【箱根駅伝2026】早稲田大が15年ぶりの総合優勝へ本気モー...の画像はこちら >>

前編:早稲田大 15年ぶりの総合優勝への挑戦

第102回箱根駅伝の優勝候補「5強」の一角に挙げられる早稲田大。今シーズンはダブルエースを中心に「個」の活躍が際立つなかで、駅伝シーズンに向かってチーム力を醸成してきた。

指揮官に就任してから4年目の花田勝彦駅伝監督にとっては、実質初の総合優勝への挑戦。箱根では15年ぶりの総合優勝へ、戦闘体制は整った。

【イメージどおりのチームづくりの進捗に手応え】

 今回の箱根駅伝に出場する全21チームのうち、10000m上位10人の平均タイムが最下位だったのが、なんと優勝候補にも挙がる早稲田大学だ。

 その記録29分10秒66は、全体トップの中央大学(27分55秒98)とは1分以上の差があった。「10000mはあまりやっていなかったので、チームとしては全然気にしていません」と花田勝彦駅伝監督は言うものの、チームエントリー(12月10日)時点でのこのランキングに驚いた人は多かったのではないだろうか。なぜなら、今季の早大は、トラックシーズンを席巻し注目度が高かったからだ。駅伝シーズンに入ってからも、足並みがなかなかそろわなかったにもかかわらず、出雲駅伝、全日本大学駅伝と一度は先頭に立つ場面があり、それぞれ2位、5位と上位に食い込んでいた。

「平均タイム最下位から優勝したらカッコいいですよね」

 主務の白石幸誠がこんなことを漏らしていたが、箱根駅伝総合優勝というチーム目標はもちろん引き下げることはしない。

「私が2022年に駅伝監督に就任して4年目ということで、4学年すべて、私の指導を受けた世代となり、今回は(総合優勝を狙う)1回目のチャンスかなと思っております」

 12月10日の記者発表の席で、花田監督はきっぱりと断言。そして、こう言葉を続けた。

「今年の箱根駅伝が終わった時に、今度の箱根駅伝で優勝を目指すということでチームづくりをしてきました。春のトラックシーズンは非常に個の力が発揮できた。チームづくりを始めた時から"圧倒的な個"を育てるということで取り組んできて、キャプテンの山口智規(4年)、"山の名探偵"の工藤(慎作、3年)とダブルエースがしっかり力を見せてくれた。

そして、それに続く新入生の鈴木琉胤だったり佐々木哲だったり、2年生、3年生にも非常に名前のある選手が出てきて、本当に個の強さが際立ってきた。目指すチームに近づいてきたかなというふうに思っております」

【間違いなく前回よりは強い】

 指揮官の言葉にあるとおり、今季の早大は"個"の活躍が際立っていた。駅伝主将の山口智規は、日本インカレでは日本人で初めて1500mと5000mの2種目で学生日本一に輝いた。さらに、日本選手権には1500mで出場し2位と健闘した。そして出雲駅伝では2区で9人抜きの活躍。臙脂の襷を先頭まで押し上げ、大学駅伝で初めて区間賞を獲得している。

 山口智規と両輪をなす工藤は、ロードで存在感を示した。2月の日本学生ハーフマラソン選手権(香川丸亀ハーフと併催)では、従来の日本人学生最高記録を上回る1時間00分06秒で優勝を飾り、7月のワールドユニバーシティゲームズでは学生世界一の称号を手にしている。そして、全日本大学駅伝では、最終8区でOBの渡辺康幸氏が持っていた同区の日本人最高記録を30年ぶりに塗り替えて区間賞に輝いた。"山の名探偵"のニックネームがすっかり定着しているが、平地でも他を圧倒してきた。

 そして、注目のルーキー、鈴木と佐々木は入学してすぐにトラックで活躍を見せた。

 5000m高校歴代2位の13分25秒59を持つ鈴木は、5000mを中心にレースに出場し、学生個人選手権2位、関東インカレ2位と実績を重ねた。そして、日本選手権では予選で青学大のエース、黒田朝日(4年)にも先着し、決勝進出を果たした(決勝は10位)。

すっかり主力の風格があり、駅伝では1年生にして重要な局面を担い、きっちりと結果を残している。

 佐々木は3000m障害でシニア勢とも堂々と渡り合い、アジア選手権で日の丸をつけて4位。日本選手権も3位と健闘した。今やこの種目の日本のトップ選手のひとりだ。出雲駅伝でさっそく大学駅伝デビューを果たした。

 さらに、1年時に箱根駅伝で3区3位と活躍した山口竣平(2年)が、一段成長した姿を見せてきた。4月の織田記念陸上では5000m13分32秒53の自己ベストをマーク。5月の関東インカレは8位に入った。日本選手権にも初出場を果たしている。駅伝シーズン開幕を前にケガをし、出雲、全日本と欠場したが、箱根には間に合う見込みで、花田監督もキーマンのひとりに挙げている。

