【箱根駅伝2026】渡辺康幸が分析する覇権争いの行方 中央大...の画像はこちら >>

中編(全3回):渡辺康幸が占う第102回箱根駅伝

2026年1月2日・3日に行なわれる第102回箱根駅伝。

「5強」と言われる優勝候補に名を連ねる中央大、早稲田大はどのようなレース展開なら力を発揮できるのか。

初の総合優勝を目指す國學院大、全日本大学駅伝で他を圧倒した駒澤大、直近12大会で9度目の総合優勝を狙う青山学院大との違いは?

ここでは学生駅伝のテレビ中継、また箱根駅伝では第一中継車の解説でおなじみの渡辺康幸氏(住友電工陸上競技部監督)に大会展望をうかがった。

前編を読む>>>渡辺康幸が分析する 「5強」の勢力図 初優勝を狙う國學院大、優勝候補・駒澤大、対抗・青山学院大の強さは?

【今季の中大はトラックの強さを駅伝にも反映可能な予感】

――史上初めてエントリー16人中上位10人の10000m平均タイムが27分台となった中央大についてはいかがでしょうか。

渡辺 僕は青山学院大、駒澤大を倒すのは中大しかないと思っています。青学大の原晋監督も、8区の時点で中大が先頭だったらそのまま逃げると言っています。出雲はよくなかったですが、全日本の内容は非常によくて、1年を通して本当に箱根に合わせている印象を受けました。

――中大はトラック中心で強さをつけてきたチームですが、その持ち味がそのまま生かされるわけではないのも、駅伝です。

渡辺 ただ、10000mでこれだけのスピードで走れていれば、厚底シューズもあるので20キロも走れるという見方もできるので、勢いに乗ったら手がつけられないことになるのかなというふうに思います。もちろん見ている人からすれば、ここ数回はやっぱり安定感がなかったので、乗るか反るかみたいに感じるとは思いますが、藤原正和監督もここまで紆余曲折を経て指導してきて、今回の箱根にかける思いは強いですし、そのようなチームづくりをしてきたと思います。

 今年はそれだけ夏場から箱根への準備を進めてきたと聞いています。出雲がよくなかったのは、夏場に距離を踏んでいた影響もあったと思います。私自身も早稲田大の監督時代に経験があるのですが、夏にしっかりやった時は出雲では調子がまだ上がってない。ただ、全日本ではしっかり力を出していましたので、昨シーズンとは違うと思います。

――昨シーズンは全日本までよくなかったですが、前回大会は1区の吉居駿恭選手(4年)が大逃げで勢いをつけて、往路は5区の途中まで先頭を走り続けました(往路2位、総合5位)。

吉居選手が仮にまた1区にくるとしたら、再現はありますかね?

渡辺 これは他校の選手が誰になるのかによると思います。仮に駒大の佐藤圭汰選手(4年)が1区にきたり、他校にも力のある選手がくる可能性はあるので、ひとりで逃げることはできない。それに区間配置が出た時点(12月29日発表)で、みんなが身構える。ただ、数人に絞られたトップグループが形成されて速いペースになった時、その競り合いから吉居選手が抜け出すことは考えられます。

――吉居選手以外で中大のカギを握る点は?

渡辺 平地で力のある選手は多くいるので、やっぱり山の上りと下りが誰になるかでしょう。ただ、誰になるかは、平地での走力の高い選手が多いこともあり、本当に読みづらいです。

 前回2区を走った(区間9位)溜池一太選手(4年)が5区という噂も耳にしましたが、いずれにしても、5区、6区は初めて走る選手となると、ここまでどのように準備を進めているのか。藤原監督が山の2区間を10区全体のなかでどう捉えているのかによる部分は大きいと思います。

 私自身、早大の監督時代には本当に東洋大の柏原竜二さん(2009年から4年連続5区区間賞)がいたことで、本当に苦労させられたので、その重要性はよく理解しています。何回も柏原さんにやられましたから。

【早大は是が非でも往路優勝を目指したい】

――渡辺さんの母校であり、指導者として3冠を達成した早稲田大についてはいかがでしょうか? 

渡辺 イチOBの立場で言わせてもらえば、総合優勝を目指すなら、往路優勝を獲ることに重きを置いて積極的に攻めて欲しいと思います。こういうチャンスは、滅多にないからです。

エースの山口智規選手(4年)がいますし、「山の名探偵」工藤慎作選手(3年)もさらに力をつけています。1年生には鈴木琉胤選手、佐々木哲選手もいて、出遅れていた山口竣平選手(2年)も戻ってきました。往路優勝を狙えるだけの戦力はそろっています。

――出雲(2位)、全日本(5位)の走りから何か感じた部分はありますか?

渡辺 全日本は山口竣平選手を起用できなかったり、層の薄い部分が出た結果だったと思います。そうは言っても、きちんと選手が戻ってくれば、流れるオーダーは組めると思います。

――今年の全日本で渡辺さんが保持していた8区日本人最高記録を30年ぶりに更新した(56分54秒)工藤選手は、箱根5区でカギを握ります。過去2回は区間6、2位ですが、期待は?

渡辺 たすきをもらう位置によると思いますが、1時間8分台はまず間違いなく出ると思うので、あとは8分台前半なのか、後半になるのか(※区間記録は前回の青学大・若林宏樹の1時間09分11秒)。7分台までいく可能性もあると思っています。平地の走力はかなりついてきているので、適性も含めて十分に1時間8分30秒ぐらいはいけると見ています。できれば1分ぐらい更新してほしいなというのがあります。

――工藤選手にとって、好走する展開は?

渡辺 先頭に1分差の3番、4番ぐらいでたすきを受けるのが一番盛り上がるのではないでしょうか(笑)。そうすると宮ノ下ぐらい(9km付近)で15~20秒差ぐらいまでいって、その先、小涌園(12km付近)でもう捕まえると思うので。

――2区は山口智規選手で決まりですか?

渡辺 そうでしょうね。山口竣平選手が3区に入って、鈴木選手を4区に置くのが王道ではないでしょうか。間瀬田純平選手(4年)の力を生かすなら、前回区間4位の1区、ハイペースを予想するなら鈴木選手を1区に持ってくる選択肢もあると思います。早稲田は復路までエース級を残すことは選手層の面からもなかなか難しいので、往路から攻めの走りを見せていい流れを作りたいところです。

後編を読む>>>渡辺康幸が分析する「5強」崩しとシード権争い 強さを備えた帝京大に注目 創価大、城西大、東洋大は?

⚫︎プロフィール
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高-早稲田大-エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、福岡ユニバーシアードでは10000mで優勝を果たし、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪10000m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、大迫傑が入学した10年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説でもおなじみで、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。

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