立教大・髙林祐介監督インタビュー 後編
前編を読む>>>予選会をぎりぎりの10位通過も、立教大の髙林祐介監督が「逆によかった」と語る真意
昨季の立教大は箱根駅伝の予選会をトップ通過、さらに初出場の全日本大学駅伝でシード権を獲得し、箱根本戦でも終盤までシード権争いに絡むなど、存在感を発揮した。今季は予選会、全日本大学駅伝ともにエースの馬場賢人(4年)を欠くなどして、ここまで思うような結果を残せていないが、予選会後は生活面の改革を起点に、箱根本選への準備を着々と進めている。
就任2年目の髙林祐介監督のインタビュー(全2回)の後編では、目標に掲げる「64年ぶりのシード権獲得」に向けて巻き返す現状、さらにレースの展望を聞いた。
【全日本後のMARCH対抗戦は非常によかった】
10月18日の箱根予選会を経て、立教大は練習の質を底上げするための土台づくりとして、生活面の見直しに着手した。とりわけ、睡眠だ。専門の先生を招き、睡眠の重要性や質を高める具体策を学ぶ機会を設け、チームとして"日々の積み重ね"を整えることに力を注いだ。
――予選会後、監督が何か新たに始めたことはあったのですか。
「練習だけでなく、個々の状況に応じたコミュニケーションを意識的に増やしました。練習を積めている選手とは自然と話す機会が多い一方で、故障や調整で思うように動けない選手とは、どうしても対話の時間が減ってしまう。そこで、そういう選手とは、個別にコミュニケーションの場を設けるようにして、自分と彼らの考えをすり合わせるようにしました。そうして意思統一を図り、食事や睡眠など生活面での指導を進めていくと、ある変化が起きたんです」
――どんな変化でしょうか。
「みんな最近、寮が静かだと言うんです。消灯時間より30分ほど早い時間には自主的に消灯して、暗くなっています。朝練習の時間から逆算して、睡眠時間を"確保する"のではなく"最優先にする"という意識に変わってきたんだと思います。
やらされるのではなく、必要だと腹落ちしてから動き、実際、その効果を感じているようなのでよかったですね。
箱根の予選会を経て取り組んだ生活の見直しと日々の基準づくり。選手たちは成長できたのか。それを確認する場となったのが、11月22日に開催されたMARCH対抗戦だった。14名の選手が10000mに出場し、28分10秒04で自らの持つ立教大記録を更新したキャプテンの國安広人(4年)をはじめ、多くの選手が28分台半ばの自己ベストをマークした。
――MARCH対抗戦では一定の結果が出ました。
「正直、ここで撃沈していたら、今日の取材もどうしようかなと思っていました(笑)。それはともかく、選手たちもこれまで積み重ねてきたものが、ようやく試合で出せたという手応えを感じてくれたでしょう。結果を出せなかった選手もいましたが、そこは悔しさを噛みしめ、次の行動につなげているなど、全体的には非常によかったです」
【箱根は1区が大事】
――箱根予選会、全日本大学駅伝、そして、MARCH対抗戦といずれも姿のなかったエースの馬場選手の状態が気になります。
「馬場は、予選会1週間前までは出場予定でしたが、少し負荷が重なって痛みが出てしまい、出場を見送りました。でも、今はもういいリズムで走れるようになってきているので、予選会の時と同じようなことが起きないように準備していければ、箱根は十分に間に合います。馬場自身も最後の箱根への思いは強いので、しっかり走ってくれると思います」
今季の立教大において、昨季までと明確に異なる点は、初めてエースが誕生したことだろう。馬場は前回の箱根2区で区間7位と流れをつくり、往路8位に大きく貢献した。その後、2月の日本学生ハーフマラソンで2位(日本人学生歴代3位の1時間00分26秒)になり、7月のワールドユニバーシティゲームズ(ドイツ)には日本代表として出場し、4位入賞と大きく飛躍を遂げた。
――昨季はエース不在でしたが、今季は馬場選手がエースたる存在感を発揮するようになりました。
「私の現役時代を振り返ってもそうでしたが、チーム内にエースがいると、自然とそこに続く、エースの脇を固める選手が出てくるんです。今のウチで言えば、國安や原田(颯大・3年)ですね。彼らは自分がエースになりたいという気持ちも強いので、そこで競争が生まれます。また、そうなることでチーム全体の力も引き上げられる。そうして役者がそろっていくものなので、馬場がエースに成長したのは非常に大きかったですね」
――名前が挙がった原田選手は今季、持ちタイムを大幅に伸ばしました。
