【箱根駅伝2026】國學院大が描く初優勝へのシナリオ 「5人...の画像はこちら >>

前編:國學院大が狙う箱根駅伝初制覇 

第102回の箱根駅伝に向けて、初制覇への機運が高まっている。前年度の國學院大は出雲駅伝、全日本大学駅伝を制し、学生3大駅伝の三冠に王手をかけながらも、シーズン締めくくりの大舞台は無念の総合3位で終えた。

もう同じ轍を踏むつもりはない。過去から多くを学び、今年度は入念に準備を進めている。前田康弘監督が選手らとともに描く総合優勝のシナリオとは--。

【絶対的なエースはいなくてもハイレベルな「駅伝力」】

 6区間45.1kmの出雲駅伝は圧巻の襷リレーで2連覇を達成したが、8区間106.8kmの全日本大学駅伝は悔いが残る4位でフィニッシュ。敗因のひとつは、選手の思いを尊重しすぎた区間配置。歯車がうまく噛み合わなかったのだ。前田監督は本来持っている力を存分に発揮できなかったという。流れが悪くても走れる選手もいれば、そうではないタイプもいた。それでも、伊勢路の敗戦は糧になっている。区間の適性を見極める機会になった。

 見えたのは数字では測りにくい"駅伝力"。正月の本番に向けて、選手層の厚み、長い距離への対応に不安を残したわけではない。むしろ、1区間20kmを超え、10区間で争う箱根駅伝では、より國學院の強みが生きる。

ハーフマラソン上位10人の平均タイムは、出場全20チーム中1位の1時間01分19秒(陸上競技マガジン調べ)。選手層の厚みは歴代最高と言ってもいいだろう。指揮官は総合優勝を争うライバルとして駒澤大、青山学院大の名前を挙げたうえではっきり言う。

「互角に戦える戦力を持っています。100%の力を出せれば、必ず対等の勝負ができる」

 青学大の黒田朝日、駒大の佐藤圭汰(ともに4年)に匹敵するほどの絶対的なエースはいないが、國學院大は『束』で勝負するという。

 前田監督が箱根のキーマンに挙げるのは5人。ハーフマラソンで60分台のタイムを持つ上原琉翔、青木瑠郁(ともに4年)、辻原輝、野中恒亨(ともに3年)に加えて、フルマラソンで日本人学生歴代9位となる2時間08分50秒の記録を持つ高山豪起(4年)だ。

「ジョーカーになる5人が区間3位以内で走ってくれれば、総合優勝を引き寄せられるはずです。ほかの大学は5枚もいないと思います」

 就任17年目を迎える47歳の策士は混戦になる展開を想定し、往路の前半に力を注ぐつもりだ。1区から3区まではセットとして捉えており、たとえ2区で青学大、駒大に区間タイムで負けても、他区間で挽回する算段を立てる。以前にも指揮官は前回大会で1区から逃げた中央大の戦略はひとつのヒントになると話していた。12月11日に渋谷キャンパスで行なわれた記者会見では、あらためてスターターの重要性を説いた。

「1区から2区に渡すポジションが最重要ポイントになるのかなと。自信のある選手、信頼の置ける選手が良い状態で本番に臨めるかどうか。出足でミスをした大学は下がっていくと思います」

【前田監督が重きを置くスターター候補】

 1区を希望するのは全日本の1区で区間3位と好走した尾熊迅斗(2年)をはじめ、11月の上尾ハーフマラソンで1時間01分30秒と奮起した嘉数純平(4年)ら複数いる。なかでも、勢いに乗っているのは青木。全日本大学駅伝の7区で区間9位と沈んだものの、上尾ハーフでは1時間00分45秒と自己ベストを更新して優勝している。前田監督には「こんなもんじゃないところを見せてくれ」とハッパをかけられ、期待に応えてみせた。本人は2区への思いを口にしつつ、スターターを担うことも頭に入れていた。カギとなる終盤のラストスパートには自信を持っている。

「これまでの3大駅伝を振り返っても、自分が1区でいい流れをつくると、チームは勝てています。どの区間でも総合優勝するために自分の役割を果たしたいと思います」

 1年時に大手町のスタートラインに立ち、コースを熟知しているのも大きなメリット。2連覇した出雲駅伝ではいずれも1区を務めており、実績は十分である。

 エース区間の2区は、主将の上原が志願している。全日本では最終8区で失速したが、ハーフマラソンの自己ベスト1時間00分30秒はチーム随一。

伊勢路で苦しんだ差し込みの対策に力を入れ、体幹を鍛え直しているという。11月はレースに出走せずに自らの課題と向き合ってきた。取り組んでいるのは、ハイペースで突っ込んだあとのスピード持久力。2区では1km2分50秒を切るペースで押していくイメージを持つ。

