ヒロド歩美 インタビュー 前編(全3回)

 2026年2月に開幕するミラノ・コルティナ五輪で、テレビ朝日の中継番組のキャスターを務めるフリーアナウンサーのヒロド歩美さん。ヒロドさんに注目選手を挙げてもらった今回、まず語ってくれたのは五輪で大きな注目を集めるフィギュアスケートだ。

 代表選考を占う大一番、グランプリ(GP)ファイナル(2025年12月4~7日)を現地取材したヒロドさんの目に映ったのは、17歳の新星・中井亜美選手の躍動、そして佐藤駿選手の驚くべき成長だった。初の五輪日本代表の座をつかんだ選手たちの強さの源泉とは? 現場でヒロドさんが肌で感じた、新時代の幕開けと選手たちの素顔に迫る。

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【目の当たりにした17歳の強心臓】

 ミラノ・コルティナ五輪のキャスターという大役を前に、先日、フィギュアスケートのGPファイナルを取材するため、名古屋のIGアリーナへ行ってきました。私自身、フィギュアスケートの取材は初めてだったので、見るものすべてが本当に新鮮でした。

 まず驚いたのが、氷を滑る「音」です。とくに坂本花織選手(シスメックス)の演技を見ていると、エッジが氷をかく音がすごく力強くて、その音だけで彼女の演技の幅やパワーが伝わってくる。これはテレビではなかなかわからない、現地ならではの発見でした。

 今回、私が特に注目していたのが、女子の中井亜美選手(TOKIOインカラミ)と、男子の佐藤駿選手(エームサービス)です。中井選手は、シニアのGPシリーズ初参戦となったフランス大会(2025年10月)でいきなり優勝し、『報道ステーション』でも「彗星のごとく現れた!」とお伝えした17歳の新星です。

 実際に会場で会った彼女は、最初は少しキョロキョロしていたり、取材中もよく笑っていたりと、本当に初々しい印象でした。ただ一度リンクに立つと、その雰囲気は一変します。

 彼女の最大の武器であるトリプルアクセルが、大会直前の公式練習ではなかなか決まらず、フィギュア担当の記者とも「少し苦労しているね」と話していたんです。本番のショートプログラムでも少し乱れはあったのですが、翌日のフリーでは、それまでの不調が嘘だったかのように、ビシッと完璧に決めてみせました。

 練習でできていなかったことを、本番で、しかもあれだけの大舞台で成功させる。解説の荒川静香さんも「ハートが強い」とおっしゃっていましたが、私も現場でその勝負強さをひしひしと感じました。

 荒川さんが「ルーキーイヤーだからこその勢い」とおっしゃっていた、まさにその言葉どおりで、中井選手も「何も失うものはない」と覚悟を決めている。その思いきりのよさが、見ている私たちまでワクワクさせてくれます。

 さらにすごいなと思ったのが、彼女の心の余裕です。会場には、中井選手がフィギュアスケートを始めるきっかけになった憧れの浅田真央さんが観戦に来ていました。普通なら、レジェンドが見ていると思えば緊張で押しつぶされそうになるところですが、彼女はそれを「見てもらっている」と力に変えたそうです。

 コーチからも「真央ちゃんも見ているから頑張ろう」と声をかけられたと聞きました。憧れの人の前で臆することなく、トリプルアクセルを決め、最高のパフォーマンスを見せて2位という結果に。本当に楽しみな選手です。

【これほどまでに人は変われるんだ......】

 男子では、3位となった佐藤駿選手の精神的な成長に衝撃を受けました。彼の演技の直前、会場はアメリカのイリア・マリニン選手(アメリカ)が見せた、フリーの世界最高得点という歴史的な演技で、異様なまでの興奮とどよめきに包まれていました。

 スタンディングオベーションが鳴りやまないなか、「この直後に滑るのは、いったいどんな気持ちなんだろう」と、勝手に自分に置き換えて緊張してしまったほどです。

 担当の記者に聞くと、佐藤選手は以前、本番でミスが出てしまうことも少なくなかったそうです。でも、そんな状況でリンクに立った彼は、みごとにノーミスの演技をやってのけた。本当にすごいな、と。

 試合後のインタビューで彼は、「(マリニン選手の高得点で)すごい盛り上がりだとわかっていたから、逆にそれを自分の力と自信に変えました」と話していました。今シーズン、彼は意識的にネガティブな思考を消し去り、ポジティブな言葉だけを自分にかけるようにしてきたそうなんです。

 そのきっかけとなったのが、ファンの間でも熱いリアクションで知られる日下匡力コーチの存在でした。日下コーチのおかげでポジティブになれた結果、GPシリーズの中国大会(2025年10月)でも2連覇を果たせた、と。

 ネガティブとポジティブ、その考え方を入れ替えるだけで、これほどまでに人は変われるんだということを、目の当たりにしました。スポーツは技術や美しさを競うものでありながら、メンタルの競技でもあるのだと、あらためて感じさせられましたね。

ヒロド歩美が見たフィギュアスケート新時代 中井亜美の強心臓と佐藤駿の変化に「衝撃を受けました」

【現場でポジティブオーラを放っていたのは?】

 GPファイナルの熱も冷めやらぬうちに行なわれた全日本選手権(2025年12月19~21日)でも、中井選手は総合4位、佐藤選手は総合2位というすばらしい結果に。プレッシャーのかかる最終選考会を乗り越え、みごと初の五輪日本代表の座をつかみ取りました。

 今回、初めてフィギュアスケートの取材をして面白かったのが、ウォームアップエリアでの選手たちの過ごし方です。

ひとり黙々と準備する選手もいれば、仲間と談笑してリラックスする選手もいて、本当に十人十色。

 なかでも印象的だったのは、GPファイナルの女王となったアメリカのアリサ・リュウ選手(アメリカ)です。試合直前とは思えないほどリラックスしていて、まるで学校の休み時間みたいに、壁に座ってスマホを触っているんです(笑)。私のような初対面のメディアにも「ハーイ!」と挨拶してくれるような陽気さで、あの場にいた全員をファンにしてしまうようなポジティブなオーラに満ちていました。

 中井選手や佐藤選手のような若い世代は、こうした世界のトップ選手たちとこれから何度も戦っていくことになります。島田麻央選手(木下グループ)のように、ジュニアで無敗を誇る同世代やさらに若い世代もすぐあとに続いています。

 新しい時代の選手たちが、五輪という最高の舞台でどんな輝きを見せてくれるのか。キャスターとして、その瞬間、その物語を、現地の熱気とともに皆さんにお届けできることを、今から心待ちにしています。

中編につづく

<プロフィール>
ヒロド歩美 ひろど・あゆみ/1991年10月25日生まれ。兵庫県宝塚市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、2014年に朝日放送テレビ(ABCテレビ)入社。2016年に『熱闘甲子園』のキャスターに就任。

その後は『サンデーLIVE!!』『芸能界常識チェック!~トリニクって何の肉!?~』『芸能人格付けチェック』などに出演。2023年からフリーとなり、現在まで『報道ステーション』のスポーツキャスターを務めている。2026年2月6日に開幕するミラノ・コルティナ冬季オリンピックのテレビ朝日系中継番組では、松岡修造とともにキャスターを務める。

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