【箱根駅伝2026】早稲田大の2年生エース・山口竣平は優勝へ...の画像はこちら >>

後編:早稲田大 15年ぶりの総合優勝への挑戦

前回はルーキーながら箱根3区区間3位の好走。次代の早大エースの呼び声高い山口竣平は今季もトラックシーズンから着実に力をつけてきた。

だが、9月に左大腿骨の疲労骨折が判明。出雲駅伝、全日本大学駅伝は欠場を余儀なくされたが、自分自身とじっくり向き合いながら、復帰への準備を進めてきた。

花田勝彦監督が挙げた箱根優勝へのキーマンは、果たしてどのような状態で1月2・3日を迎えるのか。

前編〉〉〉早大が15年ぶりの頂へ 主将エースと "山の名探偵"を中心に「個」が成長

【ダブルエースに並ぶキーマンとしての存在】

「2区はエース山口智規が順調にいけば走ると思いますし、5区もうちには名探偵がいます。キーマンは、やはり山口竣平ですね。出雲と全日本と出ませんでしたけども、復帰してきましたので、走りますよ。彼がガーンと来たら、私もどれぐらい走るか、わかりません。

 私がわからないんだったら、皆さんもわからないと思いますが(笑)。彼の快走次第では、本当に全部(往路復路ともに)臙脂色に染まるかもしれません」

 12月10日に行なわれた毎年恒例の箱根駅伝トークバトルでのことだ。意外にも初参戦だった早稲田大学の花田勝彦駅伝監督は、キーマンを問われて、大黒柱の山口智規(4年)でも、"山の名探偵"こと工藤慎作(3年)でもなく、2年生の山口竣平の名前を挙げた。

 観客がいるトークイベントでの発言であり、リップサービスもあるだろう。また、優勝候補に挙がる各校の指揮官が言葉で牽制し合う場ゆえに、言葉どおりに素直に鵜呑みするわけにもいかない。それでも、確かに、早大の箱根駅伝総合優勝を大きく左右するひとりが、山口竣平であることに疑いの余地はない。

 山口竣平は前回の箱根駅伝でルーキーながら3区を担い区間3位と好走。6人抜きの活躍で、一気に5位まで押し上げチームを勢いづけた。

 そして、2年生になった今季は春先から好調だった。4月の織田記念陸上では5000mで13分32秒53の自己ベストをマーク。5月の関東インカレも8位入賞。日本選手権にも出場した。

 トラックで一皮剥けた活躍を見せた一方で、駅伝にかける思いも強く、春先にはこんな言葉を口にしていた。

「今季は箱根一本だけ狙っていきたい。チームの勝利を知っているのは僕と哲しかいないので、チームを勝たせたい。智規さんたちを笑顔で卒業させたいです」

 佐久長聖高時代に、後輩の佐々木哲(1年)と共に全国高校駅伝で日本一に輝いている山口竣平は、大学でも駅伝で勝ちたいという思いを強く持っていた。まだ2年生ながら、時には厳しい言葉を上級生に向けることもあったという。

 さらには、「今年度は(箱根駅伝のエース区間)2区を走ると決めている」と意気込み、練習にも身が入った。

早大に取材に行くと、いつも積極的に先頭を走る山口竣平の姿が印象的だった。夏は順調そのもの。実りの秋を迎えることを、山口竣平自身も、周囲も、楽しみにしていたはずだ。

【ふたつの駅伝欠場も自分自身を見つめ直す時間に】

 ところが、9月中旬の菅平合宿の終盤に左脚に痛みが走ったという。

 その後も痛みをだましだまし、何とか練習を続けたが、出雲駅伝の4日前にMRIを撮ると、左大腿骨を疲労骨折していることが判明した。

「チームに対して熱が入りすぎたところがあった。みんなに頼るべきところを頼れなかったのは自分の反省点ですし、自分の弱さでもあります」

 駅伝シーズンの開幕が迫るなか、チームを勝利に導くどころか、まさかの戦線離脱を余儀なくされた。

 少数精鋭のチームながらスピード自慢が揃う早大は、出雲駅伝で優勝候補の一角に挙がっていた。だが、山口竣平を欠いたチームはあと一歩が届かず、2位に終わった。

「堀野(正太)も(佐々木)哲も頑張ってくれました。補欠に回った宮岡(凜太)さんや間瀬田(純平)さんが走っても、僕が走っていたとしても、たぶん結果は変わらなかったと思います」

