箱根路を沸かせた韋駄天たちの足跡
連載07:神野大地(青山学院大/2014~16年)
いまや正月の風物詩とも言える国民的行事となった東京箱根間往復大学駅伝競走(通称・箱根駅伝)。往路107.5km、復路109.6kmの総距離 217.1kmを各校10人のランナーがつなぐ襷リレーは、走者の数だけさまざまなドラマを生み出す。
すでに100回を超える歴史のなか、時代を超えて生き続けるランナーたちに焦点を当てる今連載。第7回は、「山の神」として青山学院大黄金時代の幕開けに貢献した神野大地を紹介する。
連載・箱根駅伝名ランナー列伝リスト
【「ジンノ」と読み間違えられた約1時間後】
箱根駅伝で驚異的な強さを誇る青学大が初優勝に輝いたのは2015年、第91回大会だった。小田原中継所の招集時に「ジンノ」と苗字の読み方を間違えられた華奢な選手が、約1時間後には日本中を熱狂させることになる。
当時の5区は最長区間となる23.2km。3年生の神野大地は前年に花の2区(区間6位)を担い、11月の全日本大学駅伝は8区を区間3位と好走していた。初めての山となったが、「1時間18分30秒以内では行けるかなと思っていました」と好走する自信を持っていたという。
青学大は1区の久保田和真から好位置をキープすると、トップ駒澤大から46秒差で5区の神野へタスキが渡る。
「最初の1kmを3分05秒の感覚で入ったら、2分48秒だったんです。今日は調子がいいなと感じていました。15分20秒を設定していた5kmは14分47秒で、監督から『動きもゆったりしているし、調子がいい証拠だ。自信を持っていこう』と言っていただいて、その後もペースを落とすことなく、前を追いかけました」
体重43㎏(当時)の神野は山を軽々と駆け上がっていく。雪化粧が残る箱根山中で藤色のタスキに迫っていった。
「駒大に追いついたときは馬場翔大くん(駒大3年)の後ろで呼吸を整えて、脚も休ませました。その後は、馬場くんの表情と動きを見て前に出たんです。あとは1秒でも後ろを離すことだけを考えて走りました」
大平台を通過した時点で「予定よりも1分以上よかった」という神野は、駒大をグングンと引き離していく。そして青学大に初めての往路Vをもたらした。
歓喜のゴール後、神野の区間タイムに誰もが驚かされた。従来よりも20mほど長くなったコースで「山の神」と呼ばれた東洋大・柏原竜二の記録(1時間16分39秒)を超える1時間16分15秒を叩き出したからだ。「マックスで1時間17分30秒だと思っていました」という原晋監督の予想も大きく上回った。
神野は区間2位の選手に2分30秒、区間10位の選手に5分30秒もの大差をつけるダントツの区間賞。往路2位に浮上した明治大に4分59秒もの大量リードを奪うことに成功した。
勢いがついた青学大は復路を独走。
【苦しかった最終学年を経て快走、再び】
翌年度はキャプテンとしてチームを引っ張った神野だが、思うように調子が上がらない。2月に左脚大腿骨を疲労骨折、6月には右脛の疲労骨折が判明。夏から順調にトレーニングを消化するも、アンカーに起用された全日本大学駅伝で失速する。8区19.7kmを59分45秒の区間8位。1年前と比べてちょうど1分悪かった。さらに左脛を痛めて、完全に痛みがなくなったのは12月20日頃だったという。
それでも最後の箱根駅伝で、「山の神」が意地を見せる。連覇を目指す青学大は1区の久保田が飛び出すと、その後は首位を独走。5区の神野にフレッシュグリーンのタスキが届く。2位の東洋大とは2分28秒差があった。
「前回は駅伝の一番おもしろい部分を感じることができたんですけど、今回は7kmぐらいからずっと苦しかったんです。
原監督が神野に与えたミッションは「1時間20分切り」だった。序盤から攻め込んだ神野は、顔を歪めながらも着々と歩を進めていく。
17km付近では腹痛に襲われ、山頂付近では強風にカラダを揺さぶられた。ようやく表情が緩んだのは、20kmの給水地点だ。チームメイトからドリンクを受け取ったときに、初めて笑顔を見せると、左手で小さくガッツポーズをつくった。神野は1時間19分17秒の区間2位で走破。2年連続の往路Vゴールに飛び込むと、チームの連覇に大きく貢献した。
「周囲から『山の神』と呼ばれるのはうれしかったんですけど、重圧もありましたね。期待に応えようという気持ちが強くて、その焦りが次のケガを生んでしまう負の連鎖でした。いま振り返ると、本当に苦しいシーズンだったと思います。その1年間の苦しみに比べれば、5区の80分ぐらいの我慢はなんともありませんでした」
神野は中京大中京高(愛知)時代からクロカン練習や上り坂ダッシュなどをやっていたが、上りを走るのは得意ではなかったという。
「本当に遅かったんです。特に坂ダッシュは嫌いで、高校時代は自分のなかで苦手意識の方が強かったですね」
そんな選手が箱根駅伝の5区で大活躍するのだから、人生はわからない。
「5区は上りが得意かどうかは、さほど関係ないかなと思っています。それよりも限界ギリギリでどれだけ攻めて、いかに我慢できるのか。僕はそれが得意だっただけだと思います」
なお3年時のタイムを現在の距離(20.8km)に換算すると「1時間08分45秒」ほど。11年前の神野大地は本当に強かった。
Profile
かみの・だいち/1993年9月13日生まれ、愛知県出身。中京大中京高(愛知)―青山学院大―コニカミノルタ―セルソース―M&Aベストパートナーズ。大学1年時にはアジアジュニア選手権10000mで銀メダルを獲得。大学駅伝では2年時からチームの主力に台頭し、三大駅伝初出場となった出雲駅伝では6区、全日本大学駅伝では2区でそれぞれ区間6位に。初の箱根駅伝では2区を任され、区間6位と好走し、チームの総合5位に貢献。3年時の箱根では5区を走り、当時の区間新記録となる1時間16分15秒の快走を見せ、チーム初の往路優勝、総合優勝の原動力となり、その名を一気に全国に轟かせた。
【箱根駅伝成績】
2014年(2年)2区6位・1時間09分44秒
2015年(3年)5区1位・1時間16分15秒 *区間新
2016年(4年)5区2位・1時間19分17秒
*区間新は当時



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