蘇る名馬の真髄
連載第29回:ステイゴールド

かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。

ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第29回は、平成屈指の個性派キャラであり、香港で迎えた引退レースにおいて劇的なGⅠ初制覇を決めたステイゴールドの走りを振り返る。

『ウマ娘』でもついに実装された異端児 名手の度肝を抜いて引退...の画像はこちら >>
 2025年12月21日、『ウマ娘 プリティーダービー』の新たな育成ウマ娘として、ステイゴールドが実装された。この日のCMで突如発表され、瞬く間にファンの間で話題となった。

 このウマ娘のモチーフとなった競走馬・ステイゴールドは、個性派として多くのファンから愛された1頭だ。とりわけ注目を集めたのは、その特徴的な戦績にある。

 同馬は1996年、2歳(当時の表記では3歳)でデビューし、7歳までの間に50戦ものレースに出走しているのだ。そのうち、GⅠに挑戦したのは20回にも及んで、2着4回、3着2回という成績を残したほか、4、5着に入ったことも多々ある。

 だが、肝心の勝利にはなかなか手が届かなかった。その結果、いつしか「シルバー&ブロンズコレクター」というキャラクターが定着していった。

 ちなみに、こうした成績を見ると、どんなレースでも真面目に一生懸命走る"善戦マン"のイメージを思い浮かべるかもしれない。

しかしながら、ステイゴールドはむしろその逆。気性が荒く、レースでも他馬に噛みつこうとするなど、狂気の一面を持っていた。そういった点がタイトルを得られなかった要因とする声も少なくない。

 ともあれ、すべてが噛み合った時の爆発力は過去のレースでも証明していた。たとえば2001年3月。7歳春に挑んだ海外のGⅡドバイシーマクラシック(UAE/芝2400m)では、当時世界トップの実力を誇った地元UAEのファンタスティックライトを相手に大金星を飾っている。間違いなくGⅠを勝てるポテンシャルは秘めていた。

 そんな個性派の"念願"が叶ったのは、7歳の12月。引退レースとして出走したGⅠ香港ヴァーズ(香港・芝2400m)だった。最後の最後に、またも海外の舞台で世界の強豪を相手にタイトルを射止めたのである。

 14頭立てで行なわれたこの一戦。ステイゴールドは、中団からやや後方の10番手でレースを進めていった。

その馬上には、ドバイでもコンビを組んだ武豊騎手がまたがっていた。

 レースが動いたのは3コーナーすぎ。2番手につけていた外国馬のエクラールが先頭に立つと、すかさず他馬を引き離していく。この馬の鞍上を務めていたのは、世界的名手として知られるランフランコ・デットーリ騎手。策士が意外なロングスパートを仕掛けたのである。

 直線に入ると、エクラールは2番手以下を3馬身以上引き離した。一方、ステイゴールドは中団のまま。直線入口でようやく武騎手がゴーサインを出し、4、5番手まで上がってきた。しかし、先頭との差は少なく見積もっても7、8馬身はあった。

 残り300m。エンジンのかかったステイゴールドは2番手に上がり、前のエクラールを追う。とはいえ、依然として2頭の間には5馬身近い差があった。

しかも、ライバルの脚色は衰えない。絶望的な状況に変わりはなかった。

 ところが、ここからの末脚が驚異的だった。のちに武騎手が「羽が生えたようだった」と語るように、ステイゴールドはものすごい加速でエクラールを追い詰める。途中で内側にヨレるなど、気難しい面を見せながらも、もう一度体勢を立て直して加速していく。

 そしてゴール前、キャリア50戦の思いを凝縮するかのように、ライバルを一気にかわした。映し出されたスロー映像を確認すると、ちょうどアタマ差だけ前に出たところがゴールだった。

 この勝利をもって引退したステイゴールドは、種牡馬として第2のキャリアをスタート。必ずしも「期待が高い」とは言えなかったが、その予想に反して、オルフェーヴルやゴールドシップ、フェノーメノやドリームジャーニーなど、多数の活躍馬を輩出した。現役時代と変わらず、父になっても"意外性"に富んだ馬だった。

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