創価大・榎木和貴監督インタビュー 前編

【箱根駅伝2026】「5強」崩し期待の"たたき上げ軍団"創価...の画像はこちら >>

 青山学院大、駒澤大、國學院大、中央大、早稲田大の「5強」とも言われる今季の箱根駅伝。だが、その5強を向こうに回して「3位(以内)」を目標に掲げるのが、ここ数年、三大駅伝で安定した成績を残し、今年の出雲駅伝で3位に入った創価大だ。

 率いるのは就任7年目の榎木和貴監督(51歳)。全2回のインタビューの前編では、これまで高校生のリクルートでは決して恵まれてきたとは言えないチームを、コツコツと着実に鍛え上げてきた指揮官に、創価大の育成、強化の強み、こだわりを聞いた。

【年4回の個人面談とグループ分けしての練習】

――榎木監督がチームづくりで重視していることは、どういうことでしょうか。

「まず選手とのコミュニケーションです。年4回の個人面談を行ない、春に立てた目標に対して、どうクリアしていくかを話し合い、確認しています。

 コミュニケーションが大事だなと感じたのは、高校でも大学でも、選手に対して練習メニューの提示やタイム設定をするだけで終わっているチームが多いなと感じていたからです。それだと"やらされている感"が強くなってしまう。なぜ、この練習が必要なのかを理解したうえで取り組ませたいんです。(何も考えずに)ただ練習だけこなしていればよいということでは、なかなか伸びていきません」

――日々の練習メニューも、個々の選手のレベルや目標に合わせて異なるものを提示しているのですか。

「就任当初からしばらくは全体で(同じ)練習を進めていく感じだったのですが、(以前からコーチを務める)久保田(満)コーチに加えて、(2023年に)築舘(陽介)コーチが加わってからですね。久保田は私と同じ旭化成出身で、私の考えを理解し、同じ方向性で進めてくれます。築舘は私の就任1年目の時のキャプテン。当時、私が来てチームが変わったことで、箱根駅伝で戦うために何が必要であるかを理解し、今は選手と同じ目線で指導してくれています。

 この頃からチームを大きく3つのグループに分け、個々をより深く見られるようになりました。さらに昨年4月に、旭化成で実業団のトップレベルの指導をされてきた川嶋(伸次)総監督が入られたことも大きいです。駒澤大における大八木弘明総監督の『Ggoat』のようなトップグループをつくり、選手をより高いレベルに引き上げることが可能になりました」

 各グループへの選手の振り分けに関して、基本は持ちタイムなどレベルに応じてとなるが、目的別に分けるケースもある。例えば、「ハーフマラソンに出場する選手」「10000mに出る選手」「練習でしっかり整えていく段階の選手」といった具合だ。それぞれ担当コーチが指導し、コミュニケーションを取っていく。大きな試合がある選手、例えば小池莉希(3年)が今年7月の日本選手権に出場する際には、個別メニューをつくり、留学生をその練習パートナーにするなどの工夫をした。

【来年は5000m13分台の高校生が入学予定】

――チームづくりの根幹となるのがリクルートですが、監督は高校生のどういうところを見ていますか。

「走る際の動きはもちろん、レースで積極的に前に出て引っ張るタイプなのか、集団の中にいて最後に勝つことに執着するタイプなのかなど、レースの組み立てを見ます。その後、話をして、4年間、学業と競技を両立できる子なのかを確認します。競技力だけではなく、人間性が非常に大事ですので、そこはしっかり見極めたい。性格にクセがあっても、"コントロールできるわがまま"であれば、個性、強いこだわりとして受け入れられるので問題ありません。でも、"自己中心的なわがまま"の場合は難しいと判断しています」

――「いいな」と思う選手へのアプローチは、早い段階からしていくのですか。

「まだ記録が出る前の段階の1年生でも、いい走りをしている選手がいると聞けば、積極的にアプローチしていきます。

上級生になって記録が出てくると、他大学にスカウティングされてしまいますし、その結果、何度も悔しい思いをしてきました。昨年は"最後の二択"でことごとくお断りされて5連敗していたんです(苦笑)。

 でも、今年の高校3年生に関しては、すべて最後の最後でウチを選んでくれて、(高校トップレベルの目安となる5000m)13分台の選手が初めて、しかも5名入ることになりました」

――5連敗からの5連勝、何があったのでしょう。

「やはり、1年生のうちから根気強く通っていたことと、環境のよさを理解してくれたのでしょう。実際に寮や練習を見に来てもらったのですが、寮の設備をはじめ、チームの明るい雰囲気や先輩後輩の上下関係がそこまで厳しくなく、基本的にみんな平等という環境に触れて決めたという子が多かったです。

 あとは、OBの葛西(潤)(現・旭化成)が昨年のパリ五輪10000mに日本代表として出場したことが非常に大きいです。上のレベルを目指している高校生は『日本代表になりたい』『マラソンで日本記録を出したい』という目標を持っているので、創価大の卒業生からオリンピアンが出たのは非常にインパクトがありました。

