レアル・マドリード監督解任の舞台裏(前)

 この2年間、レアル・マドリードほど移籍市場で金を使ったクラブはないだろう。しかし今、その世界最高のチームが危機に直面している。

無冠に終わる屈辱の1年になることをサポーターたちは危惧している。

 そんななか、監督のシャビ・アロンソが解任された。誰もがその理由を、ふるわない成績に求めている。だが、順位表だけを見ていても、クラブ内部で本当に起きている真実は見えてこない。

 公式発表によると、辞任は「クラブと監督の合意のうえ」とされているが、現実はまったく違う。アロンソは、サウジアラビアで行なわれたスペインスーパーカップの準決勝と決勝を終え、チームが帰国するその飛行機のなかで、自身の解任を初めて知った。

レアル・マドリード監督解任劇の舞台裏 シャビ・アロンソは権力...の画像はこちら >>
 その背景にあるのは、ある特定の試合の結果ではない。スペインスーパーカップでバルセロナに敗れたからではない。解任を正当化するような敗戦なども存在しない。

 そこにあるのは、数カ月にわたり続いてきたパワーゲームの結果だ。それは沈黙のなかで絶え間なく続く戦争だ。密室での会合、個人的な電話、そしてもはや修復不可能な関係......。

アロンソには、もはやクラブ内に居場所がなかった。フロントの支持はなく、サポーターの支えもなく、メディアの後押しもない。そして何よりも、彼は選手たちから本当の意味で愛されていなかった。

 レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長は、チームを委ねる人物として、自らアロンソを選んだ。それは彼のレバークーゼンでの活躍を見てのことだ。アロンソは降格圏内にいたチームを立て直し、多くの結果を勝ち取った。無敗でブンデスリーガを制し、ドイツカップも制覇。ヨーロッパのモデルとなるようなチームを作り上げた。その方法は秩序、激しさ、そして完全なコントロールだった。

 カルロ・アンチェロッティの後任となる「重みのある監督」をなかなか見つけられずにいたペレスは、ドイツですべてを勝ち取った若者が、かつてレアル・マドリードでプレーしていたことを思い出す。ペレスは、その「ドイツ式メソッド」がレアル・マドリードを再び頂点に戻すと考えた。

 だが、ペレスという人物は、金儲けには長けているが、監督との関係では常に問題を抱えている。

半年前、カルロ・アンチェロッティを事実上追い出した時も理由はきちんと説明されず、その経緯は奇妙で、不快なものだった。そしてわずか1年もたたないうちに、レアル・マドリードは新監督を解任した。優勝経験のある監督たちはクラブを去り、ベンチは空っぽになった。

 アロンソは「指揮を執る」つもりでマドリードに来た。当初はペレスの後ろ盾もあった。

 すぐにアロンソ流のハードなトレーニングが始まる。長時間のビデオ分析、ピッチ上での絶え間ない指示と修正、周囲の目がある場所での選手への面と向かっての叱責......。それはアンチェロッティとは、まったく異なるやり方だった。

 アロンソはレアル・マドリードの日常を変えようとした。だが、レアル・マドリードはレバークーゼンではない。スペインの首都において、パワー(権力)はベンチだけから生まれるものではない。

 パワーはさまざまな契約や世界的なイメージ、ロッカールームのリーダーたちからも生まれる。

自分だけがトップにあると信じていたアロンソは、権力がどの場所にあるのかを見失っていた。

 3人のブラジル人選手は、アロンソの足元でいまにも爆発しそうな火種だった。

 なかでも最大の問題はヴィニシウス・ジュニオールだ。アロンソはヴィニシウスに、より戦術的な規律とボールを持たない局面での献身的プレーを求め、本能的なプレーには抑制を求めた。しかし、スターとあがめられ、自分のやりたいプレーを制限されることに慣れていなかったブラジル人は、これに反発した。

 アロンソ体制下で、ヴィニシウスはリーグ戦19試合中フル出場6試合。途中出場が3試合で10回も途中交代させられている。しかも、途中交代は70分前後でのものが多かった。

 アロンソとヴィニシウスの関係は急速に悪化していく。それも世界中のカメラの前で。

 10月のクラシコでは、72分に交代を命じられると、ヴィニシウスは怒りのままロッカールームへと直行した。のちに彼はペレスと面会し、この行動について謝罪したが、監督には一切、謝らなかった。

ペナルティとして契約延長は凍結されたが、クラブは彼に罰金は科さなかった。これはチーム内部に向けての非常に強いメッセージとなった。監督より選手を支持する、というものだ。

 ふたり目のブラジル人、ロドリゴの状況も似たり寄ったりだったが、彼は沈黙を守っている。彼はポジションを何度も変えられても、すべてを黙って受け入れていたが、自分がプロジェクトの中心ではないと感じていた。そうしてロドリゴの名前も、ヴィニシウスとともに移籍市場で挙がり始めた。監督と彼らふたりの不和は、クラブ内だけでなく、他チームの経営陣、代理人の間でも広まっていった。

 とにかく誰もレアル・マドリードの現状に満足していなかった。選手たちは言うまでもなく、フロント、メディア、何よりもサポーターが不満を抱いていた。一時期まで首位に立っていたレアル・マドリードは勝ち点を落とし、バルセロナに差をつけられ始めた。

 そして、ここにエンドリッキ問題が起きる。試合中ずっとベンチに座り、悲しげな表情を浮かべる若きブラジル人FWの姿は、最も深刻な「政治問題」となった。

 アロンソは彼を戦力として扱わなかった。出場はわずか、ローテーションにも入れない。監督が好んで終盤に投入したゴンサロ・ガルシアは得点も決められず、試合を決定づけることもできないというのに。

 そしてエンドリッキは期限付き移籍で放出される。移籍先のリヨンはフランスで最強ではなく、リーグアンはスペインのラ・リーガやイングランドのプレミアリーグよりレベルが低い。それでもフランスで、エンドリッキは即座に主役になった。1月11日(現地時間)のデビュー戦でゴールを決め、絶対的レギュラー、チームのスターとなり、監督からも全面的な信頼を得ている。

 この活躍を見て、クラブ内部では彼を手放したのは「戦略的ミスではないか」という声が公然と上がり始める。誰のミスか? アロンソだ。レアル・マドリードにはゴールが足りない。そしてエンドリッキは点を取るために雇われた選手だ。それなのに今、彼はフランスで点を取っている......。

 実はエンドリッキだけではない。ペレスがその将来性に賭けて獲得した他の若き才能たちもみな、活躍していると言うには程遠い。アルダ・ギュレルは出場時間が減り、フランコ・マスタントゥオーノはブエノスアイレスで見せていたようなプレーを再現できていない。
(つづく)

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