がり方にキレがなければ簡単にさばかれてしまいます。

――だからこそ、アウトローが大事になる?

星野 アウトローにストレートを投げたあと、同じアウトローから落とすパターンもあっていいと思うんです。そういうピッチングを、疲れがたまる試合の後半だけじゃなく、序盤からやってもいい。曽谷の場合は、チームに宮城大弥というサウスポーのエースがいるので、宮城の影響を受けて「クロスファイヤーに磨きをかけたい」という思いが強いのかもしれませんが、長いイニングを投げるためには、ピッチングの幅を広げていかないといけません。

 もちろん、クロスファイヤーが決まればすごくいいですよ。でも、角度のあるボールなので、球審によってはボールと言われることもあった。クロスファイヤーの一辺倒になると、外から中に入れるボールを投げた時、バッターにとって"手伸びゾーン"の打ちやすいボールになってしまいます。

――逆に、外へ逃げるボールも織り交ぜていくべきですか?

星野 そうですね。右バッターが踏み込まないと打てないような、追いかけさせるようなボールを織り交ぜていかないと、「外はそんなに攻めてこないし、踏み込まなくてもいいな」と、打つほうはラクになりますから。ここまで話したのは右バッターに対する攻め方で、左バッターの場合はスライダーが逆に追いかけないといけないボールになりますけどね。

――現役時代の星野さんといえば、130キロ前後のストレート、90キロ前後のスローカーブ、フォークボールのコンビネーションでバッターを手玉に取りました。

ピッチングで意識していたことはありますか?

星野 僕の場合はストレートが速くなかったので、「いかにストレートを速く見せるか」というテーマを持ってピッチングを組み立てていました。そういった球種のコンビネーションもそうですが、やはり長いイニングを投げるためには、アウトローにいかに制球できるかどうかがポイントになると思います。

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000奪三振を記録している。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。

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