石毛宏典の打撃分析 前編

「投高打低」の傾向が顕著なプロ野球界。そんななか、今季に3割台の打率をマークし、セ・リーグの首位打者に輝いた小園海斗(広島)と、パ・リーグ首位打者の牧原大成(ソフトバンク)。

なぜ、彼らはヒットを量産することができたのか。

 1980年代中盤~1990年代中盤の西武黄金時代に、長らくチームリーダーとして常勝軍団を牽引し、勝負強いバッティングで幾多の勝利をもたらした石毛宏典氏に、ふたりの見解を聞いた。併せて、同氏が以前から高く評価する近本光司(阪神)のバッティングについても解析してもらった。

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【小園のバッティングの優れた点】

――まず、セ・リーグ首位打者の小園選手のバッティングについてお聞かせください。

石毛宏典(以下:石毛) バランスのとれたバッティングフォームだと思います。ただ、私が一番重視しているのは、バットを後ろに引いた時に前の腕(小園は左バッターのため右腕)が張れているか(伸びているか)どうか、という部分です。前の腕を張ることでヘッドを走らせる距離が長くなり、ボールに強い力をぶつけられます。逆に前の腕が緩むとヘッドを走らせる距離が短くなり、ボールに伝わる力が弱くなってしまいます。

 その点で小園は、前の腕はそこまでしっかりとは張れていませんが、バットを振りでした時に後ろの膝(左膝)と後ろの肘(左肘)の位置が垂直に合致しているのがいいですね。後ろの肘が後ろの膝よりも前に出てしまうと手打ちになってしまいますが、それを回避できるうえ、詰まったとしてもボールを押し込むことができます。

――前の腕を張るためのポイントは?

石毛 グリップを高い位置に置くよりも、低い位置に置いたほうが前の腕を張りやすくなります。グリップの位置を低くすると別の利点もあり、どれだけバットを強く振っても、後ろの肩を止めることができます。逆にグリップの位置が高いと、バットを振ろうとした時、後ろの肩が前に持っていかれ、体が早く開いてしまいます。

つまり、変化球にもろくなってしまうんです。

 腕の張りという観点で理想的なのは、大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)です。バットを引いた時にグリップの位置が低く、前の腕をしっかりと張れています。たとえるならば、弓矢の弓を引くイメージです。小園の場合は前の腕が少し緩んでいて、バットをカット気味に上から振り下ろしていくような感じですね。

――腕以外の部分の動きはいかがですか?

石毛 足に関しては自分がタイミングを取れたらいいので、足を上げようが、すり足にしようが、ノーステップだろうが、何でもいいと思います。小園は膝、腰、肘、肩が水平に回るので、バランスがいいフォームと言えますね。彼は高校時代(報徳学園高)に早くからレギュラーとして試合に出ていましたが、その頃から「いいバッターだな」と思って見ていました。身のこなしにもセンスを感じましたしね。

【牧原、石毛氏が高く評価している近本の打撃も解説】

――続いて、パ・リーグの牧原選手のバッティングについてお願いいたします。

石毛 牧原も左バッターですが、後ろの肘(左肘)が暴れませんし、小園と似たタイプですね。「暴れない」というのは、余計な動きがないということ。

でも、前の腕の張りが弱くグリップの位置が少し高いので、体が早く開いてしまって変化球で崩されることはあるでしょう。

 バットを振り出した時に左脇が締まり、後ろの肘が体から離れずにくっついているのがいいですね。離れてしまうと手打ちになってしまいますから。先ほどもお話ししたように、後ろの肘が体にくっつき、後ろの膝の位置と垂直に合致していれば、軸がしっかりできてボールを押し込めるんです。

――気になる部分などはありますか?

石毛 軸足(左足)の膝が内側に少し曲がっているのですが、真っすぐ伸ばせば、足のつけ根を使って前への重心移動がスムーズにできます。膝が曲がっていると、腰がやや傾いたままバットを振りにいくことになり、重心移動に多少のロスが生じます。この部分に関しては、小園のほうがスムーズな印象です。

――ちなみに石毛さんは、以前から阪神の近本選手のバッティングを高く評価していますね。やはり左バッターですが、どんな部分がいいですか?

石毛 前の腕(右腕)をしっかりと張れていて、グリップの位置も低くキープできています。それと、足をガッと上げるのが特徴のひとつですが、タイミングが取りやすいんでしょう。構えているときに軸足(左足)が少し曲がっていますが、右足を上げている時に曲がっていた膝が真っすぐになるんです。

 ちょっと気になるのは、フィニッシュの瞬間。

バットを振る時に前の足(右足)の膝が曲がるんですよ。曲がっていてもいいのですが、膝を真っすぐに伸ばす意識を持つと、パンチ力が違ってきます。前足の膝を伸ばすことで地面からの反発力を生かすことができるからです。長打を増やしたいと思っているかどうかはわかりませんが、そうすることで増えますよ。

――近本選手は171cmと小柄ですが、外野の間を抜く強い打球も多いのは、やはり前の腕の張りのおかげでしょうか?

石毛 そうでしょうね。私も現役時代は逆方向に長打を打てていましたが、前の腕を張るように意識していたからだと思います。バッティングにはいろいろなポイントがありますが、私がバッターを見るときにチェックするのは、やはり前の腕の張り具合ですね。

(後編>>)

【プロフィール】

石毛宏典(いしげ・ひろみち)

1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。

2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランドリーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。

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