【箱根駅伝2026】國學院大のカギを握るゲームチェンジャー・...の画像はこちら >>

後編:國學院大が狙う箱根駅伝初制覇 

ライバルが擁する突き抜けたエース格とまでいかなくても、國學院大にも初の箱根駅伝総合優勝へのカギを握るゲームチェンジャーがいる。3年生の野中恒亨だ。

前年度はふたつの駅伝で区間賞を獲得し、今季もここまでのふたつの駅伝では留学生が集う区間で真っ向勝負を挑み、結果を残し、11月末にはトラック10000mで快走を見せた。

前田康弘監督も全幅の信頼を置くエースは、どのような走りを見せてくれるのか。

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【出雲&全日本では留学生を凌駕】

 國學院大のカギを握る唯一無二のゲームチェンジャーは、言わずもがな。今季、最も勢いに乗る野中恒亨(3年)には、前田康弘監督も全幅の信頼を寄せる。

「野中のところで先頭に立つイメージはあります。それが1区なのかもしれないし、2区はなかなか難しいですが、互角には戦えます。3区であれば抜け出せますし、4区なら山上りの前で1位まで行く想定もできます。102回大会のポイントになる選手です」

 ポテンシャルは底知れない。11月22日の八王子ロングディスタンスの10000mでは日本人学生歴代6位となる27分36秒64をマークし、國學院記録も更新。目を引いたのはタイム以上に勝ちきる強さだ。OBの平林清澄(現ロジスティード)とのデッドヒートを制し、組1着でフィニッシュ。実業団選手たちにも臆さない強気なレース運びは圧巻だった。

 3年生エースの強みは、トラックの速さだけではない。

むしろ、駅伝では持ちタイム以上の強さを見せている。今年度の活躍には目を見張るものがある。出雲駅伝の3区では海外勢と互角以上にわたり合って、堂々の区間2位。5番手から3人を抜いて2番手まで浮上させ、2連覇の立役者となった。後ろから追いかけてくる東京国際大のリチャード・エティーリ(3年)に捕まらず、パリ五輪に出場していたハーバード大のグラハム・ブランクスには競り勝った。区間賞こそ9秒差で城西大のヴィクター・キムタイ(4年)に譲ったものの、27分06秒88の日本学生記録を持つケニア人留学生、26分57秒30の自己記録を持つアメリカ五輪代表にも負けない走りは大きなインパクトを与えた。

 全日本大学駅伝では海外勢へのリベンジを誓い、志願した3区で有言実行の区間賞。ケニア勢のキムタイ、創価大のスティーブン・ムチーニ(3年)らを抑え、あらためてその実力を証明してみせた。特筆すべきは、後ろの位置で襷をもらっても流れを引き戻す『駅伝力』。7位から2位まで順位を上げ、トップの駒澤大と1秒差まで迫った。本人は「先頭まで持ってくるのが僕の役割だった」と物足りなさを口にしたが、ピーキングを11月に合わせていなかったのも事実。すべては1月の箱根駅伝から逆算し、調整していた。

まだまだ伸びしろはあるという。期待が高まるなか、本人は胸を躍らせる。

「安全運転で走るラクなレースをしたいですが、それでは面白くない。襷を先頭に渡しにいくところにフォーカスしていきます。駅伝での役割はそこになってくるので」

【同級生・辻原との "必勝リレー"は箱根でも?】

 威勢のいい言葉は、勢い任せで発しているわけではない。中長期的な視点で綿密にキャリアプランを立ててきた。大学1年目は下積み期間。3大駅伝には出走できなくても焦りはなかった。頭角を現したのは2年目から。前年度は出雲駅伝、全日本大学で連続区間賞を獲得し、箱根駅伝では1区で区間6位。そして、迎えた3年目で本格的にブレイクする。

 高校生の頃から1年ごとに目標値を定め、クリアしてきた。

5000mの目標タイムを設定し、1年生の時は14分台、2年生になると14分20秒、3年生では13分台が見えるところ。大学でも同じ。1年目は箱根メンバーに絡む、2年目で箱根出走。一歩ずつ前に進んでいる男は、はっきり言う。

「3年目は箱根で区間賞を取りにいきます」

 力強い言葉は練習に裏づけされた自信である。1年かけて課題のスタミナを強化。意識的に走行距離を伸ばし、夏の期間は前年より月間100km以上も増やした。量だけではない。4月から重点的にインナーマッスルを鍛えることで、継続して強度の高い練習も重ねられるようになっている。2年時に比べると、"余裕度"が違うという。それでも、過信はしていない。箱根路のコースを頭に入れたうえで、自らの適性区間を口にする。

「持ち味が生きるのは1区、3区、7区」

 難所の起伏がポイントになる2区での起用については苦笑いを浮かべていた。

「可能性はゼロではないですが、上り坂に弱くて......」

 往路で得意のスピードが、より生きるのは下り基調の3区。前半から積極的に仕掛け、前の選手を次から次に捕まえていく展開は想像できる。今シーズンの駅伝でも見てきた光景である。チームの戦略が、うまくはまったのは出雲路。3区の野中から辻原の襷リレーで優勝を手繰り寄せている。箱根駅伝に向けた記者会見で、出雲同様の4区を志願する同期が「箱根の区間賞をまだ取ったことがないので取りたい」と意気込むと、いたずらっぽい笑みを浮かべ、宣言していた。

「辻原よりも先に箱根の区間賞を取りたいと思います」

 3区の野中が流れを引き寄せ、4区の辻原で逃げる――。箱根路でも"必勝リレー"が再現されれば、グッと初の総合優勝に近づくはずだ。勝負のポイントを見極める前田監督は、ふたりのやり取りを静かに見守っていた。

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