 葛西自身は高校時代に13分台で走った選手ではないんですけど、創価大で強くなったとプレゼンできますし、それを聞けば、高校生も安心して飛び込んできてくれるのかなと」

――創価大と創価学会の関係について関心を持つ高校生や保護者もいるかと思いますが、リクルート活動に影響していますか。

「創価大では、一般学生の入学に際して本人の宗教を確認することはなく、宗教教育も行なっていません。駅伝部においても同様に信仰の有無を問うことはありません。駅伝部で言えば、学会員は1割くらいだと思いますし、そもそも学会員である必要もありません。

 私自身も監督就任のオファーをもらった際に、学会員にならないといけないのかという確認をしたのですが、『そういうことはありません。

駅伝の強化でやりたいことをやってください』と言われましたし、実際にストレスなくやれています。また、熱心に応援をいただけるのもありがたいことです。

 保護者のなかには理解していただけず、お断りされることもありますが、われわれとしては、活動方針や実績を丁寧に説明することで、理解を得られるよう努めています」

【約束した以上、妥協はさせない】

 榎木監督の言うように、創価大は今年まで5000m13分台の有力選手を獲得することができなかった。14分台、15分台の選手をどのように育て、箱根で戦えるチームにしていくのかが、毎年のテーマになっていた。

――14分台、15分台の選手を13分台に持っていくのは簡単ではないですし、彼らを箱根で戦えるようにするのはかなりの苦労があるのではないでしょうか。

「私が就任した当時は、まだ14分50秒から15分台の選手が多かったです。そんな彼らが、例えば青山学院大に13分台で入学してきた選手たちと箱根で戦わないといけないわけです。そのため、最初の2年間は地道に距離を踏ませるなどして土台づくりをしました。そしてレースで14分30秒台を出せば、次は20秒台を狙い、クリアするとみんなで喜ぶ。そういうふうに強くなっていったので、成長を見られる楽しさがありましたね。

 その後、14分10秒前後の選手が入ってくるようになりましたが、(当時急速に普及した)厚底シューズでタイムを出せた感じなので、14分50秒で入ってきて、そこから鍛えてタイムを上げてきた選手のほうが強いなと感じることもありました」

――持ちタイム14分50秒台から1分以上タイムを縮めていく過程で、その困難さに音を上げる選手はいないのですか。

「そもそもウチはそういう選手を勧誘していないです。

高校生に『どこを目指しているの?』と聞くと、ほぼ全員が『箱根駅伝に出たい』と言います。だから、『今の持ちタイムから1分縮めないと箱根駅伝では戦えないよ』『箱根を走りたいのであれば、ハーフ(マラソン)の距離を単独で走る力を求められるよ』と伝えるんです。それでも『走りたい』と言って入学するわけですから、約束した以上、妥協はさせません。

(走行)距離が少なければ、『そんなんじゃ箱根にたどり着かない』と強く言いますし、箱根を走るためには厳しさを求めていきます。ただ、5000m13分台の高校生が入ってくる来年からは、育成、強化のフェーズが変わってくるでしょう」

――より高いレベルでの成長を求めていくことになりますか。

「これまで14分台、15分台の選手には『箱根を走りたいのであれば、月間で750km以上は距離を踏みなさい』と言ってきました。でも、13分台の選手のなかには『別にそこまで距離を踏まなくても、ハーフぐらいなら走れます』という選手がいるかもしれない。その時、われわれ指導者がどういうアプロ―チをしていけばいいのか、という壁に初めてぶち当たると思います。

 強豪校はもう10年くらい前からそういう壁にぶつかりながら強化してきています。でも、ウチは来年初めて13分台の選手を迎えるので、非常に楽しみですけど、逆に成長させることができなかったら、『創価大は14分20秒前後の選手しか育てられない』という厳しい見方をされる。最低でも日本選手権に出られるくらいに成長させないと、そういう評価になることを覚悟してやっていかないといけません」

後編を読む>>>創価大・榎木和貴監督「目標の3位(以内)を達成すれば、来季はその上を目指すところにいける」

■Profile

榎木和貴/えのきかずたか
1974年6月7日生まれ。宮崎県立小林高校では全国高校駅伝で区間賞を獲得。

中央大学では箱根駅伝で4年連続区間賞に輝き、3年時にはチーム14回目の総合優勝に貢献した。卒業後は旭化成に入社し、2000年別府大分毎日マラソンで優勝。2004年に沖電気陸上競技部コーチに就任。その後、トヨタ紡織陸上競技部コーチ、監督を経て、2019年に創価大学陸上競技部駅伝部の監督に就任すると、1年目の箱根でチーム史上初のシード権獲得、2年目で往路優勝、総合2位に導いた。

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