「昨年の状態を考えると、これほどたくましくなるとは、ちょっと想像ができませんでしたね。逆に大丈夫かなと心配していたくらいだったので。でも、彼はこの1年間、練習や合宿を泥臭くこなしてきました。馬場やほかの4年生たちと練習を重ねるなかで、しっかり力をつけてきました。4年生の背中を見て、俺たちの学年もやらないといけない、自分が今やるべきことは何かを考えて練習に取り組んでくれたからだと思います。今後はそれを下の学年にも示していってほしいですね」
――一方で、昨季も課題として挙げていた、下級生を含む中間層の底上げについてはいかがですか。
「中間層はまだ伸ばせる余地が大きいと思っています。下級生も即戦力として走れるのはひと握り。そこは、ある程度、時間をかけて育てていく必要があります。鍛えることが大事ですが、無理をさせればコンディションを崩してしまう。だから、基礎をしっかり積みながら段階的に引き上げていくイメージです。もちろん、やれる選手には、どんどん機会を与えていきたいなと思いますが、基本的に1、2年時にはしっかりと土台づくりをして、3、4年生で飛躍してくれる形が理想ですね」
――今回の箱根駅伝は、例年以上の高速駅伝になると言われていますが、レース戦略については、どう考えていますか。
「駅伝は流れが大事なので、1区が重要だと考えています。11月の全日本では1区で出遅れて、流れに乗れないまま自分たちの走りができず、苦しいレースになってしまいました(1区で区間16位、最終結果は14位)。その反省もありますし、今回はどの大学の監督さんも『最初から行く』と明言しているので、ウチも乗り遅れないようにしないといけません」
――タイム差のつきやすい山(5区、6区)は、目処が立っていますか。
「前回の5区は、4年生の山本羅生(引退)がいい走りをしてくれました(区間5位)。今回も、山本に近いタイムか、それ以上で走れる選手を準備しています。仮に、5区で苦しんだとしても、6区、7区で立て直せる力を持ったメンバーを配置する予定です。
【攻めの駅伝でシード権を獲りにいく】
チーム構成、今季ここまでのレースを見ても、立教大の浮沈のカギを握るのは、やはり4年生になるだろう。前回の箱根前も「4年生はどうなのか」「大丈夫なのか」という不安の声は大きかったが、いざフタを開ければ、4年生が5区間を担い、レースをつくった。
――今回も4年生の走りがシード権獲得に向けてのキーになりそうですね。
「前回は4年生がしっかり走ってくれました。今回も4年生がウチの強みになると思います。昨年のキャプテンの安藤圭佑(引退)たちがチームに残してくれたものを自分たちも残したい、さらに前回の箱根以上のものを残したいと取り組んでくれています」
――そういう4年生の姿が、下級生の来季以降の成長を促すわけですね。
「強豪校が、なぜ強いなのかを考えた時、主力のレベルが高いのは前提として、例えば青山学院大だったら、『三大駅伝(出雲駅伝、全日本、箱根)を走るのは初めてです』という選手でも、当たり前のように好走しますよね。(私の母校の)駒澤大も同様です。そういう走りができるのは、毎年毎年、各選手が先輩や仲間の成功体験を共有できる環境があるからだと思います。
立教大でも、前回の箱根で山本が5区で好走した姿や、馬場が2区でがんばった姿は、具体的なイメージとして後輩たちに残りました。駅伝以外でも、先月のMARCH対抗戦で國安が学内記録を更新し、伊藤(匠海・3年)や原田が結果を出したので、その姿を見た下の学年の選手が、『次は自分が』という気持ちでチャレンジしていく。そうやってチームとしての成功体験を積み重ねていくことが、とても重要だと考えています」
――今回の箱根は、予選会10位通過。
「確かに20番目ですが、だからといってシード権獲得にチャレンジしない理由にはならないですよね。前回は、最終10区で4チーム(東京国際大、東洋大、帝京大、順天堂大)によるシード権争いが繰り広げられましたが、今回も激しい競争になるでしょう。安全策のオーダーは組みません。(重要視する)1区から攻めの駅伝でいきます。前回のウチは、予選会から箱根本番までの2カ月弱の選手たちの集中力が一気に高まり、みんな別人のような状態になった。今回も、同じような流れを期待できます。失うものもありません。攻めの駅伝、全員駅伝でシード権を獲りに行きます」
■Profile
髙林祐介/たかばやしゆうすけ
1987年7月19日生まれ。三重県立上野工業(現・伊賀白鳳)高校ではインターハイで3年連続入賞。駒澤大では学生三大駅伝で区間賞を7度獲得。卒業後はトヨタ自動車に入社し、2011年の全日本実業団対抗駅伝で3区の区間記録を更新。



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