 山口竣平はこう言うが、前半戦の活躍から万全な状態の彼が走っていれば、違った結果になっていたことは十分に考えられた。

 とはいえ、走れなかったことを誰よりも悔やんでいたのは、山口竣平自身だ。

「出雲は、自分のチームなのに応援できなかった。

三大駅伝フル出場がかかっていたので、出られないことへの悔しさが結構ありましたから。みんなは(合宿所の)食堂で見ていたんですけど、僕は部屋で、ひとりで見ていました」

 疲労骨折をすること自体、競技人生で初めて。今シーズンは順調だっただけに、なおさら悔しさを募らせたのだろう。

 一方で、その悔しさとは別の感情もあった。

「3週間ずっと痛いまま走っていたので、原因がわからなかったら、もっと不安になっていたと思います。逆に、折れているのがわかって安心しました。それに、箱根にギリギリ間に合うかもしれないタイミングだったのは、不幸中の幸いだったと思っています」

 2週間ぐらいはまったく走らずに過ごし、酸素カプセルや治療器具を活用して回復に努めた。そこから少しずつトレーニングを再開し、今は箱根駅伝の出番に備えている。

 全日本大学駅伝も欠場したが、今度はチームに同行し主将の山口智規のサポートに徹した。

「サポートに回ることってめったになかったので、いい経験をさせていただいたなと思っています。主将の智規さんは、誰よりも背負っているものが大きい。来年、再来年は僕がエースにならないといけないと思うので、その姿勢を見習うべきだなと思いました」

 走ることができなかった期間にも、さまざまな気づきがあった。

 もうひとつ、奮い立つきっかけとなったのが、佐久長聖高時代の恩師、高見澤勝先生の著書を読んだことだった。

「1日で一気に読みました。"なんで僕は陸上をやっているのかな?"って考えた時に、それはもちろん自分のためでもあるんですけど、陸上の道を切り開いてくれた祖母だったり、両親、中学、高校の恩師のためにも自分は走らなければいけないと気付かされました。ケガをしている間も、トレーナーさんとか、いろんな人に支えてもらいましたから」

 このように、自分自身を見つめ直し、決意を新たにした。

【チームのみんなも"竣平ならやってくれる"】

 しかしながら、山口竣平の現状に関しては情報が錯綜している。

 12月13日に行なわれた早大の合同取材日では、こんなやりとりがあった。

 それは、エントリーメンバーが意気込みを表明する場でのことだ。

「今の状態としては4割、5割ぐらいなので走れるかわかりません。走れたら頑張ります」

 山口竣平は、少し不安げな面持ちでこのように話した。

 この一言を受けてなのだろう。主将の山口智規が締めの挨拶で言い放ったのは、真逆のことだった。

「みんな状態がよく、僕も工藤も状態いいですし、山口竣平が一番状態がいいので、そこは期待してほしいなと思います」

 はたしてどちらの発言が真実なのか――。

疑問は残ったものの、駅伝主将の愛ある"いじり"に、会場には笑いが起き、緊張感ある空気が少し和らいだ。

「ポイント練習(負荷の高い練習)を再開したのも最近ですし、自分でも間に合うかどうか正直わからない状態です。10番手を争えるかどうかのレベルだと思います」

 その後に山口竣平を直撃すると、こう補足してくれた。初めて疲労骨折を経験し不安に陥るのは、仕方のないことだ。まして、今シーズンの前半戦は絶好調だったのだから、自身の主観で「4割、5割ぐらい」と感じるのも正直な気持ちなのだろう。

「僕は心配しかないですね。(満足に練習をできなかった期間が)やっぱり1カ月、2カ月空いちゃったんで」と吐露していた。

 それでもなお、彼に寄せられる期待は大きい。キャプテンの発言を裏づけたのが花田監督だ。

「優勝を目指すとか、往路優勝するって思いきって言えるようになってきたのは、竣平がよくなってきたことが大きいです。チームのみんなも"竣平ならやってくれる"って感じていると思います」

 山口竣平が本調子で箱根を迎えることができれば、一気に戦力に厚みが増す。チームが目標を成し遂げるためのラストピースとなるのが彼だ。

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