 圧倒的な個を軸にしたチームづくりが形になってきたからこそ、今季の早大は"5強"に数えられる。

 このほかにも、前回6区で区間5位と好走した山﨑一吹(3年)がおり、特殊区間の目処が立っているのは大きい。

また、3年連続1区を担ってきた間瀬田純平(4年)も、秋以降ぐんぐん調子を上げてきている。

「山の上り、下りを終えて、どこまで貯金が作れるかが、私たちが優勝を目指すうえでは大事になる」と花田監督が言うように、早大が総合優勝を成し遂げるには、往路優勝は絶対条件と言っていい。さらに、6区を終えた時点でいかにアドバンテージを作れているかが重要で、そのプランを遂行する布陣は整いつつある。

 となれば、総合優勝への鍵は7区以降となる。

「前回は18人、19人目ぐらいまでわりと競っていましたけど、今回は前回よりもわりとすんなり16人が決まりました。ただ、今回のほうが上の選手が非常に力がある。10人を組むとなった時には、間違いなく前回よりは強い」

 花田監督はこのように手応えを口にしている。

 今季、出雲、全日本と両駅伝を走った吉倉ナヤブ直希(2年)、堀野正太(1年)は、おそらく箱根でも出番がありそうだ。

【カギを握る「一般組」で際立つ小平の成長】

 さらに、早大にとって欠かせないのが、いわゆる"一般組"、つまり、附属校・系属校出身や指定校推薦や一般入試で入った選手だ(早稲田実業高出身の吉倉も、大別すればその区分になる)。

 この一般組で、今季の成長株が小平敦之だろう。早稲田実業高出身で、政治経済学部に通う3年生だ。 

 今夏は、コロナに罹患したり、企業へのインターンがあったりしたため、北海道・紋別での選抜合宿には参加できなかったが、暑い所沢でしっかりと走り込んだ。

「夏合宿の目的って、自分自身を追い込んで、できるだけベースフィットネスを上げることだと思うんですけど、暑さもあるなか、自分自身はわりと距離は踏めるほうなので、そこでスピードをいかに高められるかを意識しながら練習していました」

 自主性を持って取り組んだ成果は、9月28日のThe Road of WASEDAで現れる。5kmを13分58秒と好走。そこから好調を維持し、全日本では出番を勝ち取り5区区間7位で走った。

「一つひとつが自分自身のターニングポイントだと思って取り組んでいます。主力のケガもあって自分にチャンスが巡ってくるかもしれない。そうなった時に、ここで頑張れないとたぶん自分は箱根を走れないだろうなと思って取り組みました。そういうマインドが今の自分につながっていると思います」

 小平は"自主性"の鑑のような選手だ。私生活では1年の冬頃から弁当を手づくりし、授業に持参している。最初は節約が目的だったというが、貧血だったこともあってバランスの取れた食事を心がけている。その分、オフの日には外食を楽しんでいるという。

 11月の上尾シティハーフマラソンでは、一定のペースを刻むペース走として臨みながら、余裕を持って1時間02分28秒の自己ベストをマークしており、ますます調子を上げてきている。

 早大が箱根で優勝する時には、必ずと言っていいほど、一般組の堅実な走りがある。

15年前に総合優勝した際には、小平の高校時代の恩師である北爪貴志先生が8区区間3位と好走し、首位をがっちりとキープした。

「先生が優勝した時には、やっぱり一般組って言われる選手たちの気概がチームに及ぼす影響が大きかったとおっしゃっていました。自分自身も、"一般組ならでは"と言うのも変ですけど、取り組む姿勢や地道に積み重ねるところをチームに示していければと思っています。

"一般組"と"推薦組"とに分けて、限界を決めるのはよくないと思うんですけど、一般組で入ってきた選手たちが上級生になった時に、しっかり結果を出して下級生に示すことは、チームとしての上昇志向にもつながると思っています」

 一般組の矜持を持って、箱根でも結果を示す覚悟はできている。

 4年生の伊藤幸太郎、宮岡凜太も一般組で、4年間かけて着実に力をつけてきた。ハーフマラソンではそれぞれ1時間02分14秒、1時間01分59秒の好タイムを持っており、長い距離ほど力を発揮する選手たちだ。最初で最後の箱根駅伝に備えている。

"圧倒的な個"の影に隠れがちだが、今季の早大は彼らのような選手もちゃんと育っている。以前、花田監督は「勝つ時は、早稲田らしい勝ち方をする」と話していたことがあった。今回総合優勝を成し遂げるとすれば、それこそが"早稲田らしい"勝ち方になるのではないだろうか。

つづく

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