蘇る名馬の真髄
連載第28回:サイレンススズカ

かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。

ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第28回は、圧倒的なスピードで中距離路線を席巻しながら、悲運の死を遂げた快速馬サイレンススズカを取り上げる。

『ウマ娘』でも"大逃げ"を得意とするサイレンススズカが魅せた...の画像はこちら >>
 ただ見たいだけ......。誰もいない先頭の景色を――。『ウマ娘』サイレンススズカの公式プロフィールを見ると、そんな言葉が目に入る。

 スタート直後から先頭に立ち、そのまま独走する"大逃げ"を得意とする天才肌。これがこのウマ娘のレーススタイルだ。もちろんモデルとなったのは、序盤から飛ばしに飛ばして連勝街道を歩んだ競走馬・サイレンススズカである。

 この馬が獲得したGⅠは、1998年の宝塚記念(阪神・芝2200m)だ。しかしその強さを最も発揮したレースと言えば、同年のGⅡ毎日王冠(東京・芝1800m)だろう。

 早くから素質馬と騒がれたサイレンススズカは、4歳(現3歳。

※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)の2月にデビュー。7馬身差の圧勝を決め、噂に違わぬ才能を見せつけた。

 だがその後は、能力の一端を見せつつも、重賞やGⅠでは厳しいレースが続いた。

 流れが変わったのは、武豊騎手とのコンビ結成だ。4歳の12月に海外のレースで初めてタッグを組んで、古馬になった翌年から連勝街道を歩んでいく。

 オープン特別のバレンタインS(東京・芝1800m)を快勝すると、GⅡ中山記念(中山・芝1800m)で重賞初制覇。続けて、GⅢ小倉大賞典(中京・芝1800m)、GⅡ金鯱賞(中京・芝2000m)と白星を重ねていったのだ。

 とりわけ目を引いたのは、圧巻のレーススタイルだ。武豊騎手を背にしてスタートを切ると、序盤からハイラップを刻んで後続を離していく。通常ならオーバーペースだが、むしろこの馬にとっては、それこそが心地よいのだろう。レース終盤になってもペースは落ちず、他馬との差を一段と広げていって、金鯱賞では大差勝ちを決めるなど、手がつけられないほどの強さを見せた。

 完全に自らのスタイルを確立したサイレンススズカは、続く宝塚記念でGⅠタイトルを獲得。別馬の先約があった武豊騎手に代わって、鞍上は南井克巳騎手が務めたが、最初から最後まで先頭を譲らずゴールを駆け抜けていった。

 歓喜に沸いたGⅠ勝利だったが、この時以上に盛り上がったのが、次に挑んだ毎日王冠である。グラスワンダー、エルコンドルパサーという、無敗の外国産馬2頭と対決することになったからだ。

 そしてこの戦いを見たファンは、サイレンススズカの尋常ではない強さを目の当たりにすることとなる。

 いつもどおりスタートから先頭に立った栗毛のサイレンススズカは、1000mを57秒7で通過。この馬らしいラップを刻んでいく。しかし他馬も離れずに追走し、エルコンドルパサーとグラスワンダーは3~5番手あたりで運んでいった。

 先に動いたのはグラスワンダー。3コーナーを回って、大欅あたりでサイレンススズカに並びかけようと上がっていく。エルコンドルパサーはその後ろ。一体どの馬が一番強いのか。

GⅡとは思えない大歓声で直線を迎えた。

 しかし、勝負はあっけなかった。直線に入って、後方に目を向ける余裕を見せた武豊騎手。ムチを入れずとも悠々と疾走するサイレンススズカのスピードはまったく落ちない。一方、懸命にムチを揮われるグラスワンダーはズルズルと後退。代わって、エルコンドルパサーが外からサイレンススズカを追いかけるが、その差は一向に詰まらず、2番手までが精一杯だった。

 期待された3頭の叩き合いとはならず、サイレンススズカのワンサイドゲームで決着。テレビの実況アナウンサーによる「どこまで行っても逃げてやる!」といった叫び声と裏腹に、場内のファンはむしろ静まり返っているように思えた。まさしく、息を呑むような強さだったのである。

 今後、この馬が負けることはない――そう感じた人も多かったのではないだろうか。

 だが、次走のGⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)で悲劇が訪れる。この日も大逃げを打ったサイレンススズカだったが、4コーナー手前で故障発生。

唐突にその馬生を終えることになった。

 そのまま走っていたらどうなっていたのか。27年経った今でも、"物語"の続きを見たい気持ちは消えない。

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