L.A. Timesが報じたワールドシリーズ第7戦の舞台裏(前編)
2025年シーズンの米大リーグ(MLB)ワールドシリーズは歴史に残る激闘だった。勝負は第7戦までもつれ込み、延長11回でブルージェイズを制し、連覇を成し遂げたのはドジャースだった。
二刀流を復活させた大谷翔平、「中0日登板」で胴上げ投手となった山本由伸、リリーフに転向した佐々木朗希。3人の日本人スターを擁し、日本の野球ファンも熱狂した。
その全軌跡に密着したのが、地元紙Los Angeles Times(ロサンゼルス・タイムズ)だ。同紙はこの歴史的な勝負の行方を詳報し、「ドジャース王朝が幕を開けた」と論じた。
120点を超える秘蔵写真と日本未公開の13万字以上の詳述で、21世紀初の連覇達成への道のりを記した『L.A TIMES』公式独占本『DODGERS' JOURNEY(ドジャース・ジャーニー)大谷翔平・山本由伸 みんなでつかんだ世界一』(Los Angeles Times編、児島修 訳/サンマーク出版刊)。日米同時刊行された本書からその一部をお届けする。
【想像を超えた連覇への道程】
(ジャック・ハリス 2025年11月1日)
トロント──ドジャースの運命への歩みは、土曜日の夜、0時17分に完遂された。
信じられない。言葉にできない。永らく夢に見たことでありながら、試合最初の展開を考えるとまったく想像もつかない結末だった。
ワールドシリーズ第7戦で、ドジャースは野球史に残るすばらしい試合で、その黄金時代を確固たるものにした。
トロント・ブルージェイズを延長11回、5対4で破ったこの試合、チームを救うプレーが次々と飛び出して、信じがたい形でシリーズ連覇へとつながった。
まず9回表に、ミゲル・ロハスがレフトにホームランを放ち、試合を奇跡的に振り出しに戻した。
11回表には、2アウトからウィル・スミスのホームランが飛び出し、ドジャースはついにこの試合で初めてリードを奪う。その裏には、第6戦で96球を投じて勝ち投手となっていたにもかかわらず、この日も3イニング目を投げていた山本由伸が遊撃手ムーキー・ベッツへのダブルプレーでシリーズを締めくくった。
この試合は長年にわたって記憶に残るに違いない。今後も野球がプレーされ続けるなかで、こんな筋書きは二度と繰り返されることはないだろう。
「今夜の試合を勝てて、ちょっと言葉が見つからないし、びっくりしたよ」
今季で引退を表明し、将来の野球殿堂入りが確実視されているクレイトン・カーショーが言った。
アンドリュー・フリードマン編成本部長も付け加えた。
「心臓がもたなかったよ。間違いなく寿命が何年か縮んだ。でも、こうして勝てたんだから、すべて報われたね」
【絶体絶命を救ったロハスのひと振り】
試合の序盤、ドジャースは万事休すかと思われた。消耗しきった大谷翔平が、疲労困憊のボー・ビシェットにホームランを浴びたのだ。その後、1点差まで迫ったものの、9回表の時点でビハインドを解消できていなかった。そんな絶体絶命の状況で、ロハスが左翼への同点ホームランを放ち、チームを救った。
それでも助かったとは言い切れなかった。9回裏にはブルージェイズが一死満塁の絶好機をつくる。だが得点することはできなかった。
ロハスがまたもチームを救う。セカンドゴロを前進守備でさばいてホームでフォースアウトにしたのだ。次打者アーニー・クレメントは、左中間深めにフライを打ち上げた。レフトのキケ・ヘルナンデスと守備固めでセンターに入ったアンディ・パヘスがウォーニングゾーンで交錯する。ヘルナンデスはグラウンドに倒れ込み、パヘスが捕球した。
試合は延長戦に突入する。それも、英雄と呼ぶにふさわしい(そしてシリーズMVPを確実にする)山本由伸の奮闘のおかげだ。山本は9回のピンチの際に投入されて見事脱し、10回は三者凡退に抑えた。
11回、ついにドジャースは頂上へ登りつめる。
「これは永遠に記憶に残るであろう、レガシーだ」
ロハスは言った。
「これが史上最高のチームなのかはわからない。君たちがあとで言ってくれればいい。でも、史上最高のチームに限りなく近くはある」
少なくとも、ドジャースの選手たちは今、MLB史上屈指の黄金期を築き上げた。
1998年から2000年のニューヨーク・ヤンキース以来のワールドシリーズ連覇。6年間でワールドシリーズを3度制したのも過去6チームだけだ。
なかでも特筆すべきは、今季の彼らが前例のない期待と重圧を背負ったなかで、それを成し遂げた点だ。
「キャンプの時点で、みんなから優勝を期待されていた。それを実現するのは本当に難しかった。
そもそも、選手たちは今季、相手との戦いに勝つことよりも、野球史に名を刻む「偉大なチーム」の座を目指していた。
メジャー随一のスター軍団。年俸総額は課徴金(ぜいたく税)換算で約4億1500万ドルと史上最高額に達した。一方で、高年俸の選手をかき集めて圧倒するやり方は野球界のためにならないとの批判も浴びた。
【迷いを抱えたまま10月へ】
しかし、今季のパフォーマンスは「圧倒」とはほど遠かった。
シーズン開始早々、先発投手に故障が続発し、ローテーションが崩れる。噛み合わない打線に救援陣の不調もあり、後半戦は特に苦しんだ。それでも何とか93勝を挙げ、過去13年で12度目の地区優勝をもぎ取った。しかし、ロハスは明かす。
「クラブハウスで何度も互いに問いかけていたよ。本当にこのチームは強いのだろうか、とね」
長く続いたポストシーズンが、確かな答えをもたらした。
「とにかく1日1日、1球1球、ただ前に進んできた」
スミスは語る。
「自分たちを信じて、チームの力を信じて、『オレたちが最強だ』と信じて、仲間を信じ続けてきたんだ」
この信念が限界まで試されたのが土曜日だった。だが序盤のわずか3イニングで、ドジャースが練り上げた計画が裏目に出る。
ワールドシリーズ第4戦に93球を投げてから中3日で先発した大谷は、第7戦の序盤から苦しんだ。本調子とはほど遠く、スタミナも明らかに限界だった。
1回裏と3回裏の両方で、大谷は表の攻撃で打席に立った影響でマウンドに向かうのに時間がかかってしまう。審判から投球練習の時間を追加で与えられるような状態だった。1回と2回はどうにかピンチを切り抜けたものの、3回にビシェットへ投じたスライダーは2階席に届きそうなほど大きな先制スリーランホームランとなった。スタジアムが揺れる。
ロサンゼルス・レイカーズでプレーしたバスケットボール界のレジェンドであり、現在はドジャースの共同オーナーを務めるマジック・ジョンソンは、ロジャース・センターのスイート席で思わずつぶやいた。
「やれやれ、ここまでうるさい球場は初めてだ」
肩を落とす大谷に、デーブ・ロバーツ監督が交代を告げた。
しかし、投手交代の間、ドジャースの選手たちは気持ちを立て直そうとしていた。ロハスが仲間を鼓舞した。
「試合はまだ終わっていない。戦い続けるんだ。食らいついていこう」
この日の朝、ロハスは試合への出場すら危ぶまれていた。
つづく>>










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