【箱根駅伝2026】國學院大に出現した次の「山の神」候補 1...の画像はこちら >>

第102回箱根駅伝では、過去最高の総合2位でフィニッシュした國學院大。1区の青木瑠郁、7区の高山豪起とエース格の4年生がいずれも区間賞を獲得するなど、要所で見せ場をつくり、これまで鬼門となってきた5区でも明るい希望が見えた。

青山学院大の3連覇に大きく貢献した黒田朝日(4年)の陰に隠れてしまったものの、1年生の髙石樹は区間4位と好走。待ちに待った逸材のクライマーが出現した。

【食い下がる勢いで走っていたので】

 冷たい風が吹く小田原中継所で肩をぐるぐる回し、國學院大の襷を待っていた。1年生の髙石樹にとっては、初めての箱根路。任されたのは5区である。難所の山上りはタイム差が開きやすく、総合成績にも大きな影響を及ぼす。重要区間の責任は感じても、脚がすくむようなことはない。肝が据わっている"土佐っ子"の顔には、不安の色など見えなかった。いつものように白いキャップを後ろ向きに被り、表情を引き締める。3位で3年生の辻原輝から思いの乗った襷をもらうと、闘志があふれてきた。

「後ろから青学大の黒田さんが来るのはわかっていましたが、負けたくなくて。もう絶対に追いつかれないように走ってやろうって」

 前田康弘監督には5km付近で追い抜かれると思われていたが、いい意味で予想を裏切る。大平台の7km地点での計測では区間4位ペース。

序盤から力強い走りでラップを刻み、チーム順位は依然として3位をキープする。背中から足音が迫ってきたのは9.7km過ぎ。横に並ばれると、フレッシュグリーンはすいすいと駆け上がって行く。それでも、簡単に置いていかれるつもりはなかった。ぐっと歯を食いしばり、必死に背中を追う。

「食い下がる勢いで走っていたので」

 抜かれたあとも、1kmほどは黒田を視界に捉えていたという。異次元の速さに絶望を感じるよりも楽しさを覚えた。ずっと戦ってみたいと思っていた相手のひとりである。入学時から花の2区に思いを馳せたのも、大学トップレベルのランナーたちが集うから。まさか5区で顔を合わせるとは思っていなかった。

【城西大・斎藤との並走】

 テレビカメラに映っていなかった山中でひとりになると、次に後ろから迫ってきたのは城西大の斎藤将也(4年)。前回大会の5区で区間3位と好走している山のスペシャリストだ。テレビでよく知る顔を見ても、臆することはなかった。

「斎藤さんが来てくれたので、一緒に山を上っていこうと」

 途中で前へ出られたものの、大きく離されることはなかった。赤い背中を追いながら、抜き去るタイミングを窺っていた。16km手前で同じ高知工業出身の同期から給水ボトルを受けると、元気が出た。少し体を休め、温存していた脚を解放。ぐんぐんとスピードを上げて、斎藤を徐々に突き放していく。

「下り坂でスパートをかけようと思っていたんです。うまくいきましたね」

 芦ノ湖のフィニッシュ地点が見えると、両手を力強く突き上げ、往路4位でテープを切った。区間4位のタイムは1時間10分05秒。歴代9位のレコードである。当時、東海大(※創価大に編入)の吉田響が出した1年生記録も大幅に更新。のちに「山の神」と呼ばれた青学大の若林宏樹がルーキーの時にマークしたタイムよりも41秒速かった。1年目でのタイムでは群を抜くもの。

さすがに本人も目を丸くした。向かい風が吹いたこともあり、1時間11分10秒から20秒くらいを予想していたという。

「タイムは想定以上でした。いざ上ってみると、あまり苦しくなくて。先輩たちがつないで来てくれた襷をかけていたし、箱根駅伝の雰囲気もそう思わせてくれたのかもしれません。でも、やっぱり黒田さん、斎藤さんと一緒に走れたのが大きかったのかなと思います。すごく楽しかったので。こんな経験、1年目からできないですから」

【前田監督が抱く「いい出会い」からのさらなる期待】

 うれしそうな笑みを浮かべたのは、本人だけではない。山上りの適性を見抜き、5区に抜擢した前田監督も顔をほころばせた。ついに待ち人来る――。大会前から山上り候補について聞かれると、「いい出会いがありまして」と秘密兵器の存在を口にした。具体的に髙石の名前は挙げなかったものの、有力な下級生がいることは明かしていた。

「青学大の原(晋)さんと僕の考え方は似ていて、山上りの選手はつくるのではなく、出会い。今回、原さんから『いい出会いがありましたね』と言われまして」

 前田監督はその先も見据えて起用しており、2年目にはさらに期待を寄せる。次に髙石に狙わせるのは69分切りだ。

「68分台は相当な領域。チャレンジする権利があるのは、1年目にある程度、上った選手です」

 当の本人はクライマーの素質をあまり自覚していない。高校時代から上りを意識したこともなく、得意という認識もなかった。國學院に入り、山の適性を見いだされたが、長い上り坂の練習では苦労を重ねた。

「最初はきつくて、地獄のようでした。うまく上れたというよりも、粘れた感じですかね」

 駅伝シーズンは出雲駅伝、全日本大学駅伝は出走することもなく、11月中旬のハーフマラソン、10000mのレースなども回避。静かに準備を重ねて、本番の1月2日に秘めていた力を存分に発揮した。猛者が集う箱根の山で得た自信と手応えは十分。2区の希望は持ちつつも、再び山に挑む覚悟はある。

「前田監督から『5区で』と言われれば、もちろん、走ります。『山の神』は5代目? 6代目になるんですかね? どちらにしてもなりたい。4年目には黒田さんを超えます、いや、絶対に超えますので」

 負けん気の強い19歳の言葉には力がこもっていた。閉会式後、大手町の雑踏を抜けていく159cmの小さな背中がたくましく見えた。

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