【箱根駅伝 名ランナー列伝】中村匠吾(駒澤大学) 「1区のス...の画像はこちら >>

箱根路を沸かせた韋駄天たちの足跡
連載06:中村匠吾(駒澤大/2013~15年)

いまや正月の風物詩とも言える国民的行事となった東京箱根間往復大学駅伝競走(通称・箱根駅伝)。往路107.5km、復路109.6kmの総距離 217.1kmを各校10人のランナーがつなぐ襷リレーは、走者の数だけさまざまなドラマを生み出す。

すでに100回を超える歴史のなか、時代を超えて生き続けるランナーたちに焦点を当てる今連載。第6回は、東京五輪マラソン代表となった中村匠吾(駒澤大)を紹介する。

【箱根1区でのライバル対決で成長】

 2011~2014年に全日本大学駅伝で4連覇を達成した駒大。その時代の中心選手だったのが中村匠吾だ。同学年の村山謙太とともに学生駅伝を席巻。箱根駅伝でもすばらしい走りを見せている。

 中村は三重県の上野工高(現・伊賀白鳳高)3年時にインターハイ5000mで3位。その年の10月には5000mで高校歴代7位(当時)となる13分50秒38をマークし、スーパールーキーと騒がれて名門・駒大に入学したが、1年目の2011年度は村山と明暗を分けた。

 村山は日本インカレ5000mで1年生Vを飾ると、三大駅伝にフル参戦。箱根は花の2区に抜擢された。一方の中村は故障に苦しみ、三大駅伝の出場は全日本の6区(3位)だけだった。

 中村は2年時も故障に悩まされたが、箱根駅伝は3区を区間3位と好走。その後は駒大の"エース"として大活躍する。

 3年時(2013年度)は関東インカレの2部10000mで優勝。日本選手権10000mでは5位入賞を果たすと、ユニバーシアードのハーフマラソンで銅メダルを獲得した。学生駅伝は出雲と全日本の1区で区間賞。箱根も1区を任されると、早大・大迫傑、東洋大・田口雅也らとハイレベルの激戦を演じた。

「1週間前に左の腓腹筋あたりに炎症を起こしたので、少し休みました。でも本番の3、4日前には痛みがとれたので、大迫さんとふたりで抜け出せたらなと思っていたんです。優勝を狙うには東洋大と日体大を引き離す必要があったんですけど、両校ともついてきたのはプレッシャーでした。その焦りもあって、早く仕掛けすぎたのかなと思います。

 15kmあたりで脚が残っていませんでした。エースと呼ばれるには、どんな状態でもしっかり走らないといけません。まだまだ自己管理能力、力が足りないなと思いました」

 中村はハイペースに持ち込み、20km手前で仕掛けるが、日体大・山中秀仁は離れない。逆に山中がペースアップするとついていけなかった。

 山中が当時歴代3位の1時間01分25秒で区間賞。中村は11秒差の2位で藤色のタスキをつなげた。駒大は2区の村山でトップに立つも、設楽兄弟(啓太、悠太)が最終学年を迎えた東洋大に敗れた。

【最終学年の区間賞獲得で三大駅伝1区をコンプリート】

 3月末に行なわれた世界ハーフマラソン選手権には駒大のダブルエースが日本代表として揃って出場。中村は28位(1時間01分57秒)に入っている。そして最終学年(2014年度)は中村が主将としてチームを引っ張った。

 前半シーズンは調子が上がらなかったものの、秋には調子を取り戻す。出雲は台風の影響で中止となったが、全日本は4区で区間賞を獲得。駒大の4連覇に貢献した。最後の箱根は再び1区に登場する。そして驚異の粘りを見せた。

 レースは東洋大・田口雅也を軸に進み、10kmを28分51秒で通過。

15kmを過ぎて、青学大・久保田和真がペースを上げる。中村は16.5km付近で遅れるも、六郷橋の上りで追いついた。今度は田口が仕掛けて、中村が再び引き離される。それでも完全に脱落せず、逆に残り1kmで鮮やかなスパートを放つ。最後は久保田、田口、明大・横手健を引き離して、1時間02分00秒で区間賞を獲得した。

「区間賞は最低ラインです。もう少し後続と差をつけて(たすきを)渡したかったですね。本来なら六郷橋で仕掛けたかったんですけど、不調の時期に走り込みが不足し、距離に対応できる脚ができていなかったように思います。最終的にはラスト1kmで仕掛けることになり、青学大に粘られたのは自分の力不足です。ただ、この1年間は苦しみましたが、4年生の意地は出せたかなと思います」

 苦しんだ主将の激走にチームメイトも奮起する。2区の村山が東洋大・服部勇馬に抜かれたが、3区の中谷圭佑が区間賞の走りで再逆転。4区のルーキー工藤有生もトップを駆け抜けた。

しかし、5区に「山の神」が降臨する。駒大は青学大の神野大地に逆転を許すと、2年連続の総合2位でレースを終えた。

 中村は大学時代、悲願の「駅伝三冠」を成し遂げることができなかったが、三大駅伝のすべてで1区の区間賞に輝いた。

 大学卒業後は富士通に入社。引き続き、恩師・大八木弘明監督の指導を受けて、マラソンで活躍する。ハイライトとなったのが2019年9月、東京五輪代表選考会となったMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)だ。

 39.5km付近からの"2段階スパート"で大迫傑を突き放す。箱根駅伝1区で見せたような強烈なラストのキック力で大注目のレースを完勝。中村は東京五輪の男子マラソン代表に選ばれて、駒大勢にとって初のオリンピアンとなった。

Profile
なかむら・しょうご/1992年9月16日生まれ、三重県出身。上野工業高(三重/現・伊賀白鳳高)―駒澤大―富士通。高校3年時に5000mで全国トップクラスの成績を残し、駒澤大に入学。

大学4年間では全日本大学駅伝4連覇に貢献し、3年時には出雲駅伝、全日本で1区区間賞を獲得。箱根では2年時に3区区間3位、3年時から2年連続で1区を任され、4年時には区間賞を獲得した。卒業後は富士通で競技を続け、2021年に行なわれた東京五輪マラソン代表の座を手にした。

【箱根駅伝成績】
2013年(2年)3区3位・1時間05分55秒
2014年(3年)1区2位・1時間01分36秒
2015年(4年)1区1位・1時間02分00秒

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