「(差し込みの)怖さはないです。やるしかないので。2区では1時間6分半を切らないと話にならないと思っています」

 3年連続で箱根路を走ってきた高山も2区へ思いをはせる。粘り強さには定評があり、1年時と2年時は復路を任され、3年時は5区を担当。前回は山上りで区間14位と力を発揮できなかったが、起伏に富むコースに苦手意識はない。難所の権太坂、終盤の『戸塚の壁』がポイントとなる2区のコース適性は備えている。仮に2区で耐える戦略を立てれば、可能性もある。単独走の強みを生かすのであれば、復路での起用もあるか。

 3区は今季チーム内で最も勢いに乗る野中が有力候補。出雲、全日本ではともに3区で留学生と対等にわたり合い、それぞれ区間2位、区間賞を獲得するなど、チームの原動力に。11月22日の八王子ロングディスタンス10000mでは日本人学生歴代6位となる27分36秒64をマークし、箱根に向けて順調に調子を上げてきている。

 特定区間への思い入れが、誰よりも強いのは辻原。神奈川県二宮町で生まれ育ち、平塚から小田原までの20.9kmは完璧に頭のなかに入っている。中学生の頃から4区で区間賞を取ることを夢見てきた。塾の終わりに憧れの箱根路を走って、帰宅したこともある。年齢を重ねるたびに4区への思いを募らせ、その願望はいまも変わらない。

 1年時は4区で区間4位、2年時は同じコースの7区で区間2位。細かいアップダウンの続くコースは自らの脚質に合っているという。

「4区で区間賞という目標はずっと変わらないですし、ブレない。僕はメンタルによって走りが大きく変わる選手でもあるので、4区ならより『いくぞ』という気持ちになれます」

 希望と適性が合致している好例だろう。

全日本の2区で区間9位と苦い経験を積み、精神的にもたくましくなっている。

「駅伝の借りは駅伝で返すしかない。僕のなかでは全日本の走りがキーポイントになっています。相当、迷惑をかけてしまい、気持ちが切り替わりました」

【未知数の山区間と充実の復路候補】

 往路の平地区間は自信にあふれるジョーカーたちで埋まり、不安要素は見当たらない。ただ、山区間だけは未知数。國學院は2大会連続して5区で順位を落としており、懸案事項のひとつになっている。前田監督も課題に上げ、早くから取り組んできた。クライマー候補に上がるのは下級生。夏前から人選を絞り、次回以降も見据えながら能力を見極めてきた。

「やはり、適性はあります。あとはメンタリティも大事。今回はそういうランナーに出会えたので、期待しています。

何も問題なければ、そのまま投入します」

 爆発的な走りではなく、現実的にはいかにしのぐかがカギ。高知工高出身のルーキーは候補のひとりか。昨年、全国高校駅伝の1区でキャプを後ろ向きで被っていたあの男である。髙石樹。指揮官は入学前からその素質に期待を寄せており、本人も将来は2区を希望する未完の大器。出雲、全日本には出走していなかったが、「強い選手に挑んでいきたい」と負けん気は人一倍強い。上尾ハーフで1時間01分29秒と好走した1年生の野田顕臣は、隠れた同期の走りに舌を巻く。

「レースに出ていないだけで、練習では僕よりも走れていますし、めちゃくちゃ強いですよ。僕はドラフト2位なんで」

"ドラ1"の秘密兵器は山に投入されるのか。興味を引くところだろう。

 復路には箱根経験を持つ3年生に加えて、伸び盛りの下級生たちが多く残っている。充実した中間層こそが、ライバルをしのぐ國學院の強みだ。前田監督は「7区までで先頭に立てば、そのまま流れていく」と自信をのぞかせる。

 1年時に6区を経験した後村光星(3年)は山下りのスペシャリスト。1年を通して故障で苦しみながらもエントリー入りしており、スタートラインに立てば、大きな戦力になるはず。さらに伊勢路の5区で区間2位の飯國新太、6区で区間4位の浅野結太という3大駅伝デビュー戦で結果を残した2年生コンビ、前回10区で区間3位と奮闘した吉田蔵之介(3年)、先輩たちから「ウルトラマラソンを走れるくらのスタミナがある」と恐れられる野田と陣容は整っている。

 エースの集まる2区とタイム差が開きやすい5区は注目されるが、國學院の勝負どころは、別区間にあることを匂わせる。

「どこで、自分たちのストロングの区間を持てるのか。そこが順位を大きく左右するのかなと」

つづく 

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